事例紹介

三鷹市が取り組む「コミュニティ創生」、ICTで高齢者の「共助」は育まれるか?

ICT街づくり推進事業(1)

3.11であふれた帰宅困難者、通信の重要さを痛感

駅前Wi-Fiの概要
まちづくり三鷹 取締役の後藤省二氏

 「駅前Wi-Fi」は、三鷹駅に公衆無線LANを設置するというもので、きっかけは2011年3月11日の東日本大震災だ。「あの日、勤労者や観光客を含め、1000名以上の帰宅困難者が駅前に溢れました。ケータイがつながらず、数少ない公衆電話に長蛇の列ができるほどで、結局、開放した駅近のコミュニティセンターで200名ほどが一夜を明かしたと聞いています。こうしたこともあって、キャリアのネットワークに依らない第三の通信手段が必要だと痛感しました」(後藤氏)。

 平成24年度は三鷹駅南口に4カ所、平成25年度には井の頭公園駅と三鷹台駅にも設置した。登録すれば誰でも利用できるが、平時には10分で接続が切れ、災害時にはモードが切り替わり、まず市のWebサイトに接続される。

 災害発生を想定し市民参加で訓練も行い、市民の声としては、利用方法は「おおむね簡単」「普通」という回答のほか、87%がWebサイトも「見やすい」「普通」と答えるなど、評価も上々。「災害時の慌てているときも、市のWebサイトから即座に一次情報を提供できることが確認できました」(まちづくり三鷹 経営事業部 企画事業グループ シニアマネージャーの大高俊彦氏)という。

三鷹駅前Wi-Fi(半円の白い装置)
利用時のトップページ

 一方、同時接続数には課題が残った。「三鷹駅南口の4カ所にアクセスポイント(AP)を設置しましたが、それでも接続数に制限があります。1カ所で150人程が上限で、多いとパフォーマンスも落ちてしまう。対策として、より高性能なAPにするか、数を増やすか、電波出力を上げるかなど要検討で、場合によっては技術的な規制も含め、総務省と相談しなければと考えています」(同氏)。

 市民も95%が「エリア拡大したほうが良い」と回答。これを受けて25年度には、井の頭公園駅と三鷹台駅に増設した。井の頭公園駅の近くには法政大学付属中高が、三鷹台駅の近くには立教女学院があり、学生による潜在ニーズは大きい。また、季節によっては近隣の公園にも人があふれるため、対応を順次進めている。

 それでも、駅前だけでは不十分と大高氏は語る。「例えば、キャリアやコンビニの無線スポットも沢山あり、これらは利用者が限定されるのですが、災害時には連携できないか。市としても公共施設や災害避難場所(学校)などに広げる必要性について検討しています」。

 また、この取り組みで重要なのは、平時にも使える環境であることだ。「日常的に使われる設備でないと、いざというときに役に立たないので、平時も使ってもらえるように意識して取り組んでいます」(同氏)。

 平時にはイベント・観光情報の発信、または商店街の割引クーポンを配布するO2Oとして利用可能になっている。ただ、日常的に利用してもらうにはさらなる普及啓発が必要だ。実証実験では485人の参加者、商店街の33店舗の協力が得られたが、「残念ながら、実証期間中に駅前Wi-Fiのクーポンを提示した方はいなかったようです。最近はぐるなびで下調べする方も多いので、日常的なツールとするには、より一層宣伝していかなければなりません」(同氏)という。10%割引のクーポンなどもあって、実はかなりお得らしいのだが。

 ただ、駅前Wi-FIの利用自体は進んでおり、2014年7月下旬には2485人が仮登録し、998人が登録・利用しているという。

速報をさらに速く、複数の情報経路を一括制御

情報伝達制御システムの概要

 災害時に情報を伝達するという点では、「情報伝達制御システム」も構築した。三鷹市が保有する複数の情報伝達メディアで一斉に情報を発信できるようにするものだ。対象メディアは「防災無線」「エリアメール」「Twitter」「Webサイト(駅前Wi-Fiサイトを含む)」「IP告知システム」「CATV」の6種類。テキスト情報をシステムに登録すると、メールやTwitterでの発信、CMSを介してのWebコンテンツ生成、音声合成による防災無線など、各メディアの特性に応じた形式に自動変換し、一斉に速報が発信できる。

 「これまで個別のメディアごとに情報発信する場合、その全てで入力作業が発生していました。この業務には3名の職員が従事して1時間近くかかっていたのですが、新システムでは1名の職員が3分で行えるようになりました」(後藤氏)。

 これにより、業務負荷を減らすとともに、大幅に情報伝達をスピードアップできた。ただ「テキストは、最低文字数のメディアに合わせた内容にしなければなりません。あくまで速報として利用して、その後、詳細を伝えるのに適したメディアで情報を追加する運用が必要になります」(大高氏)という。

(川島 弘之)