事例紹介

「技術継承」に一役!? マニュアル作成ツール「Teachme Biz」が職人に好評なワケ

 マニュアル作成ツール「Teachme Biz」の利用が広がっている。2010年に設立された株式会社スタディストが提供するクラウド型サービスで、業種を選ばずさまざまな現場で利用されている。スタディストも積極的に事例を公開しており、最近では、損保ジャパン日本興亜の合併に伴うマニュアル整備に採用された事例が注目を集めた。

 中でも本稿で取り上げたいのは、工芸・製造業での採用事例。日本が誇る職人芸も、その後継者不足に悩まされており、いかに次代へ技術継承するかが課題となっている。そんな現場でTeachme Bizが使われているという。職人にウケた理由とは――?

高齢の職人が「足跡」残す

 この記事のきっかけは、長野県で「へぎ板」をつくる「小林へぎ板店」の存在を知ったことだ。店主で60代後半の小林鶴三さんがTeachme Bizを導入し、自ら使っているのだという。

 へぎ板とは、簡単にいえば「薄く加工した板」のことで、一般的には「材木を薄く削り取る」そうだが、小林さんのつくるへぎ板は削ることなく、基本的に板を薄く割っていく工程だけで製作される。へぎ板を編むことで「網代」となり、幾何学的な紋様の美しい建材として、古くは数寄屋建築などで、現代でも天井、建具、衝立などに使われている。

なたで板に切れ込みを入れ、少しずつ割いていく
極薄にする場合は、ある程度まで割いて、あとは手でへぐ
へぎ板を編んで網代を製作
天井網代の施工例
網代の戸を入れた水屋箪笥
亀甲網代

 網代の中にはへぎ板を約0.6mmにしないと編めないものもあり、特に「亀甲網代」と呼ばれる編み方は、小林さんにしか扱えない技法という。元々職人の数が少ない技術だったそうだが、小林へぎ板店も後継者が見つからず――。技術喪失を前にして小林さんが考えたのが、Teachme Bizで作業工程を画像や動画で公開し、自身の職人としての「足跡」を残すことだった。

 小林さんは、Teachme Biz以前もWebサイトを作成して情報を発信していた。とはいえ、決してPCスキルに明るいわけではない。それでも使いこなせるのであれば、職人の世界へさらに広がる余地があるのでは? 技術喪失問題に少しでもITが貢献できるのでは――? そう思って「技術継承」におけるTeachme Bizの可能性を探ってみたくなった。

Teachme Bizってどんなツール?

 Teachme Bizの特長は、スマホアプリを使って「写真撮影・登録」と「説明文の入力」だけでマニュアルが作成できる点。完成と同時にクラウド上で配布でき、修正もいつでも即時に行える。

 使い方は、マニュアルの表紙や各ページごとに写真を登録し、写真ごとに説明文を記入する。紙芝居に似た感覚だ。スマホカメラで撮影した写真のほか、動画や音声でページを構成してもいい。

「作成・編集」タブから「新規マニュアルの追加」をタップ
まずは表紙を作成。「写真を撮影」をタップしてスマホカメラから画像を登録する
マニュアルタイトルと説明文を付けて「保存」
続いて「新規ステップの追加」をタップして、ページを作成
写真を撮影してタイトルと説明文を入力。手順の分だけこれを繰り返してマニュアルを作り上げていく
マニュアルが完成したらメニューから「公開」を選択

 完成したら、メニューから「公開」を選ぶ。グループ内のメンバーだけに公開するなど公開範囲の調整も可能だ。公開済みのマニュアルはいつでも修正できる。アルバムから写真を複数選択して一挙に画像を登録し、スワイプで順序を入れ替えながら作成することもできる。

 また、写真にはテキスト・図形・モザイクなどを挿入して説明を補足することも可能だ。

写真にテキスト・図形・モザイクなどを挿入

 公開したマニュアルは、リスト形式またはスライドショー形式で閲覧できる。

「閲覧」タブから、公開されたマニュアルを確認
マニュアルをリスト形式でみる
スライドショー形式でみる

 価格は「Premium 5」が月額5000円(税別)から。マニュアル作成者となる「メンバー」が5名、閲覧者となる「ゲスト」は無制限となり、「ゲストによる月間閲覧回数」に100回/月と制限がつく。有償プランはこのほか3つ用意されており、「メンバー」と「月間閲覧回数」に応じた価格が設定されている。無償の30日お試しプランも用意される。

基本プラン

 オプションの「プレミアムゲスト」を契約すると、マニュアル更新のプッシュ通知や、コメント・グッジョブ機能なども利用可能となる。社内マニュアルについて、社員からフィードバックを受けたい場合はこちらが使える。価格は50人単位で月額1万円(税別)。

 このほか、各マニュアルの読まれ具合を把握できるレポートも搭載。作成したマニュアルを社外に公開できる「トリセツ簡単作成キット」というオプションも用意される。名前の通り、Teachme Bizでトリセツ(取扱説明書)を作成し、対外的に公開できる機能だ。

肩肘張らずに作成できるのがミソ

 Teachme Bizの特長は「右脳的にマニュアルを作成できる」ところにあると思う。マニュアル作成に対する筆者のイメージは、Wordなどにまず文章を書き、必要に応じて画像を張り付けるというものだった。それがTeachme Bizでは、まず写真を撮り、そこに文章を加えるスタイルだ。

 写真起点なのが右脳的で、非常に直感的である。実際、スタディスト代表取締役の鈴木悟史氏によると「肩肘張らずにできる」というユーザーの声が多いという。まずは深く考えずに写真を撮って、必要に応じて差し替えられる。このため、ユーザーも写真はあまりこだわらず、サクッと撮影していることが多いという。

 では「技術継承」の現場ではどうだろうか。もちろん、職人の技術には「知識」だけでなく、手が覚える「技」も必要である。技の熟練には地道に修練を重ねる以外にはなさそうだが、Teachme Bizで「知識」の伝承が可能になれば、意味は大きいのでは?

 そのあたりを探るべく、Teachme Bizのユーザーであるアースアテンド株式会社を取材してきた。同社はパイプとバルブの間から液体の漏れを防ぐ、ガスケット・パッキンなどを加工・販売する企業。「切削加工」や「抜き打ち」といった技術で、さまざまな素材の加工を請け負う「精密加工集団」だ。その現場でTeachme Bizはどう利用されているのか――。

(川島 弘之)