ハイパーバイザーからクラウドまで、すべてを提供するRed Hat


 パシフィコ横浜で開催されたLinuxの技術カンファレンス「LinuxCon Japan 2012」に合わせ、米Red HatのCTO(最高技術責任者)兼エンジニアリング担当副社長、ブライアン・スティーブンス氏が来日した。そのスティーブンス氏に、Red Hatの今後に関して話を聞いてみたので、その様子をお届けする。

 

Red Hatのみがオープンな立場でクラウドを提供する

――Red Hatのクラウドに関する戦略は、どうなっていますか?

ブライアン・スティーブンス氏は、7年前にCTO兼エンジニアリング担当副社長に就任して以来、Red Hatの製品ロードマップや企業買収にも関係している。テクノロジー面において、Red Hatの未来に大きく関与している人物だ

スティーブンス氏
 Red Hatとしては、クラウドの基盤となるハイパーバイザーKVM、OSのRed Hat Enterprise Linux(RHEL)、スケールアウトストレージシステムのGlusterFS、そしてJBossなどのミドルウェアなどを提供しています。さらに、PaaSレイヤとしてはOpenShift、IaaSレイヤとしてはCloudFormsを提供しています。

 このように、1社で、ハイパーバイザーからIaaSのプラットフォームまで提供しているのはRed Hatだけだと思っています。

 ただし、Red Hatがすべてのレイヤでソフトウェアを提供しているからといって、垂直統合型のサイロ型のシステムを提供しているわけではありません。Red Hatの企業としての社是からいっても、オープンソーステクノロジーに従った、オープンなものになっています。


Red Hatでは、ハイパーバイザーのKVM、OSのRHELなどを基盤として、クラウド分野へと進出しているREHLとGlusterFSを利用することで、高い効率性を持つクラウドが構築できる

――3月にOpenStack Foundationへの参加を発表されましたが、これによりCloudFormsやOpenShiftなどはOpenStackベースに変更されていくのですか?

スティーブンス氏
 OpenStackは、パブリッククラウドやプライベートクラウドを構築するための基盤ソフトです。OpenStack自体は、オープンソフトウェアで、基盤となるOSやハイパーバイザー環境を複数サポートしているため、Red HatではOpenStackの基盤としてRHELとKVMをベースにしていきますが、VMwareのvSphere、MicrosoftのHyper-V、Xenなども利用することができます。

 Red Hatとしては、OpenStackプロジェクトに大きく関与しながら、クラウド構築基盤のオープンソフトウェア化を行っていきたいと考えています。

 CloudFormsは、OpenStackで構築されたパブリッククラウドやプライベートクラウド、Amazon Web Services(AWS)のクラウド、VMwareのvSphereなどを包含して、より上位レイヤで複数のパブリッククラウド、プライベートクラウドを管理できるようになっています。

 CloudFormsでは、マルチベンダーのIaaSを管理するということで、KVM、Hyper-V、VMwareなど、複数のハイパーバイザーが混在するような環境でも、仮想マシンを一括して管理可能です。ここには、Red Hatが開発を進めていたDeltacloud APIを採用しています。

――OpenStackは、Compute(計算リソース)のNOVAに関しては、安定性に問題があるとの指摘もありますが?

スティーブンス氏
 確かに、今までのNOVAに関しては、おっしゃるように企業が安定的に利用していくには問題がありました。ただ、OpenStack Foundationは、HP、IBM、Dell、Canonicalなど多く企業が参加しています。これらの企業では、各社のプライベートクラウドやパブリッククラウドの構築にOpenStackを利用しています。

 各社が改良している部分がフィードバックされれば、OpenStackは短期間で安定性の高いクラウド構築基盤に成長するでしょう。特に4月に公開されたOpenStackの新バージョンEssexは、高い完成度に到達していると思います。

 もちろん、Red Hatとしても、OpenStack Foundationに参加するだけでなく、コードの開発に関しても積極的に関与しています。

 現在、OpenStackは多くのデベロッパーの興味を集め、OpenStack Foundationの元に積極的に開発が進められています。

――CitrixがOpenStackから抜けて、Apache Software Foundationの元にCloudStackを提供するようになりました。これにより、OpenStackが分裂したと評する人々がいますが?

スティーブンス氏
 Citrix社は、Cloud.comを買収して、CloudStackをOpenStackに統合しようとしていました。ただ、CloudStackとOpenStackは、別々に開発されていたので、融合させるのはいろいろと問題がありました。細かな経緯は話しませんが、結局CitrixはOpenStackではなく、CloudStackを選択したということです。

 ただ、どちらがデベロッパーを集めているかといえば、OpenStackです。実際、米国で行われたOpenStackのカンファレンスには2500名ほどが参加していましたが、CloudStackのカンファレンスには数十人しか参加していなかったようです。デベロッパーの興味を集めているのは、やはりOpenStackだといえるでしょう。


Red Hatが提供するCloudForms。6月6日にCloudForms 1.0が発表されたCloudFormsは、AWSなどのパブリッククラウド、VMwareのvSphere、OpenStackなどを統合して管理、運用できる

 

ストレージやネットワークの仮想化にも取り組む

――OpenStackを見ていると、Computeの仮想化が進んでいますが、ストレージの仮想化やネットワークの仮想化が遅れているように思います。このあたりは、Red Hatとして、どのようにしていきたいと考えていますか?

スティーブンス氏
 まず、ストレージの仮想化に関しては、Red HatはGlusterを買収して、スケールアウトのストレージシステムが構築できるインフラを持っています。GlusterFS 3.3ではOpenStackのオブジェクトストレージAPIの機能を取り込むことで、ファイルやオブジェクトデータに対しての分散ファイルシステムになっています。Red Hatとしては、GlusterFSもOpenStackに提供していきたいと考えています。

 ネットワークの仮想化に関しては、OpenFlowベースのオープンソフトウェアvSwitchが重要になってくるでしょう。vSwitchをより堅牢にし、相互互換性を持たせることになるでしょう。


Glusterはオンプレミス環境でも、ビッグデータの要因となっているファイルをスケールアウトさせることが可能になるGlusterをパブリッククラウドに応用すれば、ビッグデータにも対応可能

 

OpenSiftの強みはフレキシブルなプラットフォーム

――Red Hatが提供しているPaaSのOpenSiftはどうなっていますか?

スティーブンス氏
 OpenShiftは、開発者にとって必要なプラットフォームをすぐに提供するパブリックPaaSです。OpenShiftは、開発者がゼロからアプリケーション環境を構築するのではなく、ある程度多くの開発者が利用するオープンプラットプラットをそろえています。このPaaS上で構築されたシステムは、仮想マシンのイメージとして、OpenStackベースのパブリッククラウドやAmazon AWSに簡単に取り込み、運用することが可能です。

 現在、OpenShiftは、Red Hatが製品としてパッケージとして提供するのではなく、Red Hat自体がクラウドサービスとして提供していますが、将来的にはOpenShift自体をプライベートクラウドで運用したいというお客さまのニーズに応えるためにパッケージ化することも考えています。

――PaaSということでは、VMwareはCloudFoundry、AWSはBeanstalkなどを提供していますが、これらのPaaSに比べるとOpenShiftのメリットは何になりますか?

スティーブンス氏
 OpenShiftは、Java、Python、PHP、Rubyなどさまざまな開発言語をサポートしています。また、データベースもMySQL、SQLite、MongoDB、Membase、memcachedなどを用意しています。これだけフレキシブルなPaaSになっているため、開発者は自分が使いたい環境を使って、アプリケーションの開発が行えます。

 しかし、AWSのBeanstalkは、OpenShiftほどのプラットフォームに対するフレキシブルさを持っていません。また、Beanstalkベースを開発をすることは、AWSのプラットフォームに縛られることになります。OpenShiftなら、オープンなプラットフォームがベースになっているため、ここで開発したシステムをほかのパブリッククラウドに持ち込むことが簡単にできます。

 このようなオープン性が気に入って、多くの開発者がOpenShiftを使っているのだと思います。


Red Hatが提供しているPaaSのOpenShift

――Red Hatは、ミドルウェアに関してはJBossを買収したりしていますが、今後PaaSレイヤの強化ということを考えれば、データベースをどうするかというのは重要ではありませんか?

スティーブンス氏
 データベースに関しては、複数の視点があると思います。まず、旧来のリレーショナル データベース、MongoDBなどKVS型のドキュメント指向型データベース、Hadoopなどのビッグデータを扱うものなどがあります。

 リレーショナルデータベースに関しては、SQLクエリが一般的に考えられているほど互換性が高くはありません。このため、特定のデータベースで開発したシステムを別のデータベースエンジンに移行するのは、非常にリスクを伴い、面倒な作業です。多くのユーザーはこのようなことはしたくないでしょう。

 Red Hatとしても、積極的にリレーショナルデータベースの分野で買収などを行う気はありません。既存のMySQLやSQLite、Oracleなどを利用していくつもりです。しかし、KVS型のデータベースやビッグデータの分野に関しては、積極的に関与していきたいと思っています。この分野は、まだメジャープレーヤーが確立していません。また、今後多くのユーザーが必要としているのが、データ量が一気に増えているオブジェクト指向のデータを管理することなんです。

 GlusterFSは、分散ファイルシステムとして、数多くのサーバー上にファイルを分散させて処理を行うことができます。ベースにGlusterFSを使って、よりオブジェクト指向のデータベースの利用を促進させていきたいと考えています。

 

 Red Hatにとっては、クラウドにおいても、オープン性というものが非常に重視されていると感じた。OpenStackやCloudFromsにより、さまざまなパブリッククラウド、プライベートクラウドを一括管理できるシステムを作り上げていきたいと考えているようだ。クラウドの分野でも起こり始めているベンダーロックインという状況を変えていきたいと思っているようだった。

関連情報
(山本 雅史)
2012/6/13 00:00