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ロボットとクラウドが出会う 実現に向け進む「クラウドロボティクス」

 かつて、人に似せたロボットを作るには、高度な演算処理能力や膨大なデータをコンパクトなボディに押し込むことが大きな課題だった。しかし、クラウドの登場は、この問題に解決策を与えた。ロボットの“頭脳”がクラウド側にあってもよい、というアプローチが可能になったからだ。そうした試みの一つである欧州発の「Rapyuta」が初めて一般公開された。「クラウド+ロボット」が、研究のレベルを出て、いよいよ現実のものとなってきたことを感じさせる。

ロボット用クラウドプラットフォーム「Rapyuta」

 Rapyutaは、ロボットのためのオープンソースのクラウドプラットフォームおよびPaaSフレームワークだ。クラウド内部に、各個体用にカスタマイズされた安全な環境(Linuxベースの軽量コンテナ)を構築できる。ロボットはインターネット経由でRapyutaにアクセスし、クラウドにある演算処理能力を利用したり、そこに蓄積された知識に問い合わせることができる。

 PaaSフレームワークを実装しており、特定のロボティクスアプリの構築も可能だ。開発者がアップロードしたさまざまなコンピューテーションノードを起動したり、WebSocketsプロトコルを利用して起動中のノードとのやりとりもできるという。

 Rapyutaは「RoboEarth」という欧州の研究プロジェクトが開発している。RoboEarthは「ロボット向けのWWW構築」を目指し、オランダのアイントホーフェン工科大学、ドイツのシュトゥットガルト大学、ミュンヘン工科大学、スイスのチューリッヒ工科大学、それにスペインのサラゴサ大学の研究者らが立ち上げた。

 開発は2009年から進められており、欧州連合の助成金を受けている。ロボット向けWWWのアーキテクチャとして、ソフトウェアコンポーネント/マップ/オブジェクトなどが存在する「RoboEarth Database」と「RoboEarth Cloud Engine」で構成される。ロボットはクライアントとしてこれにアクセスする。発表されたRapyutaは、中間層のRoboEarth Cloud Engineの名称となる。

 Rapyutaの名前の由来は、宮崎駿監督の映画「天空の城ラピュタ」という。

ロボットは安価、軽量、パワフルに

 クラウドを活用することで得られるメリットは多い。まず、ロボットが本体に高度な処理能力やデータを持つ必要がなくなる。幸い無線通信は高速になり、信頼性も高まっている。複雑な処理はクラウドに任せ、難しい知識はクラウドにある“集合知”に問い合わせる――。個々のロボットが持つ処理能力は重要ではなくなるので、さらに軽量、小型で、携帯性の高いロボットを作成できる。

 その結果、製造コストが下がるというメリットも見逃せない。ロボットの開発と製造において、クラウドは時間とコストの両面でハードルを大きく下げると期待されている。

 また各ロボットが学習した知識を還元して、巨大な知識データベースを構築すれば、ロボットは、より賢く、高い精度を持つようになる。Wired.comは、このデータベースからデータ分析などを通じての恩恵も受けられ、チームで活動したり、用途によって自分を使いわける“マルチロボット実装”も可能だとみている。

 Rapyutaを紹介するRoboEarthの動画では、朝食の準備をするロボットを例として紹介している。テーブルの上にあるさまざまな物を動かし、いすをそろえるなどの作業を行う場合、複雑な処理が要求される。そこにRapyutaを使えば、ロボットはテーブルの上にある知らない物を写真にとってクラウド経由で照会し、例えば「はちみつのビン」と識別して、どのように取り扱えばよいのかなどの知識を得ることができる。これによって、従来は5時間程度かかっていたような作業を15分に短縮できるという。それだけでなく、洗濯物を干すなど、朝食以外の作業もクラウドのパワーを借りて行える。

 Rapyutaの応用例は無限だ。プロジェクトの一員であるチューリッヒ工科大学のMohanarajah Gajamohan氏は、自動運転などモバイル性が要求される作業への道が開けると述べている。

 一方、「ロボットが人に近づくと、人の仕事を奪う」という古典的とも言える懸念も出てくる。ScienceDailyは、多くの仕事がロボットを通じてデータセンターに集約されることで雇用が縮小するとの懸念と、これに対して大きな問題にならないだろうとする研究者たちの見解を紹介している。業界団体International Federation of Roboticsのレポートによると、ロボットは人間の職を奪うより、雇用を促進する側面の方が強いという。

 また、いくつかのメディアは、ネットワーク化された巨大な知のイメージに、映画「ターミネーター」で人間に反乱を起こした防衛コンピューターシステム「スカイネット」を重ね合わせた。ロボットが人間に近づくことが、どんな影響をもたらすのか、さらなる議論や研究が進みそうだ。

Googleも注目

 このように、クラウドをロボット分野に活用しようとする取り組みは「クラウドロボティクス」と呼ばれており、RoboEarthのほかにも研究が進められている。Googleは2011年5月の「Google I/O」で、クラウドロボティクス構想を発表し、オープンソースのロボットOS「Robot Operating System(ROS)」をAndroidべースのロボット本体に搭載したロボットのデモなどを行ったと伝えられている。Googleといえば、「Googleカー」こと自動運転自動車で、既にクラウドロボティクスを具体化しつつある。

 そのGoogleと協業して、Robot Operating System(ROS)の開発などを進めているベンチャー企業Willow Garageは、2013年2月にパーソナルロボット「PR2」ベータプログラムを発表した。PR2ベースのロボット10体をロボティクス開発グループに配布し、テストを進めるという。ROSはOpen Source Robotics Foundation(OSRF)という独立した非営利の業界団体が中心となっており、Willow Garageのほか、米国の大学などが参加している。

 RoboEarth、OSRF/ROSなど、クラウドロボティクスは実現に向けて確実に歩みを進めている。

(岡田陽子=Infostand)