iPhone/iPadのボイコットに発展? Foxconnの製造現場問題が再燃


 2011年度のAppleの決算は過去最高の利益を記録したが、その一方で、製造現場の状況に再び関心が集まっている。iPhoneなど人気製品のサプライヤーである中国のFoxconn(富士康)工場の労働環境がメディアで再度取り上げられ、Appleに対するオンライン請願や不買運動が静かに起ころうとしているのだ。

 

Foxconn工場の実態に再び注目

 Foxconn中国工場での過酷な労働環境は、自殺者が相次いだ2010年に報じられたが、Appleの好業績が続いたことから、あらためてメディアに登場するようになっている。最初は、公共ラジオ局のNPR(National Public Radio)が1月6日の人気番組「This American Life」で、俳優で活動家のMike Daisey氏を取り上げたことからだった。

 もともとはAppleファンだったというDaisey氏は「The Agony and the Ecstasy of Steve Jobs」という一人芝居を演じている。Steve Jobs氏が追求した美しいハイテク製品と、それがどのように作られているかを描いたもので、中国の製造現場を実際に訪れて作った風刺劇だ。

 さらに1月25日付のNew York Timesが掲載した詳細なルポルタージュが一挙に消費者の関心を集める。印刷すると13ページにもなるルポは、Foxconnで「iPad」のケースを研磨するラインの爆発事故で死亡したある従業員を中心に展開する。記事は元Appleの幹部、元Foxconnの幹部らの声を拾いながら、識者の分析を紹介。強いブランド力と秘密主義で知られるAppleと、契約が欲しいサプライヤーの双方の事情や関係にスポットを当てている。

 New York Times紙はその少し前にも、やはり長文の記事を掲載し、グローバルで製造するAppleなどの米国企業と国内雇用について分析している。CNNも前後してテレビやWebサイトでAppleとFoxconnについて取り上げた。

 

Appleの業績を支える製造現場

 Appleは同じ月、2011年第4四半期を過去最高の業績で締めくくったことを発表した。純利益は前年同期比2.2倍の130億6400万ドルとなり、その強さをあらためて見せつけた。同四半期のiPhoneとiPadの販売台数はそれぞれ3700万台と1543万台、ともに前年同期の2倍以上で、これらを製造しているのがFoxconnなのだ。

 Appleはまた、サプライヤー責任の一環として毎年公開している報告書「Supplier Responsibility Progress Report」も同時期に公開した。サプライヤー各社の労働時間、報酬など労働環境の現状をまとめたもので、Appleが要求する合計労働時間である週60時間を超えて労働している工場は93あったと報告している。

 報告書は、全体として改善がみられると総括しており、公正労働協会(FLA)に加入したことも明らかにした。今年の報告書では、サプライヤーリストが初めて公開されたことも注目を集めた。

 そんな中での製造現場報道は、Appleに改善の対応を求める動きを巻き起こしている。オンラインプラットフォームで社会改革運動の実現を目指すChange.orgでは、ワシントンD.C.在住の消費者が、Appleに対して、(1)新製品をリリースする際に労働者を守るための方針も明らかにする、(2)FLAの調査結果を公開する――の2点を求める“誓願”を掲載。2日もたたないうちに14万人の賛同者署名が集まった。

 メディアでもLos Angeles Timesは「消費者はAppleをボイコットすべきか?」というタイトルの社説を掲載、Appleボイコット運動は以前からあるが、一般大衆紙が取り上げたことが注目された。社説では併せてAppleのサプライヤー責任の取り組み、Foxconn側の改善策も紹介している。

 

経済のグローバル化とユーザーの要求

 一方、自由市場政策を研究するAdam Smith InstituteのTim Worstall氏は、Forbesに寄稿したコラムで、Apple追及には賛同できないとの考えを表明している。経済学者Paul Krugman氏による途上国経済の研究などを引用しながら、賃金は中国の労働市場が決めること、Foxconnの自殺率は中国全体の平均よりも低いことなどを挙げ、「(労働環境や賃金改善を目的とした)ボイコットはナンセンスだ」との見解を示している。

 The Dairy BeastのDan Lyons氏は、New York Timesの記事を参照しながら、米国人が中国での現実に目を閉じていると指摘。「なぜなら、われわれはそのガジェットが欲しいが、(労働者に)公正な価格は払いたくないから」とユーザーの内心を代弁する。そして、「もう少し高い料金を払って、新製品の登場をもう少し長く待てないものだろうか」と問いかける。

 Appleの姿勢については、BBCのハイテクジャーナリスト、Rory Cellan-Jones氏は「AppleはPR戦略を変えるべきでは」と提言する。Appleは以前から自社の都合に合わせてしか情報を公開しない傾向が強く、今回もノーコメントを通している。Cellan-Jones氏はCEOのTim Cook氏が社員に向け、「労働者の環境をケアしている」などと記したメールを送ったこと(9to5Macなどが暴露)に触れながら、外部に対して口を閉ざし続けるのは、よくないと指摘する。

 先進的な製品を提供するメーカーと、途上国のサプライヤーの関係は、経済のグローバル化による必然の帰結なのか、それは変えることはできないのだだろうか――。

 Appleのファンサイト、Cult of Macは1月31日、Foxconnの前で、仕事を求めて長蛇の列を作る現地の写真を掲載している。列は200メートルにも及び、どうやら工場が「iPhone 5」に向けて生産体制を整えようとしているのではないかという。

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(岡田陽子=Infostand)
2012/2/13 10:23