エンタープライズにフォーカスしたクラウドを提供しているTIS


 TIS株式会社は、大型のシステム開発に強い旧TISと、金融・産業分野に強いソラン、カード・公共分野に強いユーフィットの3社が、2011年4月に合併したシステムインテグレータだ。この新生TISは、幅広い業種・業態の企業が必要とするソリューションをワンストップで提供できる、トータルインテグレータになった。

 TISでは、金融、流通、通信などさまざまな業種の企業に、業種に特化したサービスやソリューションの企画、開発を行っている。TISは、基幹業務システムやERPシステム、IT共通基盤、情報基盤、BI(ビジネス・インテリジェンス)やDWH(データウェアハウス)などのITシステムを顧客企業に提供している。このため、TIS自身が東京、横浜、名古屋、大阪、中国天津などにデータセンターを所有している。

 TISが提供しているクラウドサービス「TIS Enterprise Ondemand Service」は、多くの企業が提供しているパブリッククラウドとは少し異なるようだ。今回は、このTISのクラウドサービスを紹介する。

 

システムインテグレータが提供するクラウドサービス

TISでは、TIS Enterprise Ondemand Serviceだけでなく、さまざまなサービスをお客さまに提供しており、あくまでもそうしたサービスの一部、という位置づけだ

 システムインテグレータとしてのTISの性格を考えると、TISが提供するクラウドサービスは、Amazon Web Serviceのように、低価格で仮想マシンリソースを貸し出すという“リソースレンタル”ではないことは、何となく想像できるのではないだろうか。

 そのTIS Enterprise Ondemand Serviceは、やはり、個人がクレジットカードを使って仮想マシンをレンタルするのとは異なり、企業がビジネスベースで利用することを前提にしている。つまり、TISがかかわっている案件を動作させるインフラの1つとして、クラウドサービスが用意されている、といった位置づけになる。このため、企業がクラウドサービスを利用できるように、セキュリティ性、データセンターの耐震・耐障害性などは、非常に高いレベルになっている。

 さらに、パブリッククラウドでありながら、アクセス回線を広域イーサネットやWAN回線など限定することが可能だ。このため、TIS Enterprise Ondemand Serviceというパブリッククラウドで動作していても、インターネットなどに接続していないため、社内だけに限定したITシステムとして利用することができるのだという。

 インターネット経由でも、VPNなどを使ってセキュアにアクセスする方法もあるが、閉域網や専用回線など制限されたネットワークを使うと、セキュリティ的にもより高いレベルでの提供が可能になる。

 また、すでにTISのデータセンターで社内システムを運用している企業にとっては、データセンター内の構内回線を接続するだけで、ホスティングしているシステムと、TIS Enterprise Ondemand Serviceの仮想マシンを簡単に接続することが可能になっている。既存のサーバーと連携したクラウドシステムを簡単に構築できる、というわけだ。

 これを実現するために、クラウドサービスではあるものの、データセンターの場所を選べるという点が、TIS Enterprise Ondemand Serviceの特徴といえるだろう。


TIS Enterprise Ondemand Serviceは、エンタープライズ クラウドサービスとして分類されている企業では、一気にクラウドに移行するのではなく、必要なシステムは社内に残して、クラウドとオンプレミスをハイブリッドで利用することになる
TIS Enterprise Ondemand Serviceは、ハイブリッドなクラウドサービスとして開発されているTIS Enterprise Ondemand Serviceは、東京や大阪のデータセンターで運用されている。このため、ユーザー企業にとって最も便利なロケーションを選択することも可能

 

企業向けだが使いやすいポータルを用意

TIS Enterprise Ondemand Serviceの特徴

 TIS Enterprise Ondemand Serviceは、企業向けのクラウドサービスとなっているが、使い勝手のいい専用の管理ポータルが用意されている。この管理ポータルを使用すれば、ネットワークも含めシステム全体を管理ポータルから申請でき、30分程度で仮想マシンの作成、リソース追加などが行える。また、使用するデータセンターもユーザーが必要とする要件にマッチしたロケーションを管理ポータルから選択することができる。

 価格に関しても特に高いというわけではなく、最も安いコンパクトモデルは、2GHz相当の仮想CPU×1、メモリ1GB、ディスク20GB、仮想NIC1本で、月額1万3200円となっている。使用できるOSとしては、CentOS、Red Hat Enterprise Linux(RHEL)、Windows Server 2003/2003 R2/2008などが用意されている。


TIS Enterprise Ondemand Serviceのメニュー体系。コンパクトなら月額1万3200円から利用できるTIS Enterprise Ondemand Serviceのポータル画面。各仮想マシンの稼働状況が一目でわかる

 企業のITシステムとしてクラウドサービスを提供する上で重要になってくるのは、高い信頼性になるだろう。

 企業にとっては、自社のITサービスを運用しているサーバーに関しては、非常に高い稼働率が必要になる。パブリッククラウドに関しては、Amazon Web Serviceのように数日間アクセスできなくなるというトラブルも起こっているので、そこを心配されることもあるだろう。

 しかしTIS Enterprise Ondemand Serviceでは、企業向けのシステム インテグレータとして実績のあるTISのファシリティを利用しているため、99.99%の稼働率保証を行っている(AdvancedPremiereモデルとLimitedモデル)。こういった部分にも、企業で安心してパブリッククラウドを利用してほしい、という考え方が現れているのだろう。

 稼働率保証以外にも、高い信頼性を実現するために、サーバー、ディスク領域、内部ネットワークなどは物理的に冗長化されている。多くのパブリッククラウド サービスでは、こういった冗長化機能は、オプションで提供していることが多い。しかし、TIS Enterprise Ondemand Serviceでは、冗長化に関する費用は無料となっている。さらに、監視、バックアップ機能、セグメント分割も追加費用なしで提供している。

 もちろん、ファイアウォール、ロードバランサーなどの機能も提供されている(これらはオプション)。


仮想マシンの詳細も簡単にチェックできる新たな仮想マシンを追加する時もモデルを選ぶだけ。もちろん、データセンターのロケーションも選択可能
TIS Enterprise Ondemand Serviceのネットワーク、ストレージ関連のメニュー体系。ファイアウォールやロードバランサーなども用意されているファイアウォールの設定もポータル画面から行える

 

企業のさまざまなシーンで利用されるTIS Enterprise Ondemand Service

「365すぽーつでぃ」というサイトもTIS Enterprise Ondemand Serviceで運用されている。このサイトは、スポーツイベントなどに合わせて、アクセス数の増減が起こるため、必要に応じてリソースの追加・削除を行っている

 企業での利用をターゲットにしたTIS Enterprise Ondemand Serviceは、例えば、社内システムの基盤、新しいビジネスのスタートアップ時の基盤、システム開発・テスト用のサーバー、といった用途で利用されている。

 実際に利用されている事例としては、「365すぽーつでぃ」というトータルライフコミュニケーションサイトで、Webサイトの基盤として利用されている。このサイトを提供している企業では、海外のクラウドサービスも検討したが、サービス内容が不明確だったり、日本国内にテクニカルサポートの窓口がなかったりしたため、国内のシステムインテグレータとして顔の見える形で相談できる、TISのサービスを選択したのだという。

 コミュニティサイトということでアクセスの増減は激しいが、小さく始め、ビジネスの拡大に合わせてリソースを増強していくことにした。ただし、サイト構築の段階で、ボトルネックとなるネットワーク部分は個別に構築し、より堅牢なシステムが構築されている。

 さらに、システム全体でTISマネージドサービスを利用しているため、ユーザー企業が個別にTIS Enterprise Ondemand Serviceを管理しなくても、TISがワンストップサービスを提供し、システム全体を保守・管理している。


TISのハウジングサービスで運用していたシステムを、P2VサービスでTIS Enterprise Ondemand Serviceに移行した例

 別の事例では、TIS Enterprise Ondemand Serviceを社内情報システムの基盤として利用している。この事例では、ユーザー企業がTISのデータセンターでハウジングサービスを利用してた。しかし、一部のサーバーで保守切れを迎えていて、リプレースが必要になっていた。

 アプリケーションに関しては、問題なく稼働しており、ハードウェアにリプレースに合わせて、システムの更新は行いたくなかった。そこで、現行のサーバーをP2Vで仮想化して、TIS Enterprise Ondemand Serviceに移行した。

 実は保守切れを起こしたシステムは、ほかの社内ITシステムと連携していたが、そのシステムもTISのデータセンターでハウジングサービスを利用していた。このため、TISのデータセンター内で、構内回線でTIS Enterprise Ondemand Serviceと社内ITシステムを接続し、今までと同じくパブリック クラウド サービスのTIS Enterprise Ondemand Serviceを使用しても、今までの社内ネットワークと同じ使い勝手を実現している。

 もちろん、TIS Enterprise Ondemand Serviceに移行したITシステムもTISが一括してサポートしているため、既存の社内システムと同じくワンストップでサービスが提供されている。


仮想環境を開発環境として利用する例もある。サーバーを購入するよりも低コストで開発が行えた

 

クラウドは企業で利用してこそ大きなメリットが

 TIS Enterprise Ondemand Serviceを提供している、IT基盤サービス本部 IT基盤サービス企画部の田淵秀部長と、IT基盤サービス本部 IT基盤サービス第一事業部 IT基盤サービス第一営業部の内藤稔主査に話を伺った。

――TIS Enterprise Ondemand Serviceは、どういった経緯で開発されたのでしょうか?

IT基盤サービス本部 IT基盤サービス第一事業部 IT基盤サービス第一営業部の内藤稔主査

内藤氏:TISでは、多くの企業で利用されているアプリケーションをSaaSで提供したり、ユーザー企業のために開発したITシステムに対して、ERPやデータベースなどのサービスを提供したりしています。このような関連から、社内でも数多くのサーバーを運用していたのです。

 当初は、社内向けのプライベートクラウドとして、仮想マシンを提供していました。プライベートクラウドの構築の意図としては、やはりコスト低減が大きな要素でした。ただ、社内向けのプライベートクラウドを構築する時も、実は外部の企業に提供していこうとは考えていたので、お客さまにとってどういったシステムが便利で使えるのかを考えたり、仮想化によりどういったトラブルが起こるのかということを1年かかってテストしました。ある意味、社内システムをテストケースに使ったといえるかもしれません。

 そうして、2010年7月に商用サービスとして開始したのです。プライベートクラウドを構築している時に社内の意見としてあったのは、簡単に仮想マシンをコントロールしたり、仮想ネットワークやロードバランサー、ファイアウォールの設定などを行ったりができる管理用のWebコンソールの使い勝手についてでした。これらは、社内意見をベースにして、使いやすいモノになったと思っています。


TIS Enterprise Ondemand Serviceは、当初社内システムとして開発された。社内での各種開発プラットフォームに使われていたTIS Enterprise Ondemand Serviceは、社内システムとして2009年9月にサービスを開始し、2010年7月に商用サービスを開始した

 もう1つ、お客さまに使ってもらうためには、ハウジングと同じような稼働率をクラウドでも提供する必要があると考えました。コストの安いクラウドだからといって、しょっちゅうトラブルを起こしているようでは、TIS自身のブランドにも傷が付きます。

 だからこそ、99.99%の稼働率保証といった制度を設けています。現在まで、この稼働率保証を下回ったことはありません。こういった可用性や信頼性があってこそ、企業で安心してTIS Enterprise Ondemand Serviceを使っていただけるのだと思います。


TIS Enterprise Ondemand Service for Privateとして、ミドルウェアもパッケージ化して提供することも可能TIS Enterprise Ondemand Serviceを使えば、TISに運用を委託するアウトソーシングサービスも利用できる。ユーザー企業は、ITシステムの日々の運用に気を遣わずに済む点がメリットTIS Enterprise Ondemand Service for Privateの特徴としては、99.99%の稼働率保証を行っている。また、クラウドなので、ユーザー企業のリクエストに柔軟に対応できる

――TIS Enterprise Ondemand Serviceのメリットはどんなところにあるのでしょうか?

内藤氏:やはり、企業の利用に特化したクラウドといえるでしょう。われわれのハウジングサービスなどを利用されているユーザー企業なら、構内LANでクラウドとハウジングされているサーバーを接続すれば、クラウドを利用していても、以前の社内ITシステムと全く同じ使い勝手とセキュリティが実現できます。こういった部分は、今までさまざまな企業のITソリューションの構築にかかわってきたTISならではのサービスといえるでしょう。

 また、ハウジングサービスを利用していたITシステムを、コストの安いTIS Enterprise Ondemand Serviceに移行するP2Vサービスなども行っています。こういったサービスを利用していただければ、お客さまの手を煩わすことなくクラウドを利用することが可能です。

 TISでも、ハウジングとクラウドの両方をお客さまに提案しています。お客さまの必要とする要件を考えて、ハウジングとクラウドを使ってバランスよくITシステムの開発を行うことで、より便利なITシステムの開発を進めています。

――クラウドは、企業にとって、有効なシステムとなりますか?

IT基盤サービス本部 IT基盤サービス企画部の田淵秀部長

田淵氏:企業にとっては、非常に有効なシステムになると思います。ただ、すべてがクラウドでいいという訳ではありません。

 やはり、ITシステムによっては、ハウジングを使って構築した方がいい場合もあります。一方クラウドは、月額コストでサーバーが利用できるため、スモールスタートや期間限定といったITシステムの構築にはぴったりでしょう。例えば、ビジネスの拡大ともにトラフィックが増えるSNSなどは、クラウドがぴったりでしょう。規模が増えれば、徐々にリリースを追加していけば、システム規模も拡大できます。ビジネスサイズにあったITコストで運営できるのは、クラウドならではでしょう。

 また、ビジネスがうまくいかなかった時でも、規模を縮小したり、最終的にはサービスを停止したりしたとしても、サーバーなどのハードウェアは購入しないので、それまでの月額コストが経費としてかかるだけです。だからこそ、ビジネス自体もスピードもアップできます。うまくいかなければ、止めてしまえば経費はかからなくなるし、うまく拡大すれば、必要に応じてリソースを拡張していけばいいんです。

 クラウドは、スピードがアップするさまざまなビジネスシーンで必須のソリューションといえるでしょう。

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