「.com」はもう古い? ICANNがドメインを自由化



 インターネットのアドレスなどを管理する国際団体ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)がドメイン名の自由化策を打ち出した。「.nyc」など、出願者が作成したドメイン名が可能になる。だが、ICANNの大胆な方向転換に懸念の声も聞かれる。ドメイン自由化は、ICANNの狙い通り、アイデンティティ表現を実現するものか、それとも混乱を招くのか?


 インターネットのアドレスであるトップレベルドメイン(TLD)は現在21種類。ポピュラーな「.com」、組織を示す「.org」、教育機関の「.edu」などで、現在、企業・団体や個人は自分のWebサイトの目的に最も近いものを選んでいる。

 ICANNの方針転換は、このTLDの命名規則を大きく変更するものである。ICANNは6月26日にパリで開催した理事会で、TLDを原則として自由化するという改正案を承認した。これによって、Webサイト運営者は自由にドメイン名を作成できるようになる。「インターネットの歴史始まって以来、最大の拡大」「インターネットの“不動産”を大規模に増加させるもの」(ICANNのCEO兼会長、Paul Twomey氏)としている。企業や組織は、顧客やターゲットユーザーを呼び込む上で最も有効なもの、マーケティングに適切なもの、を自分たちで作成して利用できるようになるという。

 たとえば、「.bank」などの業種、「.ebay」などの企業やブランド名のほか、「.nyc」「.berlin」などの都市名ベースのTLDも考えられるようだ。The Wall Street Journalなどによると、登録料は10万~50万ドルになる見込みという。

 また改正案には、ローマ字以外の文字を認める方針も盛り込まれている。中国やロシアなど、非ローマ字のインターネットユーザーが急増しており、「(文字種の拡大は)インターネットで自分を表現する新しい方法になる」(Twomey会長)という。


 Webサイトの数は増え続けており、VeriSignのまとめによると2008年第1四半期のドメイン名登録数は、前年同期比26%増を記録したという。ICANNはこれまで、「.info」「.biz」など少しずつ種類を増やすという対応策をとってきたが、今回の改正案では一気に自由化に踏み切る。だが、この自由化は果たしてICANNが描く良い効果だけをもたらすのだろうか?

 懐疑派からは、これまでドメインが増えるたびに問題となってきた“サイバースクワッター”の増加を懸念する声が上がっている。サイバースクワッターは、ドメインを購入、いちはやく“占拠”し、高く転売しては利益を上げる業者だ。ドメインの自由化によりTLDが無制限に増えることは、彼らの商機となるかもしれない。ZDNet英国版は「企業は、新しいTLDが誕生するごとに(サイバースクワッターとの衝突を避けるため)自社ブランドのドメインを登録するはめになる」との弁護士のコメントを紹介。ドメイン自由化は、ブランディングやマーケティング部門の頭痛の種になるだろうとしている。

 ICANNは、こうした事態も予想しており、商標保持者の利益を保護する仕組みや適切性を評価する仕組みについて検討していくと述べている。組織的、技術的に運用可能かどうかについても審査するという。


 調査会社のGartnerは、同様の混乱を予想すると同時に、新制度の活用を提言している。たとえば、eBayが「.ebay」を作成し、車のオークションには「auto.ebay」、シカゴ地域でのオークションには「chicago.ebay」など、うまく利用すれば、ブランド強化などさまざまな効果が考えられる。「こうしたアプローチが自社にとって価値があるかどうかを検討すべきた」とGarnterのアナリストはリサーチノートでアドバイスしている。

 その一方でGartnerは、今後も「.com」の圧倒的人気は続くとみている。実際、ドメインの種類が増えた現在でも、1億6000万といわれるWebサイトのうち、半数近い7100万が「.com」を利用している。2008年第1四半期に登録されたドメイン名で最も多かったのも「.com」だった。こうしたことから、自由化の影響は限定的との見方もある。The Wall Street Journalは、非ローマ字ドメインへの対応を賞賛しながらも、TLDの増加は、インターネットの成長にとって必ずしも必要ではないとするインターネット業界ニュースレター「Cook Report」の見方を紹介している。

 今回の拡大は、インターネットの急成長を受けてのものだが、ICANNは今後、サイバースクワッター問題など、拡大にあたって懸念されていることが現実のものにならないよう最大限の対策を事前に敷いておく必要がある。また、ドメインを取得する側だけでなく、利用するユーザー側も混乱を招かないよう配慮しなければならない。

 だが、早くも今後の混乱を予感させるような事件もあった。自由化発表の直後、ICANNのWebサイトがハッキングされたのである。ICANNのドメインを乗っ取ったトルコの組織は、リダイレクト先に「自分たちがドメインを支配していると思っているのか?」などのメッセージを残していた。

 ドメイン名の自由化は、最終承認を経て、早ければ2009年第2四半期にも申込受付が始まる見込みだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/7/14 08:49