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Google Glassが産業用として復活 “悪夢”と心配する声も

Glassの向こうに見える不吉な未来

 Levy氏は現地取材を経て、Glass EEがもたらす作業の効率化を絶賛する。AGCOのトラクター工場では、作業手順の確認の手間が激減し、飛躍的に効率がアップしたという。同社の製品はほとんどがカスタムオーダーのため、組み立て作業中に何度も約15メートル離れた端末まで歩いて行かねばならなかった。またGEが行った倉庫での試験運用では、ピッキング時間が46%短縮できたという。

 Google Glassはコンシューマー分野で失敗したが産業用途では大きなポテンシャルを持っている。Forrester Researchの昨年4月のレポートは、エンタープライズ市場でGlassのような「スマートグラス」への関心が高まっており、2025年までに米国の約1440万人の労働者が着用するようになると予想している。

 だが、Glassの産業利用に強い懸念を持つ者もいる。例えば、The Next Webの編集長Alejandro Tauber氏は、作業現場のGlassを“悪夢の未来”とする。「もちろん、組み立てライン作業員が、ちょっと視線を上げるだけで複雑な指示を見られるのは素晴らしいことだ。だが、その一方、なぜ、Google Glassの居心地が悪いのか、皆忘れてしまったんじゃないか」とTauber氏は言う。

 Tauber氏が問題として挙げるのは次の2点だ。

 作業が細かいステップに区切られていることは、同時に一つひとつの作業を作業員がどれだけ迅速に処理しているか、細かくデータ収集されることを意味する。製造業や倉庫では、今でもハンドヘルド端末で厳しい効率管理が行われている。ましてGlassにはカメラがあり、マイクがあり、スピーカーがある。機械あるいは人間の監督者が、作業員の目を通して、肩越しに作業の様子を監視する、という非人間的な職場を生む――。「生産性の大幅な向上だって?」とTauber氏は声を大にする。

 もう一つは、Glassによって作業現場に熟練度の低い労働者を簡単に導入できるようになることだ。作業指示は、眼のすぐ上にあり、作業員は工場で“柔軟なロボット”になる。結果として「簡単に置き換えられる」(Tauber氏)こととなり、クビ切りも簡単になる。これは悪夢である。

 さらに、こうして効率化しても、製造業に押し寄せる次の波――AIとロボット――に抗することはできない、と言う者もいる。

 ベンチャーキャピタルLoup Venturesの共同設立者であるGene Munster氏は、自動化によるコスト削減が進む中、Glassは人間の労働者が能力を高めて、職を得る手段になると指摘。「これは、人間が近い将来、ロボットの自動化に対して、どのように競争力を維持できるかを示す完璧な例だと思う」と金融メディアのBenzingaに述べている。

 しかし、それでもロボットがもっと安価で高い生産性をもたらすなら、企業は皆、ロボットを採用することになるとも予想する。Munster氏は「それまで、そう長くはない」と言う。“仕事を奪うAI”への不安が広まっている。

 Tauber氏やMunster氏の懸念が杞憂になればよいが……。夢のホビーデバイスは、あまり楽しくない方向転換をしたのかもしれない。