全従業員給与一律10%アップ~Googleの人材流出の悩み


 不況、就職難のこのご時世に、給与が一挙に2ケタ増になるというのはうらやましい限りだ。Googleが全社員の給与を来年から一律10%引き上げることが明らかになった。パート、フルタイムを問わず全員を対象とする。さらに一部の幹部は30%アップするほか、数千万ドル分のストックオプションも付与される。一方で、この大盤振る舞いは、Googleの人材流出が深刻であることをうかがわせている。

給与アップのコストは年間10億ドル

 大規模なベースアップは、CEOのEric Schmidt氏の11月9日付の内部メモを、Business Insiderがスクープして明らかになった。全従業員に送られたというメールで、役職を問わず全従業員の給与を1月1日から10%引き上げ、年末のボーナス1000ドルを支給するとしている。

 このメモの流出を受け、メディア各社が一斉に取材。対するGoogle広報担当者は、一般的な話として「競争力のある報酬プランは、会社の将来のために重要である」とコメントをしたが、実質的にメモの内容を認めたものと受け止められている。なお、メモをリークした従業員は記事が最初に掲載されて数時間後に特定され、即刻解雇になったという。昇給もボーナスもすべてふいにしてしまったのだ。

 Googleの従業員は現在2万5000人近い。Business Insiderは、この報酬支給にかかる費用は年間10億ドルに上ると見積もっている。

 そして、この騒ぎの一週間後には、Googleが4人の幹部の報酬を大幅に引き上げることがわかった。SEC(証券取引委員会)への報告書によると、30%の報酬アップのほか、数百万、数千万ドル分のストックオプションを付与する。

 対象とストックオプション受取相当額は、CFOのPatrick Pichette氏とグローバルセールス部門トップのNikesh Arora氏が2000万ドル。エンジニアリング&研究担当上級副社長のAlan Eustace氏は1000万ドル。製品管理担当上級副社長のJonathan Rosenberg氏が500万ドルだ。

 一方で、Larry Page氏とSergey Brin氏の2人の創業者と、Schmidt氏は“1ドル給与”を維持する。もっとも彼らは議決権付きの特別なGoogle株を保有しており、もとより十分大金持ちである。

そうそうたる顔ぶれのFacebook転職組

 Googleでは、このところ著名な従業員の退社が目立っている。ここ数週間に報じられたものでは、YouTubeの共同創設者・CEOのChad Hurley氏、Appleとの買収合戦で獲得した広告会社AdMobの共同創設者・CEOのOmar Hamoui氏、そしてGoogle MapsとGoogle Waveの生みの親であるLars Rasmussen氏らである――。Rasmussen氏はFacebookへ移る。

 このFacebookへの転職は、今年前半まで入れると、Chrome OSプロジェクトを立ち上げたMatthew Papakipos氏、Androidの開発を手掛けたErick Tseng氏らそうそうたる顔ぶれになる。

 現在、Facebookでナンバー2としてCOOを務め、同社の顔となっているSheryl Sandberg氏も、元Google社員だ。2001年にGoogle入りした「社員番号268号」で、AdWordsやAdSenseの販売チャネルを開拓したことで知られるが、2008年にFacebookに移った。

給与の差か、創造的で有能な従業員にはGoogleは大きくなりすぎたのか

 CNNによると、ビジネス特化型SNSのLinkedInの登録者のデータから、Facebookの従業員の約15%にあたる300人程度が元Google従業員とみられるという。Facebookへの転職は、Googleにとっての頭痛の種のようだ。

 では、Facebookの給与はGoogleよりも高いのだろうか。Gigaomが企業従業員の口コミサイトglassdoor.comからまとめた給与情報によると、ソフトウェアエンジニアの平均ベース給与は、Googleが9万8814ドルで、Facebookの11万500ドルに負けている。ただし、Googleはボーナスが手厚く、Facebook(1万1900ドル)の2倍近い2万1364ドルになるという。

 こうした人材流出論に対して、Schmidt氏が公の場で反論した。15日から17日まで開かれた「Web 2.0 Summit」で同氏は、頭脳流出を取りざたされいることについて、「メディアの“出来の悪い記事”(poor story writing)」と決めつけた。「これは優秀な人材獲得のための戦い」であり、Googleは現在も毎週数百人を採用していると述べ、「巨大企業は“のろまのまぬけ”と言われるが、Googleはこれにあたらない」と返した。

 だが、実際に辞めていった従業員の声に耳を傾けると、やはりGoogleが巨大企業病に蝕まれているのではないかと思われる。Facebookに移ったRasmussen氏は、Sydney Morning Heraldのインタビューに転職の動機などを答えている。

 「(Facebookの魅力は)10年に一度出会えるような会社のように思える」と同氏は語り、Googleを辞めた理由については「大き過ぎて、やりにくい(too unwieldy)」と述べている。Facebookの従業員は約2000人でGoogleの10分の1以下だ。

 創造的で有能な従業員が、大企業であるがゆえに離れてゆくのだとすると、Googleにとって非常に深刻な問題だろう。

関連情報
(行宮翔太=Infostand)
2010/11/22 10:11