データセンターの電力浪費と環境汚染 New York Timesレポートの波紋


 クラウドを支えるデータセンターは、エネルギーを浪費して環境に優しくない――。New York Times紙は9月22日付で「Power, Pollution and the Internet(電力、汚染、そしてインターネット)」という記事を掲載して、データセンターのエネルギー利用の非効率と環境への悪影響の検証をスタートさせた。1年間にわたる調査に基づく調査報道の第1回だ。ただし、テクノロジー系を中心とする他メディアからは、一斉に異論も出ている。

 

「データセンターは電力を浪費し、環境を汚染している」

 「世界のデータセンターは、原発30基分に相当する300億ワットの電力を消費している」。記事は、調査と専門家による試算を活用しながら、こうしたショッキングな数字を挙げている。執筆したJames Glanz記者は、9.11テロの記事で2002年にピュリツァー賞解説部門で受賞した時の中心メンバーだ。

 その冒頭は、Facebookの逸話だ。2006年、ユーザーの急増に直面した開発担当者が、賃貸したばかりのデータセンター施設にサーバーを詰め込み、熱をなんとかやりくりするため、近隣の小売店で扇風機を片っ端から買い集めて、ようやくしのいだという話だ。

 New York Timesは一般紙なので、「データセンターとはなにか」など、ハイテクにあまり縁のない読者にも分かりやすくなるよう丁寧に説明しながら、消費者と企業の活動を下支えするデータセンターの実態に迫ろうとしている。その結論として、なぜデータセンターが環境に優しくないのかを訴えている。

 例えば、電力浪費については、「原発30基分」のほかに以下のように指摘している。

・世界のデータセンターが消費する300億ワットのうち、4分の1から3分の1を米国のデータセンターが占める
・コンサル企業McKenseyの調査によると、サーバーが実際に利用するのは、このうち6-12%にすぎない
・無駄なエネルギーは、基本的な目的のために必要な電力の最大30倍に達する

 「汚染」については、非常用電力対策のディーゼル発電が環境規制に違反するレベルに達していることを取り上げている。2010年秋にノースヴァージニア州のAmazonのデータセンターで基準値を上回ったため、同社が最終的に26万ドルの罰金を支払った(Amazonは当初55万ドル以上を課された)例を挙げる。

 記事では、電力浪費問題は「業界の知られたくない秘密だ」という匿名の関係者のコメントを引用。業界は可用性を重視するあまり、電力浪費にはなかなか目を向けないのだと分析する。FacebookやGoogleなどオンライン企業の中には対策をとる企業も出てきているが、それでもFacebookは6000万ワット、Googleは3億ワットを消費しているという。

 Glanz氏は「デジタル化によりエネルギーやリソースが節約されると信じられている」としながら、2010年、米国のデータセンターは760億キロワット時の電力を消費したのに対し、デジタル化に取って代わられると言われる紙の業界(670億キロワット時)を既に上回っていると指摘する。

 

「新しい技術革新に触れていない」

 記事は、ハイテク業界とデジタル時代のユーザーを戒めるようなトーンとなっている。だが、これを受けてテクノロジー系メディアなどが次々に反論を掲載している。

 Forbesは「古いデータと古いコンセプトの焼き直しに過ぎず、今日のデータセンター市場にはあてはまらない」と批判。さらに、記事が見過ごしている点として以下を挙げる。

・3分の2以上のアプリケーションは、仮想化により1台の物理マシン上にほかのアプリと一緒に動いている
・データセンターコンソリデーション(統合)が進んでおり、米政府も推進している
・DCIM(データセンターインフラ管理)といわれるデータセンター自動化技術が急速に成熟している

 Informationweekも「仮想化のトレンドを見過ごしている」と指摘。McKenseyがはじき出した「6-12%」という数字は、1アプリにつき1台のサーバーを利用した場合の稼働率に見える、と述べている。また、Gigaomなど複数のメディアは、Facebookが2011年に立ち上げた、効率のよいデータセンター構築に必要な仕様「Open Compute Project(OCP)」などを挙げている。

 だが、New York Timesが援用した情報が古いことについては、擁護する声もある。WiredやGigaomなどは、データセンターに関する情報は秘密にされていることが多く、最新の状況について正確な情報を得るのが難しいと述べている。

 データセンターは、攻撃を恐れて場所すら秘密にされていることも多い。まして、使っている技術を公開するところは少なく、「Googleなど新世代のデータセンターを構築しているところもあるが、その最新情報は得にくい」と説明している。

 The Vergeは、2010年のデータセンターの消費電力量が2005年の2倍になるという米環境保護庁(EPA)の2007年時点の予想に対し、2011年にスタンフォード大教授のJonathan Koomey氏が発表した実際の増加率をあらためて持ち出す。Koomey氏の計算では、増加率は56%で予想を大きく下回ったというものだ。

 Koomey氏自身も、New York Timesのユーザーフォーラムに登場し、ITのメリットはコストを上回ると主張しているという。サーバーやノートPCなどは世代が新しくなるごとに電力効率が改善し、「今日データセンターが消費する電力は全体の1.3%」とKoomey氏はブログで記している。また、フォーラムに登場したGoogleのUrs Holze氏の「運輸は25%」との指摘を比較参照用に挙げている。

 

問題はネット企業ではなく一般企業のIT

 New York Timesの記事をきっかけに、独自の議論に発展させている記事も目立つ。例えばWiredは、先進的な取り組みとして、ノースカロライナ州に構築した最新のデータセンターにソーラーパネルを敷き詰めたAppleやGoogleを紹介した後、これらの最新技術の導入は通常の企業には難しく「新しい種類のデジタルデバイドが起きている」と指摘する。Gigaomも、ハイテク企業ではなく「自社でITサービスを運用する企業が最新技術を受け入れていないことが問題」と同趣旨の主張を述べている。

 Computerworldは、部分的に異論はあるものの、影響力のあるNew York Timesのようなメディアがデータセンターの環境問題を取り上げたことで、関心が高まる効果があると評価する。特に、データセンターを誘致する地域側が今後、経済効果と環境への影響を考慮することが期待できるという。また、米エネルギー省が業界にエネルギー効率を改善するよう求めていることにも触れ、「現在は規制化の動きはないが、今後どうなるかは業界次第だ」としている。

 記事が刺激になったことは間違いない。New York Timesが言うように、「節電してもボーナスはないが、99.999の可用性を維持できればボーナスがもらえる」と指摘している。事業者が環境配慮よりもビジネスを優先させがちなことは否定できないのだ。

 こうした視点に対し、Gigaomは「(記事に)いくつかの読み誤りはあっても全体の論点は正しく、インターネット業界がもっとCO2排出についての意識を高めるきっかけになった」と評価している。

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(岡田陽子=Infostand)
2012/10/1 09:03