Symbian、LiMo、Android― オープンソースがモバイル再編を加速?



 携帯電話最大手のNokiaが、携帯電話用OS「Symbian OS」を提供するSymbianを買収、Symbian OSとユーザーインターフェイス(UI)技術をオープンソース化すると発表した。Symbian OSは世界のスマートフォンで6割のシェアを持つ最大勢力である。それがオープンソース開発モデルをとることの影響は大きい。オープンソースがモバイル分野の中で、プロプライエタリを上回る勢力になろうとしている。


 Nokiaは6月24日、2つの発表を行った。Symbianの買収と、Symbian OSを管理する組織Symbian Foundationの立ち上げだ。Symbian Foundationでは、Nokia(アプリケーションプラットフォームはS60)、それにSony Ericsson/Motorolaが出資するUIQ Technology(同UIQ)、NTTドコモ(同MOAP)の3社がSymbian用UIを提供し、包括的な携帯電話用プラットフォームを作成。「Eclipse Public License(EPL)1.0」の下でソースコードを公開する。

 同団体にはスタート時点で、端末メーカー、オペレーター、ハードウェアベンダーなど世界から20社強が参加を表明している。一連の発表は、昨年11月、Googleが「Android」と同プラットフォームを支援する団体「Open Handset Alliance(OHA)」を発表したときと同様の手順である。

 これに続いてLinux陣営にも大きな動きが出た。Symbian Foundationの設立の2日後、モバイルLinux業界団体のLinux Phone Standards(LiPS) ForumとLiMo Foundationが統合を発表したのだ。今後、LiPSの技術やメンバーはLiMoに移管され、開発作業は今年4月にバージョン1.0がリリースされた「LiMo」に一本化する。

 モバイルLinuxでは、これまで複数の業界団体やベンダーが乱立していたが、ここにきてLiMoが抜け出しつつある。なおモバイルLinuxには、Palm Sourceを買収したACCESSの「ACCESS Linux Platform」もある。


 こうして、モバイル分野には、Symbian、LiMo、Androidという巨大オープンソース陣営ができあがることになった。

 まず、現在のモバイルプラットフォーム市場のシェアをみると、Symbianが65%、Microsoftが12%、Research In Motion(RIM)が11%、Appleが7%、Linuxが5%となっている(2007年第4四半期のCanalys調査)。

 ここにオープンソース開発が勢いを増すことで、どんな影響が出るだろう? ZDnetのLarry Dignan記者はブログで、プロプライエタリ群のなかでは、RIMとAppleは無傷だろうとみている。つまり「Blackberry」のRIMは今後もエンタープライズで築いた地位を守るだろうし、この1年でモバイル業界にドミノ効果をもたらしたAppleは、iPhone 3Gの投入で独自の路線を拡大していくだろう。したがって打撃を受けるのは、Microsoftということになる。

 オープンソース群ではどうだろう? オープンソース活性化の触媒の役割を果たしたAndroidについて、Symbian Foundation設立発表の直前、The Wall Street Journalなどがスケジュールの遅れを伝えた。Googleは当初、Androidベースの端末は今年後半に登場としていたが、間に合いそうにないというものだ。その後、Googleは否定しているが、ともかくAndroidは、まず実機を登場させることが課題となる。

 その点、Symbianにはすでに実績がある。Nokiaは、Googleと戦うにあたって、Androidと同じくオープンソース団体という方法を選んだ。これならば同じ土俵に立てる。世界最大シェアという強みを最大限に生かして圧倒的なリードを保ち、開発者をつなぎとめ、牙城を守ろうというわけである。


 だがSymbianにも課題はある。Linux Foundationの執行ディレクターであるJim Zemlin氏は、InformationWeekの取材に対し、オープンソース関連のライセンス、ガバナンスの問題をスムーズに乗り越えられるだろうかと指摘している。対Google、対Appleとの戦いでは、ほかにマーケティングやブランディングという課題もある。

 残るLiMoだが、同団体執行ディレクターのMorgan Gillis氏はForbes誌のインタビューで、Symbianは携帯電話に特化しているが、LiMoはもっと用途が幅広いと説明している。またGoogleについては、一から新しいプラットフォームを構築しようとしているが、技術の成熟度は資金を投入するだけでは得られないと述べ、自分たちの優位性を強調している。

 モバイルのプラットフォームをめぐる激戦が始まろうとしているが、BusinessWeek誌は、実はGoogleにとってAndroidが成功するか否かは主要な問題ではない、とみている。Googleにしてみれば、インターネットに接続する高度なスマートフォンが増えてモバイルインターネットが一般化すれば、広告検索事業が拡大して収益が増えるからだ。市場が活性化するだけで十分なのである。

 もっと大きな図を見れば、モバイル市場は、現在、オペレーターやOSによる制約を受けており、その結果、ユーザーの利便性が犠牲になっている。固定ブロードバンドとPCのような世界は、モバイルではまだ遠い。モバイルインターネットが離陸するには、端末を“自由”にする必要がある。そんななかでオープンソース開発モデルが、分断化されているモバイル市場をオープンにできるかが、注目される。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/7/7 09:05