Steve Jobs氏逝く 今後のAppleは?


 Appleの共同創業者にして、パソコン、音楽、モバイルの分野に多大な影響を与え続けてきたSteve Jobs氏が2011年10月5日死去した。享年56歳。その訃報は、ニュースメディアだけでなく、TwitterやFacebookでもまたたく間に拡散した。追悼の声は何日もやむことがなく、その業績をたたえる論評も相次ぐ。同時にJobs氏亡き後のAppleについても注目が集まっている。

“無二の存在”を惜しむ声

 2004年にすい臓がんを患ったことを公表して以降、Jobs氏の健康はずっと懸念事項となっていた。だが、当人は激やせしながらも壇上に姿を現し、肝臓移植手術での半年間の休養を挟みながら、iPhone、iPad、MacBook Airなどの製品を披露した。このまま走り続けていくようにも見えた。

 しかし、今年1月に3度目の病気休養に入り、さらに8月には経営をTim Cook氏に任て自分は退く。このあたりでは、病気も進んでいたのだろう。そのまま大舞台に姿を見せることなく、死去の発表があった。一方で、8月にはAppleの時価総額が世界一を記録。経営者としては、まさにピークの中での退任だった。

 訃報を受け、IT業界だけでなく、経済界、世界の指導者らも、その死を悼む声明を出した。「世界はビジョナリーを失った」(Barak Obama米大統領)や、「Steveのような深いインパクトを与える人物はめったにいない。彼の成し遂げたことは、多くの世代にわたって残るだろう」(Bill Gates氏)など。ロシアのDmitrii Medvedev大統領までもがコメントを発表している。

編集者たちが明かす知られざるJobs氏

 メディアもJobs氏の偉業をたたえ、エジソン、ヘンリー・フォードに匹敵する人物と評した。たとえばAPのTed Anthony氏は、Jobs氏の優れた点として、「われわれが欲しいと思う前に、われわれが何が欲しいのかに気づいた」「Jobs氏の現実こそ、自分たちが望むものだと思わせることができた」とその飛び抜けた先見性をたたえた。

 そしてAnthony氏は「Jobs氏は発明家か? セールスマンか? エンターテイナーか? ビジョナリーか? ――こんな質問は的を得ていない」と述べ、Apple製品と同じように、Jobs氏はわれわれが次の目的地に向かうための媒体であり、まさに、そこが他の誰とも違うところだと評した。

 著名な技術ジャーナリスト、Walt Mossberg氏はAll Things Digitalに追悼コラムを発表した。Mossberg氏は有名な2007年のカンファレンスで、Gates氏とJobs氏の対談を実現させた人物で、Jobs氏とも親交が深かった。

 Jobs氏は、Mossberg氏だけに新製品を見せてくれたことがあり、重役用会議室で布で覆われた新端末を得意顔で披露したという。また、肝臓移植後のJobs氏が毎日、目標を決めて散歩をしていた話も明かしている。

 これは毎日少しずつ距離を伸ばしてゆく散歩で、ある時、訪問したMossberg氏が同行したところ、途中でJobs氏の気分が悪くなった。Mossberg氏は戻るよう勧めたが、Jobs氏はこれを拒否し、その日の目標地点まで歩きぬいたという。彼の意志の強さを感じさせるエピソードである。

 また、発表前に紛失した「iPhone 4」の試作機を入手して掲載したGizmodoの当時の編集長、Brian Lam氏は、Jobs氏本人からかかってきた電話の内容を明かした。「Steveだ。私の電話を返してほしい」と述べたJobs氏の声には、チャーミングでひょうきんさが感じられたという。

 電話でJobs氏は、法的手段も辞さないと警告したが、電話を切る前に「どう思った?」とiPhone 4についての感想を聞き、Lam氏は「美しい端末だ」と答えたことを紹介している。

大きなビジョナリーを失ったAppleは?

 一方、メディアでは、今後のAppleについても分析している。Appleは「Android」の勢いに押されており、iPadのライバルAmazonの「Kindle Fire」も現れた。また4日に発表した「iPhone 4S」には、落胆の声も出ている。株価は、iPhone 4Sの発表、Jobs氏の訃報を受けて急落した。

 そこで注目されているのは、後継者Cook氏の手腕だ。Cook氏率いるAppleは、Jobs氏のこだわりであり、Appleの強みでもある完成度の高い製品やデザインを維持できるのか、またユーザーを引き続き魅了できるのか、ということに関心が集まっている。

 Piper JaffreyのGene Munster氏は10月6日付のWall Street Journalで「これまでのところ、Cook氏は完全にこなしている」と評価する。スタンフォード大学のJeffrey Pfeffer教授は「(Cook氏は)Steve Jobsになる必要はない。最高のTim Cookになればよい」とし、「Cook氏は自分の得意・不得意を理解しているようだ」と好意的な評価をする。

 だが、厳しい見方もある。10月7日付のWall Street Journalでハーバード大ビジネススクールのDavid Yoffie教授は「Appleの最大の課題は、人々の期待をどのようにマネージするか」であると分析。「人々はAppleが常に革命的な発表をすることを期待する。だが、それは不可能だ」と述べている。

 関係者の話では、Jobs氏は亡くなる前に製品の長期ロードマップ作成を手がけており、少なくとも今後3年分の用意があるという。だが、変化の激しい世界であり、それだけでうまくやっていけるとは限らない。また、Jobs氏はコンテンツ業界が、IT企業の中で最も厚い信頼を寄せていた人物でもあり、その不在は今後のサービス展開に影を落とす可能性もある。

 Cook氏は、Jobs氏の死去を報告する従業員あての電子メールで、「彼の精神は、永遠にAppleの基礎にある」と述べた。残った社員たちが、Jobs氏の精神を引き継いでいけるかが、今後のAppleを左右するだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2011/10/11 09:27