サブスクリプション推進の賭け 「Office 2013」の新価格体系
Microsoftが次期Office「Office 2013」の価格を発表した。サブスクリプション形式のオンライン版を提供する初のOfficeで、7月の正式発表以降、その価格体系がどうなるのかが注目されていた。公表された価格からは、同社がオンライン版を推進していることが明確になった。ユーザーはどう選択すればいいのだろう。
■サブスクリプション「Office 365」に有利な価格設定
発表されたOffice 2013の価格体系は以下のようなものだ。従来型のオンプレミス版は「Office Home and Student 2013」(「Word」「Excel」「PowerPoint」「OneNote」)が139.99ドル。「Office Home and Business 2013」(+「Outlook」)が219.99ドル。「Office Professional 2013」(+「Outlook」「Access」「Publisher」)が339.99ドルとなる。
サブスクリプション版は「Office 365 Home Premium」が年間99.99ドル(月額8.33ドル)。「Office 365 Small Business Premium」が年間149.99ドル(月額12.5ドル)だ。それぞれ、Word、Excel、PowerPoint、OneNote、Outlook、Access、Publisherが含まれ、オンラインストレージSkyDriveの20ギガバイト、60分のSkype通話もバンドルする。さらには、1契約で5ユーザー(端末)まで利用できるなど、お得感のある価格パッケージといえる。
これだけでもサブスクリプション版がずいぶん魅力的に見えるのだが、今回のオンプレミス版の価格には、さらに2つのマイナスポイントがある。
まず、現行版「Office 2010」(1パッケージで1ライセンス版)と比べると10-17%の値上げとなること、そして従来提供してきた「複数ライセンスパッケージ」の廃止だ。これまでMicrosoftは一部市場で、Office Home and Studentでは3ライセンス、Home and BusinessとProfessionalでは2ライセンスのマルチライセンスパッケージを販売してきた。
2013では、この複数ライセンスがなくなるため、1パッケージで1ライセンスとなり、複数端末で利用する場合は、台数分の購入が必要となる。つまり、1ライセンスでみても値上げとなるだけでなく、複数ライセンスが必要な場合はさらに高くなるのだ。Home and Studentの場合、現行版の3ライセンスパッケージは149.99ドル、2013では139.99×3で419.97ドルとなり、なんと180%の大幅値上げとなる。
■どちらがお得かの計算は……なかなか複雑
各メディアは、Office 2013の価格発表を受け、「サブスクリプションか、オンプレミスか、どちらが安くなるのか」をそれぞれ計算して、比較を試みている。
PC Worldは「複数のシステムで利用する小規模企業あるいはホームユーザー、もしくは1人で複数の端末でOfficeを利用したいのであれば、サブスクリプションを選ぶべきだろう」とする。そして、Microsoftが示したモデルケースとして、1台のPCをリビングで共有し、MacとPCを両親が、子どもがPCを所有、さらにWindows 8タブレットを買う計画があるという例を挙げる。
Officeのアップグレードを4年ごとに行うと想定すると、5台にインストールできるサブスクリプションなら4年間で399.96ドル(年間99.99×4年)だが、オンプレミスでは699.95ドル(139.99×5ライセンス)になる。サブスクリプションにはさらに、Outlook、SkyDriveやSkypeの“おまけ”がバンドルされる。
MicrosoftウォッチャーのEd Bott氏はZD Netのブログで、「PC、Mac、タブレット、ノートPCなどがあり、ファイルやOfficeアプリを端末間で共有したい場合は、1年から2年のスパンでみると一家で年間100ドル(正確には99.99ドル)のライセンスは決して悪くはないだろう」と言う。企業顧客の場合、年間149.99ドルは安くはないが、「2台以上の端末を利用する場合はオンプレミス版より安い」とした上、多くの場合「サブスクリプションの方が魅力的」と分析する。
だがBetanewsのJoe Wilcox氏は、そこに疑問を投げかける。一見、“おまけ”の多いサブスクリプションだが、さまざまなフリーソフトウェアがインターネット上で手に入る現在、SkyDriveやSkypeなどが本当に必要なのかというのだ。同時に、サブスクリプション価格には、今後、値上げの可能性がある点も指摘する。そして、「アップグレードの頻度と家庭で求める機能によって、割安なのか割高なのかは異なる」と結論づけている。
Computerworldは「Officeのアップグレードサイクルは平均5年」というアナリストの解説を基に、ユーザー数で計算した。すると、1-3ユーザー(ライセンス)までは、実はサブスクリプションの方が高くなる(1ライセンス/5年の場合、サブスクリプションでは年間コストは99.99ドル、オンプレミスでは139.99÷5で年間27.99ドル)という。分岐点は4ライセンスで、4以上のライセンスを必要とする場合にのみ、サブスクリプション版の方が安くなると計算している。
■ユーザーはサブスクリプションを受け入れるのか?
とにかく価格付けを見る限り、ユーザーをサブスクリプションに移行させたいというMicrosoftの狙いは明確だ。Bott氏は、Microsoftが証券取引委員会(SEC)に提出した年次会計報告書(Form 10-K)から、同社がサービスを中心とした戦略に大きく変換する計画であることを指摘する。
Microsoftの製品は、Windows OSに関心が集まり気味だが、最新の業績ではOfficeを含むビジネス部門の売り上げは240億ドル(WindowsおよびWindows Liveの売り上げは183億ドルで、これを大きく上回る)というドル箱事業なのだ。要となるOfficeをサブスクリプションに移行させることは、Microsoftの新戦略へのシフトで重要な作業といえる。
アナリストの意見はどうだろう。
IDCのAl Hilwa氏は「サブスクリプションモデルは売り上げの予測が立てやすく、Microsoftはこのモデルへのシフトを積極的に受け入れている」とComputerworldに述べている。Hilwa氏は同時に、定額を払ってソフトウェアを利用するという考え方をコンシューマーは受け入れるかについての懸念を指摘する。
実際、Microsoftのサブスクリプション製品は初めてではないし、それらは成功したとは言えない。例えば、2008年に開始したセキュリティの「OneCare」とOfficeを組み合わせた「Equipt」は、1年もたたないうちに終了している。
ComputerworldはOffice 365の価格が、発表当時に予想されていた月額6ドルよりも割高であるとして、Office 365がお得に見える価格体系にあっても、永続ライセンスからサブスクリプションへのシフトがうまくいくかの疑問が残るとしている。
こうしたことから、Hilwa氏は「Microsoftにとって重要なのは、ユーザーが新しいOfficeを買うことであり、(オンプレミスかサブスクリプションか)どちらでもいいのだろう」とコメントしている。
Office 2013の発売時期は、まだ明らかにされていない。