クラウド市場での競争力はいかに? ついに登場「Office 365」


 Microsoftのクラウドサービス「Office 365」が、満を持して登場した。「Word」「Excel」などのOfficeアプリケーションを、Webを経由してサブスクリプション形式で提供するサービスで、4月17日にパブリックベータとして公開された。Microsoftはプロダクティビティ・スイートでは最強の地位を維持してきたが、クラウドではGoogleなどに挑戦する立場となる。

 

遅れてやってきたOffice 365

 MicrosoftがOffice 365を発表したのは半年前の2010年10月。WebブラウザでOfficeアプリが利用できる「Office Web Apps」に、「Exchange Online」「SharePoint Online」、コミュニケーションの「Lync Online」などの企業向けサービスを追加したものだ。

 2009年春に提供を開始した「Microsoft Business Productivity Online Suite(BPOS)」を進化させたものにあたり、料金は、25人以下の「for Small Business」が1ユーザー月額6ドル、それ以上の規模向けの「for Enterprise」は同10ドル~27ドルとなる。

 クラウド経由でオフィススイートを提供するサービスはもはや珍しくない。「Google Apps for Business」を提供するGoogleは、2006年に発表した「Gmail For Your Domain」以降、法人や教育機関をターゲットとする電子メールやオフィススイートサービスを拡充してきた。ほかにZohoなどの専業ベンダーもある。

 一方で、Microsoftのクラウド展開は遅れており、Office 365のパブリックベータ開始にも厳しい見方がある。調査会社Arvani GroupのAzita Arvani氏は「最大の課題は時期」として、Google Appsが数年前から存在することを指摘。「Office 365は、数年前に出しておくべき製品だった」とTechNewsWorldにコメントしている。

 

高いか、安いか

 製品内容についてはどうだろう? ComputerWorldは、3つの長所と2つの短所を挙げている。長所はまず、ExchangeとOutlookだ。クラウドでもきちんと機能しており、使いやすく、IT部門の作業を軽減するだろうとみる。2つ目は、モバイル対応。「Windows Phone 7」はもちろん、「iPhone」「Android」(一部機種)「Blackberry」(「Blackberry Internet Service」が必要)で利用でき、設定が「驚くほど容易」と絶賛する。そして3つ目は、オンプレミスでは設定が複雑とされるSharePointが、クラウド経由で利用できる点だ。

 逆に短所については、1)Webサイト関連(作成ツールの使い勝手、自社で構築したWebサイトはホスティングできない)、2)各コンポーネントの統合が貧弱――の2つを挙げている。

 Laptop Magazineは「価格が欠点」としている。ユーザーインターフェイスやOfficeメニューオプションなどは高く評価するものの、Google Appsに対しては、この価格では競争力がないとみる。25人の場合、Office 365では合計のコストは月間150ドル、年間では1800ドルとなる。一方、1ユーザーあたりの料金が年間50ドルのGoogle Appsの場合、25人の年間コストは1250ドルだ。Office 365では、さらに、デスクトップのOfficeのライセンスなども必要になることがあると指摘する。

 一方、先のArvani氏は、Office 365の内容を参照しながら、「競争力のある価格に見える」としており、価格については意見が割れている。

 

クラウドサービス市場での競争力

 Microsoftがクラウドへの本格進出に手間取っている間に、Googleは「Google Apps Migration for Microsoft Exchange」「Google Apps Migration for Microsoft Outlook」などのツールを用意し、自社クラウドへの乗り換えキャンペーン「Gone Google」を中心として、Microsoftから顧客の奪取を図ってきた。

 PC Advisorはそれでも、Google Appsと比較して、Microsoft優位との見方をとっている。カギを握るのは既存顧客だ。Google Appsのユーザーは300万人。一方のOffice Web Appsはその10倍以上であり、Office 365の前身であるBPOSのユーザーも数百万単位だという。さらに、デスクトップのOfficeとなると、いまだ7億5000万人が利用しているのだ。

 「レガシー製品での立場を活用して、Office 365を販売するチャンスは十分にある」とPC Advisorは言う。そして「流動的なパーツが多く、価格体系も複雑」なことが難点としながらも、既存ユーザーを納得させることができれば、Microsoftが「クラウドでの戦いに勝つことができる」と予想する。

 実際、ベータ公開後のユーザーの反応は良かったようだ。MicrosoftのCOO、Kevin Turner氏はZD Net Asiaに対し、公開後24時間以内で、予定登録数は一杯になってしまったと述べている。

 また、Office 365はまだ本命ではないとの見方もある。TechNewsWorldによると、Geek 2.0のブロガーSteven Savage氏は、Office 365は「進化」(evolution)であって、「革新」(revolution)ではないとする。既存のクラウドサービスに直接対抗するMicrosoftの製品は、今後になると予想する。

 

ライセンスモデルが抱える問題

 肝心のMicrosoftはクラウドにどれだけ本気なのだろうか? クラウドは、ライセンス・保守・アップグレードというこれまでのソフトウェアのビジネスモデルとは異なり、メーカーもさまざまな面で従来とは異なる対応を求められる。

 Microsoftのオンライン担当副社長Ron Markezich氏はAll Things Digitalのインタビューで、BPOSの顧客はコスト削減を達成すると同時に、これまで「Exchange Client Access License(CAL)」のみを購入していた企業がサービスにも投資するなど、Microsoftから購入する金額が増えていると発言。クラウドへのシフトに前向きな姿勢を示した。

 一方で、これまでMicrosoft製品の導入支援を行ってきたシステムインテグレーターなどのVAR(付加価値再販業者)は、複雑な反応を見せている。

 Office 365に対するVARの声を拾ったSearch IT Channelによると、Microsoftはまだ、VARがOffice 365を提供した場合の手数料を決定していないという。VARの間からは、顧客がMicrosoftに移ってしまうといった懸念も持ち上がっているようだ。従来型のライセンスモデルでは、大きな役割を果たしたVARだが、クラウド時代に移行するにあたっては、Microsoftも、その関係の再構築を迫られるだろう。

 Office 365は2011年中に正式版になる。

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