“ユーザーを買う”それとも“捨て身の一手”-Microsoftの検索ビジョン



 投資家Carl Icahn氏の画策で、MicrosoftのYahoo!買収話が再び動き出し、事態はまた混沌としてきた。そして、その間にMicrosoftは検索分野の重要な発表を行った。Microsoftの検索サービスを使うとユーザーが報酬を得られるというものである。苦し紛れの奇策なのか、それとも起死回生の好手なのか――。


 新サービス「Live Search cashback」は、消費者がLive Searchを使った検索でオンラインの買い物をすると、各ショップの示す比率でキャッシュバックを受けられるというものだ。買い物をすると、あらかじめ開設したアカウントに振り込まれる。

 一方、広告主の方は、成果報酬型で出稿する。現在、検索広告も含めてネット広告の主流はクリック数で課金するCPC(cost per click)方式だが、Live Search cashbackは、CPA(cost per action)方式を特徴とする。ショップはスタート時点で約700社、1000万点の商品をそろえているという。Microsoftのバリューもあってか、Barnes&Noble、Searsなど大手も多く参加している。

 たとえば、Eee PC(8GB版、Linux)を検索してみると、「Newegg.com」というショップがヒットする。このショップ価格が499.99ドル。これに2.8%(14ドル)のキャッシュバックが適用され、実質価格は485.99ドルとなる。送料(12.25ドル)を合わせても498.49ドルと、もとのショップ価格よりも安くなるというわけだ。返還率はだいたい2%から10数%が多い。対象は米国居住者に限定されている。

 Microsoftが、消費者に報酬を支払うのは初めてではない。2007年5月には、検索ゲームで獲得したポイントをマイクロソフト製品と交換できる「Live Search Club」というサービスを導入した。このとき、同社の検索サービスのシェアが一挙に約3ポイント上昇するといった効果が出ている。

 今回のLive Search cashbackは、比較ショッピング・サイトJellyfish.comのサービスを使ったものだ。Microsoftは2007年9月にJellyfishを買収している。時期的に、Live Search Clubとも前後しており、報酬付きサービスに向けた動きは、このころから活発化していたことになる。

 Microsoftは、Live Search cashbackに併せて、1)関連性と選択にフォーカスした最良の検索結果の提供、2)使用目的やデバイスに合わせたユーザー体験の改善、3)広告主と消費者の双方に利益をもたらす検索ビジネスモデルの開発-という検索のビジョンを掲げた。これらが、Google追撃のための戦略ということになる。


 だが、ユーザーに報酬を支払うという手法には、懐疑的な見方も多い。

 The New York Timesのブログ「bits」は、「Microsoft Should Know Money Can’t Buy Love」(Microsoftは、愛はカネで買えないことを知るべきだ)と題し、「実証済みのまずいアイデアの焼き直し」と酷評した。ショッピングは、検索市場ではメインではなく、ささやかなマーケットにすぎないとした上、キャッシュや報酬で顧客を“買う”ようなやり方が、インターネットビジネスで失敗することは、「歴史が証明している」という。

 逆の評価もある。TechcranchのMichael Arrington氏は、「Googleののど元に食らいつくような大胆な手」と分析する。同氏によると、コマース関連検索は全検索の3分の1程度だが、検索ビジネス売り上げの80%を生み出しているという。これがMicrosoftのターゲットだ。

 そして、CPA方式は、広告主のリスクが小さく魅力的となる。キャッシュバックには広告費の一部を原資としてあてるようで、Microsoftの懐も痛まない。また、そもそも同社はこの分野に弱く、失うものはほとんどない。「たいした利益も出ないが、損失を出すこともない。やけっぱちは、時として無茶なことをさせる」、そして「Live Search Cashbackは、現在、Googleのポケットに行っているカネを奪い取ることができる」(Arrington氏)というのである。


 Live Search cashbackの実際は未知数だが、まず、これがYahoo!買収断念表明の直後に発表されたことからは意味を読み取れそうだ。多くのメディアは、Live Search cashbackを、Yahoo!の買収(プランB)に失敗したMicrosoftの“プランC”として紹介している。“Yahoo!を買えなかったので、そのカネでユーザーを買おうとしている”といった調子である。

 しかし、Yahoo!買収とキャッシュバックはもともとセットだったとは考えられないだろうか。先に触れたように、報酬型検索サービスは以前から進めていたものである。そして、Live Search cashbackは検索ビジョンの3)の部分でしかない。1)はYahoo!を指しているように読み取れる。

 であれば今、状況はMicrosoftに好ましい方向に向かっているはずだ。

 買収話が再燃する中で、MicrosoftはYahoo!の検索部門に最も強い興味を持っていることを言明した。そして全体を買収する考えは捨てたが、検索部門だけを“分割買収”するという新しい選択肢を語り始めた。成功すれば、実質的に「プランB+C」ができあがる可能性がある。

 一連の買収騒ぎでYahoo!はGoogleと接近し、両社が検索で提携するという見方が強まっている。実現するとYahoo!自身の検索部門が宙に浮きかねない。Microsoftが受け皿になれば、話としては収まりがいい。そして、Yahoo!には、オープンプラットフォーム「SearchMonkey」など、今後“化ける”可能性を持った検索技術がある。

 Microsoftが捨て身の戦法と、Yahoo!の技術を合わせて、Googleに挑むとなると、これもなかなか予断を許さないことになりそうなのだが…。

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(行宮翔太=Infostand)
2008/5/26 08:23