エンタープライズ市場を攻略、iPhoneの「フェーズ2」



 大方の予想通りAppleは第2世代のiPhoneである「iPhone 3G」を発表した。これに合わせて戦略を変更、価格を大きく引き下げ、世界展開を図ろうとしている。高価格の“プレミアム端末”に位置づけていたiPhone最初の1年間を「フェーズ1」とすると、これからは「フェーズ2」となる。Appleはここで、エンタープライズをターゲットにして、ビジネス機能を売り込んでいる。果たしてiPhone 3Gはビジネス端末としても成功するのだろうか?


 まず、iPhone 3Gで強化されたビジネス向け機能を見てみよう。3Gの高速通信、GPSのほか、「Microsoft Exchange ActiveSync」のサポートによって、プッシュ型の電子メール、カレンダーを実現した。メールでは、iWork、PDF、JPEG、Microsoft Word/Excel/PowerPointなどの添付ファイルを利用できる。

 またセキュリティでは、「Cisco IPSec VPN」をサポート、WPA/WPA2 Enterprise、802.1x認証などの規格に対応した。多くは、3月にSDKと共に発表された専用OS「iPhone 2.0」で実現するものだ。

 中でもプッシュeメールとセキュリティは、フェーズ1でビジネス向きとしてはiPhoneに欠落しているとされた機能である。「Worldwide Developers Conference(WWDC) 2008」で、最新のiPhoneを手にしたSteve Jobs氏は、これらのビジネス機能を紹介し、iPhone 2.0のベータプログラムにはFortune 500企業の35%が参加したと胸を張った。

 現在、エンタープライズ分野で世界的に利用されているモバイル端末といえば、カナダResearch In Motion(RIM)の「BlackBerry」シリーズだ。米国スマートフォン市場でのBlackBerryのシェアは42%。iPhoneは20%である(Gartner調べ)。エンタープライズに限定すれば、BlackBerryの比率はもっと高くなる。

 また、エンタープライズ分野では、ほかにも台湾HTCなどの「Windows Mobile」端末や、Palm、Nokiaなどの製品があり、iPhoneはこれらと競合することになる。

 WWDCの直前に発表されたNielsenの携帯電話リサーチ部門のレポートによると、iPhoneユーザーの39%が「ビジネスでも利用している」と回答したという。潜在市場は大いにあるといえそうだ。

 フェーズ2のiPhoneの強みは、まず価格だ。Appleは最新機種の価格をこれまでの約半分の199ドルまで下げた。これは、エンタープライズ向け端末としては低価格帯に入る。

 一方iPhoneの大きな特徴であるデザインだが、エンタープライズでは必ずしも強みにならないかもしれない。BlackBerryをはじめ多くのビジネス向け機種は、QWERTYキーボードを搭載する。両手でフルキーボードを打つことに慣れているビジネスユーザーがタッチベースのiPhoneを受け入れるかが問われる。


 エンタープライズ市場のiPhoneが成功するかについて、メディアの見方はさまざまだ。

 iPhoneを大絶賛したのが「Apple may have killed the BlackBerry」(AppleはBlackBerryを殺すかもしれない」というCNETの記事。いまやBlackBerryと同等のビジネス機能を持つiPhoneの登場により、BlackBerryを選ぶ理由はなくなったという大胆な読みだ。

 多いのは慎重派だ。初代iPhoneで企業での利用に警告を出したGartnerは「実証されていない」(アナリストのKen Dulaney氏、Computerworldの記事で)と慎重な姿勢を示し、Exchangeなどに限定しながら導入すべきだとしている。

 管理面での懸念もある。Computerworldの記事は、最新のiPhoneは遠隔からのデータ消去を実現するが、遠隔からのトラブルシューティングがない点を指摘。RIMが有料でのサポートサービスを提供しているのに対し、Appleには現時点でこれに匹敵するものはないとしている。

 このほか管理では、アプリケーションの配信についても疑問の声があるようだ。SDK提供によってiPhoneのアプリケーションは増えるとみられるが、企業が望むのはまず自社のアプリケーションを動かすことだ。

 Appleはアプリケーション配信として、1)iPhoneアプリケーションのオンラインストア「AppStore」利用、2)特定の業務アプリケーション配信のためのデジタル認証をAppleより取得し「iTunes」経由で配信する、3)小規模グループ用のアドホックモデル、の3つを用意している。エンタープライズでは、2)が推奨されるが、Appleにある程度管理されることや、拡張性に不満を感じている企業担当者の声を、Computerworldは紹介している。

 複数の企業IT担当者の生のコメントを掲載したZDNet英国版では、ファイアウォール、オンボード暗号化機能未対応、シングルタスクOSなどの課題が挙がった。このほかメディアでは、キャリアが限定されることへの不満を指摘するものも多い。

 全体として、「好意的だが慎重」というトーンが広がっている。実物が登場していない現時点では無理からぬことかもしれない。

 iPhone 3Gは7月11日、日本を含む世界22カ国で一斉に発売される。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/6/16 09:05