遅れてきた?「Windows 8 タブレット」 もうひとつのiPad挑戦者


 来年のリリースに向けてMicrosoftが開発中のWindows 8には、設計段階からタブレット端末向けの機能が盛り込まれている。同社は12月6日、カギともなるアプリケーションストア「Windows Store」をプレビューして、戦略を一歩進めた。だが、一部のアナリストはWindowsタブレットは「すでに遅い」との見方を示し、タブレット成功にも賛否が分かれている。

 

Metro UIアプリを活気づける?「Windows Store」

 iPadの登場後、ユーザーや業界は、この分野でのMicrosoftの出方に注目してきた。Windows 7搭載のタブレットも、あるにはある。だが、設計時からタッチ対応を組み込み、多数のモバイル端末が採用するARMプロセッサに対応するWindows 8ほどに本気ではなかった。

 Windows 8は、タイルインターフェイスを含む「Metro」と従来のデスクトップUIの2つを持ち、6日にプレビューされたWindows Storeは、Metroベースのアプリケーションを集めたストアとなる。「App Store」の後追いではあるが、発表では、いくつかAppleとは違う部分を強調して、開発者の呼び込みを図ろうとしている。

 例えば認定プロセスでは、突然却下されるといった不可解なことがないよう、ステップをオンラインで追跡できる機能を用意する。また、売り上げ共有についても、売上額の30%を徴収することを基本としながら、売上高が2万5000ドル超からは徴収比率を20%に引き下げる。販売価格の幅は無償から999ドルまでで、アプリ内課金や無償トライアル後の課金などもサポートするという。

 企業向けの機能では、ユーザーがアクセスできるアプリの設定などの機能を提供するほか、Store内でプライベートにアプリを公開することについても検討しているようだ。アプリストアは、Windows 8のベータが公開される2012年2月後半に公開する予定だ。

 

Windows 8タブレットは「遅すぎる」

 MicrosoftはWindows 8ローンチに向けて着々と布石を打っている一方で、Windows 8タブレットについて、アナリストが悲観的な見方を示して注目された。

 Forrester Researchのコンシューマー製品戦略担当のアナリスト、JP Gownder氏は11月29日付の公式ブログで、Windows 8が予定通り2012年に登場しても、出遅れは取り返せないとの見解を示した。

 Gownder氏によると、タブレットカテゴリを確立したiPadに対抗するためには、競合他社は“fast follower”として同じ路線の製品をすぐさま投入しなければならなかった。しかし、Windows 8タブレットは5番目(iPad、Android、webOS、BlackBerry PlayBookの次)であり、登場するころには、iPadやSamsungのAndroidタブレットは第3世代になっていると予想される。同時に、Amazon(Kindle Fire)やBarnes&Noble(Nook Tablet)などの電子書籍リーダーからの流れがコンシューマー側の期待を変え、同時に価格も下がろうとしている。

 Microsoftが機を逸したことは、Forresterの米国コンシューマー調査からもうかがえるという。それによると、2011年第1四半期には「Windows 8タブレットに関心がある」という回答が46%だったのに対し、第3四半期は25%へと急減している。

 このGownder氏の分析はさまざまなメディアに取り上げられた。このうち正面切って反論したのがBetaNewsのJoe Wilcox氏だ。Wilcox氏は「すでにWindowsタブレットは存在するので5番目のフォロワーではない」とした上で、調査にも、Microsoftが強みを持つエンタープライズ分野が含まれていないと指摘する。

 

ARMとIntel対応で、タブレットカテゴリを広げる

 Wilcox氏は、Kindle Fireの成功が示すようにチャンスはまだあると考えている。タブレットがまだ新しい市場であり、PCと比べると規模も小さいからだ。それどころか、Microsoftによってタブレットカテゴリ広がることも期待できるという。

 さらに、iPadのように機能が制限されたガジェットを好むユーザーだけでなく、フル機能を求めるユーザーもいるため、MicrosoftはARMとIntelの両方に対応することで2つのセグメントにリーチできる、と読者のコメントを引用しながら予想している。

 Wilcox氏の分析で興味深いのが、Microsoftのキャッチアップ戦略だ。これまでの実績を見ても、Microsoftはカテゴリをつくり出すことよりも、先行ベンダーを追いかけるキャッチアップのほうが得意だ。「Microsoft本社内では、タブレット侵略からWindowsの独占を守らなければならないという危機感が広がっている」(Wilcox氏)と述べ、Microsoftは土壇場で大きな力を発揮する企業だとしている。ただし、読者からは「Bing」「Zune」などキャッチアップの失敗例を挙げるコメントもあった。

 eWeekは「Windows 8タブレットが成功する10の理由」として、楽観論を展開した。例えば、Windows 8はデスクトップとノートPCで成功する予想され、「これがタブレットにも『ハロー効果』を及ぼすだろう」と見る。このほか、Windowsがエンタープライズで人気を得ていること、すでにユーザーが慣れ親しんだOSであること、メーカーの支持、(Androidと比べて)セキュリティが高いこと、Microsoftのキャンペーンやプロモーション力などを理由に挙げている。

 一方、悲観論を唱える側にはIDCがいる。MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏が紹介したもので、IDCは「少なくとも2012年は、Windows 8タブレットは“失望する”結果になる」と見ているという。そして、x86とARMの両方でタブレットエクスペリエンスを実現できるのかが試されること、既存のPCユーザーにとってわかりやすいx86に対し、iPad対抗にはARM端末での成功が不可欠だとしている。

 

Courierを殺してWindows 8に賭ける

 一方、CNet Newsは、2009年ごろにMicrosoft社内で進められていた「Courier」プロジェクトの打ち切りのいきさつを詳細にレポートした。Courierは2画面のデュアルスクリーンタブレットで、GizmodoがiPad登場前の2009年9月にスクープするや、その革新的なデザインが話題になった。

 CNet Newsによると、Courierプロジェクトを率いていたのはXboxを成功に導いた第一人者、J Allard氏。Allard氏はまったく新しいアプローチを目指したが、結局Bill Gates氏らが難色を示した(WindowsとOffice戦略と連携しない)ことがプロジェクト打ち切りの理由だったという。その後Allard氏はMicrosoftを去った。

 今、タブレット市場は活気があるが、Hewlett-Packardは一度は撤退を明らかにし、RIMのPlayBookも苦戦している。iPad対抗馬のAndroidは、SamsungやMotorolaなど多くのメーカーが採用しているが、現時点ではスマートフォンほどはうまくいってない。こんな中で、Windows 8がiPad独占の流れを変えられるのかには疑問符が付く。

 だが、ユーザーサイドはそれほど捨ててないという話も出ている。CNet Newsの読者調査によると、48%が「Windows 8タブレットが、欲しい」と回答。「検討する。レビューを楽しみにしている」も23%あり、期待感が漂っている。逆に「来年買うのはiPad 3。Windowsではない」は12%で、「Android派」は6%にとどまった。

 Windows 8 タブレットが失敗すると結論づけるのは、まだまだ早すぎるようだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/12/12 10:20