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「BlackBerry 10」投入 起死回生図る新生RIMへの評価は

 ビジネス向けで一世を風靡したモバイル端末「BlacyBerry」のRIM(Research In Motion)が新OS「BlacyBerry 10」を搭載したスマートフォン2機種を発表した。同社にとっては起死回生を賭けた新プラットフォームであり、これに合わせて社名も「BlackBerry」に改めた。新しいイメージを前面に押し出そうという新生RIM/BlackBerryだが、その将来を楽観視するような声は、皆無に等しい。RIMのBlackBerryへの生まれ変わりは成功するのだろうか――。

ようやくの「10」リリース

 RIMは1月30日、BlackBerryへの社名変更とともに、フルタッチ画面の「BlackBerry Z10」と、QWERTYキーボードの「BlackBerry Q10」の2つの新製品を発表した。いずれもBlackBerry 10をベースに1.5GHz動作のデュアルコアプロセッサを搭載。ハードウェア側では1080p HDビデオに対応した8メガピクセルカメラ、マイクロHDMIポート、NFCなどの特徴を持つ。無線方式はLTE対応だ。

 ソフトウェア面では、メッセージやカレンダーなどを管理する「Hub」、ビジネスと個人に分けて管理できる「Balance」、画面を共有できる「Screen Share」などの最新機能を用意し、新ブランド名のアプリストア「BlackBerry World」では、動画や音楽配信にもサービスを拡充する。

 BlackBerry 10のローンチは遅れに遅れた。モバイル市場でiPhone、Androidが支配的になる中、BlackBerryはこれまでのOS(BlackBerry OS)から、買収したQNX Software Systemsの技術をベースにしたOSに作り変える計画を発表した。だが、当初発表したOSの名称「BlackBerry BBX」は商標権に抵触し、「BlackBerry 10」と改名することになった。発表当初は2012年前半にリリースする予定だったのだが、2度の延期を経て、ようやく今回の発表にこぎつけた。

 BlackBerry 10の新機能やBlackBerry Worldブランドについては事前にプレビューや発表が行われいたほか、端末情報のリークもあって、内容的な驚きはなかったようだ。新しい話と言えば社名変更ぐらいだろう。だが、発売までさらに時間がかかることが株主の失望を招いたようだ。Z10は翌日に英国で発売、その後各国に拡大するが、重要市場の米国では3月になる。Q10に至っては、世界的に4月以降という。

 BlackBerryの株価は新製品発表前には期待感で上昇傾向が続き、発表当日の朝も好調にスタートしたが、発表後一気に12%も落ち込んだ。最近の株価はピークだった2008年の10分の1に当たる13ドル程度で低迷している。

新端末は好評なのだが……

 メディアやアナリストの反応はどうだろう。ガジェット分野でその意見が注目されている2人のコラムニスト、Wall Street JournalのWalt Mossberg氏と、New York TimesのDavid Pogue氏の見解は分かれた。

 Mossberg氏はレビュー記事の中で詳細な評価をしながら、アプリの数がApple(約80万)やAndroid(約70万)に比べて、7万とはるかに少ない点などを指摘。Pogue氏は以前、BlackBerryの将来について「運が尽きた」と書いたことを「間違っていた」と謝り、最新OSを搭載した機種の出来を「完成している」と賞賛した。

 注目度の高いBlackBerryのことで、各メディアも詳しく分析を試みている。だがほとんどは、BlackBerry 10端末に一定の評価を示しながらも、企業としてのBlackBerryの将来には懐疑的な目を向けている。

 例えば、BBCが見解を紹介している複数のアナリストのうち、野村証券のStuart Jeffrey氏は、OSからハードウェアまで垂直統合型であるBlackBerryのビジネスモデルについての懸念を示している。

 Jeffrey氏は短期的な需要はあるだろうとしながらも、長期的成功のためには、ライバルがコンポーネント調達で持つ大きな購入力への対策、AppleやSamsungレベルのデザイン、アプリ開発者の獲得、市場への明確なメッセージの全てがそろわねばならないと指摘。「どれが欠けても、業績は比較的小さな法人市場に限定されるだろう。そして、そうなる可能性は高い」と言う。

 ターゲットユーザーを分析したCSS InsightのBen Wood氏は、BlackBerryが(1)既存顧客、(2)元BlackBerryユーザー、(3)ティーンエージャー――の3種類の顧客層を狙っているとした上で、それぞれの状況を分析した。

 すなわち、(1)既存顧客は、同僚や友人がiPhoneやAndroidを持つ中で自分が時代遅れと感じている層であり、この層を維持できなければ「将来はとても不明確になる」。(2)元ユーザーは、BlackBerry 10スマホに興味をもっても、キャリアとの契約に縛られてすぐに飛びつくことはない。(3)ティーンエージャーは、メッセージサービス「BlackBerry Messenger」(BlackBerry同士では無料)を目当てにBlackBerryを使う重要な層だが、新機種は高すぎ、低価格機種の登場を待たねばならない――。

エンタープライズでの強みを失った?

 端末のポジショニングについては、Telecoms.comは2つの異なるアナリストの見解を紹介している。Informa Telecoms&Mediaのアナリストは、BlackBerry Worldで追加された音楽・動画サービスなどコンシューマー市場での競争を意識しハイエンドのスマートフォンユーザーを狙っていると分析した。一方、Ovumのアナリストは、BlackBerryはコンシューマーよりもエンタープライズに向けた機能強化をアピールしていると見る。新規顧客獲得というより「BlackBerryユーザーをターゲットとした最高のBlackBerry」と呼んだ。

 だが、エンタープライズ狙いの機能については、最近のBYODの流れに合ってないの見方もある。Cigital SecurityのアナリストはBBCに対し、企業の多くがiPhoneやAndroid端末向けのBYOD対策を導入しており、BlackBerry 10が提供する高度なセキュリティ機能を必要としている企業は少ないとみる。BlackBerry自身、企業向けのサービス「BlackBerry Enterprise Service(BES)」でiPhoneやAndroidをサポートしている点も指摘した。

 1月末にIDCが発表した最新のスマートフォン調査では2012年のRIMの市場シェアは4.6%。前年の10.3%から3分の1程度にまで縮小している。同社を巡っては、Microsoftによる買収などさまざまな憶測が飛んでいる。

 今年に入って、CEOのThorsten Heins氏がドイツのDie Welt紙のインタビューに答え、OSライセンスや、事業部門の売却などさまざまな可能性があると述べた。さらにLenovoの幹部が関心をのぞかせる発言をしたことから、「Lenovoが買収か?」とうわさされた。BlackBerry 10はそんな中で登場した。

 新しいBlackBerryとBlackBerry 10にユーザーがどう反応するのか――。BlackBerryは重要な時期を迎える。

(岡田陽子=Infostand)