コンピュータモデルを根本から変える? 「デスクトップ仮想化」の波



 いよいよ本格普及期に入ったサーバー仮想化に続き、デスクトップ仮想化の波が押し寄せつつある。5月はこの分野に関連する主要な発表が相次いだ。各社が関連製品やソリューションを強化していることの表れである。Gartnerは、仮想化を導入したPCは、2007年の500万台から、2011年には6億6000万台に増えると予想している。最近の動きを概観してみよう。

 デスクトップ仮想化は、(1)1台のPC上で複数のOSを動かす (2)中央にあるサーバーで複数のOSを動かし、これをネットワーク経由でクライアント側で利用する――の大きく2つに分けられる。前者は、主に、MacでWindowsを動かしたいといった個人ユーザーのニーズを受けたもので、Parallelsなどが製品を投入している。

 そして、このところ企業の注目を集めているのが後者のネットワーク経由のデスクトップ仮想化だ。このシンクライアントの延長的なモデルを導入するメリットは多い。まず、パッチ適用やアップグレードなどの作業を集中的に行うことで、運用と管理を効率化できる。PC1台ごとにソフトウェアをインストールするのと比べて管理者の負担は軽くなり、コスト削減につながる。また、セキュリティやポリシー順守を徹底でき、災害対策にもなる。もちろん、アプリケーションの互換性問題も解決できる。

 この分野の主要なプレーヤーには、仮想化ブームの火付け役であるVMware、シンクライアント技術の老舗Citrix、Microsoftなどがあり、各社はこの数カ月で製品やソリューションを強化している。

 まず、昨年8月にXenSourceの買収を発表したCitrixは、テキサス州で開いた「Citrix Synergy 08」の初日(5月20日)、XenSourceのデスクトップ仮想化ソフト「Citrix XenDesktop」をリリース。デスクトップ仮想化ベンダーとして再スタートを切った。


 CitrixにとってXenSourceは戦略的に重要だ。同社は主力製品「Presentation Server」(旧Citrix MetaFrame Presentation Server)の名称を「XenApp」に変更。これまでのシンクライアントとアプリケーション配信技術にデスクトップ仮想化を組み合わせ、“衛星放送”のようなデリバリーセンターの構想を打ち出した。同日発表した「Citrix Branch Repeater」、クライアント技術の「Citrix App Receiver」によって、アプリケーション仮想化とデスクトップ仮想化の2つの領域をカバーするソリューションとして、市場に打って出たのだ。

 一方VMwareは「VMware Virtual Desktop Infrastructure(VDI)」を持っている。2006年にハードウェアベンダーらとアライアンスを立ち上げ、市場を盛り上げてきた。今年1月には、接続管理の「VMware Virtual Desktop Manager」を投入し、ソリューションを完成させた。また、アプリケーション仮想化技術ベンチャーのThinstallとFoedus(一部資産)の買収を発表、製品ラインを強化している。

 VMwareはCitrixのイベントの前日にあたる5月19日、VDIの導入や運用などの支援サービスを発表した。また、Sun Microsystemsと提携し、Sunのシンクライアント用サーバー「Sun Ray Software」「Sun Appliance Link Protocol」とVDIを統合することも発表した。これは、VDIをめぐるベンダーのエコシステムを強化するものとなる。

 そしてもう1社がMicrosoftだ。2003年のConnectixの買収などを通じて技術を獲得してきた同社は、2007年に「Windows Vista」導入促進を目的に提供したアプリケーション互換性ツール「Microsoft Desktop Optimization Pack for Software Assurance(MDOP)」を投入した。ソフトウェアライセンス契約プログラム「Software Assurance」顧客向けのサブスクリプションサービスで、アプリケーション仮想化の「Microsoft SoftGrid」などが含まれる。

 Microsoftはさらに、今年1月にCalista Technologiesを買収、デスクトップ仮想化とプレゼンテーション技術を手に入れた。3月には、デスクトップ仮想化管理技術のKidaroを買収、5月23日には、Kidaroの管理技術をMDOPに統合すると発表している。また、Citrixと提携して、自社サーバー/デスクトップとXenとの連携を強化している。

 この市場のプレーヤーはこれだけではない。多くのニッチベンダーも参加している。Linuxに組み込まれている仮想化技術「KVM(Kernel-based Virtual Machine)」をプッシュするQumranetは4月30日、デスクトップ仮想化「SolidICE(Independent Computing Environment)」を発表している。また、XenSourceの元CEOが率いるPano Logic(VMware ESX Serverをサポート)はプロセッサ、メモリ、OSなどを持たないハードウェア「Pano」を発表している。このほかにも、Wyse Technology、ClearCube Technology、MokaFiveなど大小のベンダーがひしめいている。


 このように、一口にデスクトップ仮想化といってもアプローチはさまざまで、各社のソリューションがカバーする範囲は少しずつ異なる。ベンダーの関係をみても、協力と競合が入り乱れている。が、今後、市場は次第に明確にカテゴリ化されていくとみられる。

 こうしたデスクトップ仮想化には、いくつか課題もある。まずプロトコルによる制約だ。MicrosoftのRemote Desktop Protocol(RDP)、CitrixのIndependent Computing Architecture(ICA)などの通信技術は、マルチメディア機能や周辺機器をすべてサポートしているわけではない。

 もう一つがOSのライセンスだ。仮想化の盛り上がりを受け、MicrosoftはVistaのライセンス方式を変更。ライセンス条項を緩和している。だが、仮想環境での利用に関するMicrosoftのライセンス規定が不明確だとする声は多いようで、普及の障害となることも考えられる。

 Gartnerはデスクトップ仮想化を、マシン仮想化とアプリケーション仮想化の2つに定義し、長期的にはマシン仮想化がこれまでのOSを中心にすえたシステムを根本的に変えるだろうと予想している。デスクトップ仮想化そのものは決して新しいコンセプトではない。だが、新技術、インフラの仮想化・自動化などが進んだことと相まって、コンピュータモデルを大きく変える可能性を持っている。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/6/9 10:27