SunのMySQL買収、Sunの狙いは成功するか?



 年明け早々の1月16日、2つの大型買収のニュースが駆け巡った。OracleによるBEA Systemsの買収、そしてSun MicrosystemによるMySQLの買収だ。前者は買収額が大きいとはいえ、昨年からの継続的な動きが決着したものである。だが、後者のSunのニュースは突然のことで業界を驚かせた。Sunは約10億ドルを出してオープンソースRDBMSベンダーを手に入れる。その狙いは何なのか?


 SunはMySQLを買収後、ソフトウェア、セールス、サービスの各事業部に統合する。Sunの公式発表やJonathan Scwartz CEO氏のブログ、それにGartnerのニュース分析レポートなどから、Sunの狙いを以下の3点にまとめてみよう。

 Sunは、この買収でまずサポート強化を強調している。Scwartz氏によると、(製品としての)MySQLは、GoogleやFacebookなどのIT企業で導入が進んでいるが、他業界の大企業も高い関心を持っているという。だが、その大きな障害となっているのはサポートであり、Sunの傘下に入ることで、MySQLはグローバルなサポートを提供できるわけだ。そうなれば、他のDBベンダーに価格プレッシャーを与え、ユーザーには朗報となる。Sunは買収完了前にサポートの提供を開始できるように進めていくとしている。

 2番目が、オープンソースへのコミットだ。SunはSolaris(OpenSolaris)、Java(OpenJava)、Glassfishなど、自社技術のオープンソース化を進めており、OpenOffice.org、PostgreSQLなどのオープンソースプロジェクトを支援していることでも知られる。MySQLの買収で、オープンソース支持のポジショニングをさらに強固にして、コミュニティの取り込みを狙う。

 Schwartz氏は「(Sunは)インターネット向けの完全なオープンソースOSを提供する唯一のベンダーになる」とブログに記している。

 これは同時に、ヘテロジニアス(異機種混合)環境のサポートとSolaris戦略の強化という3番目の狙いにもつながる。MySQLはLinux、Apache、Perl/PHP/Pythonで構成する“LAMP”オープンソーススタックの一つとして知られているが、SolarisやJavaなど、Sun技術との親和性も強めていく。Gartnerが予想するように、Linuxだけではなく、MySQLがLinuxの次によく実装されているWindowsプラットフォームのユーザーにもアピールできるだろう。

 このほか、ZDNetのブログなどでは、「SOA戦略の強化につながる」と分析している。SunはMySQL買収によって、「Sun Java Enterprise System」をベースとした「包括的なオープンソースSOAを提供できる」(Forresterのアナリストのコメント)といい、これによりRed Hatと競合することになるとも予想している。


 だが、疑問もある。同社がこれまで提携していたDBベンダーとの関係はどうなるのか?、またMySQLの統合は筋書き通りに成功するのだろうか?、という点だ。

 最初の疑問については、今後の様子を見るしかないが、Sun自身は「これまで通り」と主張している。Schwartz氏はブログでとくに、同社がてこ入れしてきたオープンソースDB(MySQLのライバルになる)PostgreSQLの支援と、長年の盟友であるOracleとの関係について、それぞれ「コミットは変わらない」と説明している。

 またこの点については、PostgreSQL開発チームを統括するJosh Berkus氏のブログの方が、Sunの方針を分かりやすく説明している。Berkus氏は「SunはPostgreSQLを捨てるわけではない」とし、「Sunの目標は、MySQLベンダー・ナンバー1でもOracleベンダー・ナンバー1でもなく、データセンターベンダーのナンバー1になることだ」と述べている。

 2点目のMySQL製品の統合については、StorageTekなど、これまでのSunの買収戦略の、あまりうまくいかなかった歴史を振り返っての声だ。これに絡めて、Oracleが今回の取り引きの裏で“糸を引いている”とする見方もある。

 MarketWatchにコラムを執筆しているJohn Dvorak氏は、MySQLの買収を「業界最悪のイベント」と評し、「MySQLを脅威に感じているOrcleが、Sunに買わせた」と分析している。Oracleの狙いは、買収下手なSunに買わせてMySQLをつぶすこと、だという。Dvorak氏は「よくやったLarry( Elison Oracle CEO)」と皮肉たっぷりだ。

 だが、こうした批判的な深読みはあくまでも少数派で、オープンソース支持者を中心に、多くはSunの動きを歓迎している。業界の声を集めたCMSWireを見ると、「オープンソースにとっては朗報だ。Sunの方向性は正しい」(Documentumの共同創業者でAlfrescoのCTOを務めるJohn Newton氏)など、肯定的な意見が圧倒的だ。

 SunのMySQL買収は、5月ごろに完了の見込みだ。評価はさまざまだが、オープンソースの可能性、SunのWeb/ネットワーク戦略の両方を行方を決定することになるだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2008/1/28 09:10