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ソリューションベンダーへの転身図る Dellの株式非公開化

 Dellが株式を非公開化すると正式に発表した。MBO(Management Buyout=経営陣が参加する自社株買い取り)方式で、創業者兼CEOのMichael Dell氏が投資グループらとともにDell株式を総額244億ドルで買い取る。また、Microsoftも20億ドルを「融資」する。非公開企業として再出発を図るDellが狙うのは、ソリューションベンダーへの転身だ。

苦境続くかつての王者

 Dellの株式非公開化は、今年になってBloombergが報じ、その動向に注目が集まっていた。2月5日の発表によると、買収総額の244億ドルの中には、Dell氏個人の資金やDell氏の投資会社などが払う7億5000万ドルが含まれる。このほか、買収ファンドのSilver Lake Partnersが14億ドル、Bank of Americaなど銀行4行が計約160億ドルを拠出。Microsoftも20億ドルを出資する。

 買収価格は、Dellの1月半ばの株価に25%のプレミアムを付けた13.65ドルだ。7月の完了を目指しているが、主要株主の間から「244億ドルは価値を過小評価している」との不満が上がり、委任状争奪戦や訴訟まで含めた対抗措置を取る構えだ。買い取りの行方は不透明になっている。

 Dellは、1984年、当時テキサス大学の学生だったDell氏が創業。直販の“Dellモデル”として注目を集め、一時代を築いた。2000年代前半、PC市場のトップとして君臨したが、2007年、HPに王座を譲り、かつての輝きを失っていく。同年、一度は経営から退いていたDell氏がCEOに復帰。翌2008年に、利ざやの薄いPC事業からサーバーやデータセンターなどエンタープライズベンダーへの方向転換を打ち出した。

 こうして、ストレージのCompellent、ネットワークのForce 10、ITコンサルのPerot Systems、セキュリティのSecureWorksやSonicWALL、クラウドのBoomiやGale Technologiesなどを次々と買収。企業買収に投じた額は130億ドルにものぼる。

 それでも業績は思わしくない。直近の四半期(2012年8-10月)の売上高は前年同期比11%減の137億2100万ドル。純利益は47%も減って4億7500万ドルとなった。Gartnerの調査によると、2012年のPC市場におけるDellのシェアは10.7%で3位。4位には、GatewayとeMachinesを飲み込んだAcerが、わずか0.3ポイント差で迫っている。最近のDellの株価は2007年の半分程度という低迷ぶりだ。

「プレッシャーを受けずに改革を」

 Dellが非上場化で狙うのは何だろう? 従業員にあてたメモでDell氏は次のように述べている。「Dellの変革は順調に進んでいる。だが、まだ時間、投資、忍耐が必要だと認識している。(非上場化により)Dellのイノベーションと変革のための戦略を長期的に支援してくれるパートナーから、さらなる支援を得られる。社内そして社外の投資に対して柔軟に決断でき、長期的に事業を成長させることができる」(Wall Street Journal)。

 さらに、CFOのBrian Gladden氏は「公開企業にあるプレッシャーによる制限を受けることなく、エンドツーエンドのソリューション企業にむけての戦略を追求できる」と、よりかみ砕いた説明をReutersに語っている。

 メディアの評価は、「大きなギャンブル」(New York Times)、「大胆な動き」(The Register)、「無謀な賭け」(All Things Digital)など、危険の大きさを指摘し、どちらかというと批判的なものが多い。

 だがアナリストの多くは、好意的な見方を示している。Forrester Researchのアナリストはブログで、公開企業ならば利益を出しつつ変革戦略を進めねばならない難しさがあるとした上で、「顧客にとってはリスクが緩和される」「潜在的なメリットがあると(非上場化を)強気に見ている」とDell氏の決断を支持した。

 ISI Groupのアナリストは「株主から買収金額が割安だと批判を受けるかもしれない」と前置きしながら、「非上場化は理にかなっている」とWall Street Journalに語っている。否定的だったのは、Ovumのアナリストで、先行きの不透明から「Dell顧客企業のCIOは、購入計画を少なめに修正するのではないか」とAll Things Digitalに危惧(きぐ)を述べている。

 Wall Street Journalは「Inside Michael Dell's World」というタイトルの記事で、経営を一手に握るDell氏についてDell氏やDellに近い人への取材を通じて、将来を占っている。そこでは、自分の築いた財産を心配する創業者像が浮かび上がってくる。同氏に近い人物によると、Dell氏は2007年のCEO復帰以来、ほとんど熱意や感激を見せていないという。

 また、ライバルのHPがPC事業売却を検討しているという話が流れた際に「大きな間違い」とコメントするなど、ルーツであるPC事業に固執する一面も描かれている。こうした話を紹介しながら、Wall Street JournalはDellの当面の課題として、買収した“パーツ”の技術的/組織的統合を挙げる。

Microsoftの狙いは?

 また、このMBOで特に注目されているのがMicrosoftの融資だ。“ワイルドカード”ともThe Registerは形容するが、「PCエコシステムの存続で重要なメーカーであるDellを救済する」というのが大方の見方だ。

 セント・ジョーンズ大学のAnthony Michael Sabino教授は「共生関係だ。DellはMicrosoftの製品のプラットフォームなのだ」とComputerworldに述べ、「Dellを助けることでMicrosoftは重要な顧客を維持できる」と分析する。

 またComputerworldは、DellがLinuxへの傾くのを阻止する狙いがあるとのIDCのアナリストの見解も紹介している。ここでいう「Linux」は主にGoogle ChromeやAndroid、つまりコンシューマー分野だ。Dellは2012年末、Ubuntu OSを搭載した開発者向けノートPC「XPS 13, Developer Edition」(Project Sputonik)を発表している。

 だがComputerworldやInfoWorldは同時に、エンタープライズでのDellつなぎ止めの方が大きいとも指摘する。利益の大きいエンタープライズはMicrosoftにとっても重要であり、なおLinuxと激しい戦いを展開している。Dellはサーバー事業でWindowsとLinuxを提供しており、出荷台数ではトップとなっている。

 かつてMicrosoftウォッチャーだったAll Things DigitalのIna Fried氏は、OEMをレストランに、Microsoftを食材のサプライヤーに例えて、Microsoftの現状を分析する。Microsoftは2012年秋に投入したタブレット「Surface」によって直営レストランを構えただけでなく、今回のDellへの融資によって、大手レストランの大家になった、とFried氏は言う。融資は受けるが独立性は維持するというDellの姿勢は難しいと見ている。

 IT業界は激動の中にある。主な要因はモバイルとクラウドだ。Apple、Amazon、Google、Samsungなどがコンシューマリゼーションを主導する一方で、エンタープライズ側では、早々にPC事業から撤退してソリューション中心に転身を遂げたIBMや、数々の業務ソフトウェアベンダー買収でエンタープライズでの地位を確固たるものにしたOracleなどがリードしている。HPは公開企業のプレッシャーの下で複数のCEOが戦略を実行している。そんな中でもDellの遅れは目立っていた。

 Forresterはエンタープライズでの必須要素として「ハードウェア+コアシステム+管理+パッケージアプリケーション+サービス」を挙げる。Dellには、そのパーツがほぼそろいつつある。大きな決断がそれらを生かすことができるか、株主らの動きもあわせて、注視が必要だ。

(岡田陽子=Infostand)