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日本IBMが企業ITシステムの自動化戦略を解説、レッドハットやHashiCorpとエンドトゥエンドでの支援体制を整備

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は10日、企業ITシステムの自動化に向けたオートメーション事業戦略について説明した。

 IBMは、2019年にRed Hatを買収したのに続き、2025年にはHashiCorpの買収を完了。これに合わせて自動化ソフトウェアのポートフォリオを拡大しており、システムの設計から構築、運用、保守、最適化まで、エンドトゥエンドで自動化を支援する体制を整備している。

 日本IBM 取締役専務執行役員 テクノロジー事業本部長の村田将輝氏は、「AIと自動化は、コインの裏表の関係にある。セットで考えるべきである」と前置き。「企業ITシステムは、ハイブリッドクラウドの導入によって、複雑性が増し、エントロピー増大リスクが生まれている。それは、データ、プログラム、システム間接続、安全性といった領域に及んでいる。これを解決するには自動化が必須である。IBMでは、システム運用をライフサイクル全体で自動化すること、システム連携基盤をフルスタックで統合および自動化することを目指している。自動化ソフトウェアについては、買収、アライアンスを繰り返し、幅広い能力をそろえている」と説明した。

日本IBM 取締役専務執行役員 テクノロジー事業本部長の村田将輝氏

 またIBMでは、事前に開発、テスト、接続した製品を提供。2025年3月にはAIを安全、簡単に接続するためのAIプラットフォームを発表したのに続き、新たに「ハイブリッド統合連携基盤」、「ハイブリッド運用の包括的自動化」、「CIOのためのダッシュボード」、「仮想化基盤の最新化/最適化」による各種プラットフォームを提供することを発表している。ハイブリッド・マルチクラウド、AIを活用して、運用、開発、管理のあらゆる領域で、自動化を進める姿勢を示した。

 さらに村田氏は、「IBM、Red Hat、HashiCorpの3社は、テクノロジーによって今日と未来をつなぐ懸け橋になるという共通のミッションがある。HashiCorpは、テクノロジーとマルチクラウドの世界をつなぐ『橋』であり、Red Hatは、オープンソースの手法によって良質なテクノロジーを開発し、お客さま、開発者、パートナー企業の『懸け橋』となる。そして、IBMは世界をより良くする『カタリスト(触媒)』の役割を担う。これにより、お客さまの革新をリードする」と位置づけた。

革新をリードするパートナー

 「ハイブリッド運用の包括的自動化」への取り組みでは、TerraformとAnsibleの連携が鍵になる。

 レッドハット 常務執行役員 技術営業本部長の三木雄平氏は、「企業ITシステムは複雑化する一方で、限られた体制で運用しなくてはならない。自動化のベストプラクティスを適用し、ROIを最大化する必要がある」とし、「自動化のベストプラクティスとなるのが、HashiCorpのTerraformと、Red Hat Ansible Automation Platformの組み合わせである。TerraformはInfrastructure as Code(IaC)の理念を実現し、Ansible はConfiguration as Code(CaC)の考え方を持っている。相互に補完する関係がある。IBMによるHashiCorpの買収によって、企業レベルのサポートを提供できるようになった。ライフサイクル全体を包括的にカバーできる」と述べた。

Terraform+Ansibleによる新しい時代のITインフラ管理
ライフサイクル全体を包括的にカバー

 また、HashiCorp Japan ディレクターの伊藤健志氏は、シークレットライフサイクル管理を実現する「Vault」の強みについて触れ、「TerraformとAnsible、Vaultが連携することで、インフラ構築やアプリケーション構成に必要となる認証情報や証明書管理を一元的に行え、アクセス制御も自動化できる。さらに、シークレット管理を可視化し、リスクを浮き彫りにし、これに対するアクセスを制限するなど、セキュアな環境を実現できる」と説明した。

レッドハット 常務執行役員 技術営業本部長の三木雄平氏(左)、HashiCorp Japan ディレクターの伊藤健志氏(右)
シークレットライフサイクル管理を実現する「Vault」

 例えば、TLS証明書(サーバー証明書)は、現時点での最大有効期間が398日だが、2027年3月には100日に、2029年3月には47日に短縮される。

 「これによって、セキュリティエンジニアの負担が大きくなり、手作業で行うのは現実的ではなくなるのは明らかだ。自動化することで、スピード、効率、安全性を実現し、価値を高めることができる」と述べた。

サーバー証明書の有効期間短縮

 一方、日本IBM 理事 テクノロジー事業本部 オートメーション事業部長の上野亜紀子氏は、「ハイブリッド統合連携基盤」について説明。「変革を加速するためのテクノロジーの積極的な採用は、ITの進化を加速する一方で、複雑性を招き、統合技術のカオス、ツールの乱立を生み出し、管理者や開発者に大きな負荷を与えている、また、これまでのツールでは、AIの加速やSaaS連携への対応が難しくなっている」と指摘。「統合基盤を見直し、これからの時代に必要な統合基盤を再考するタイミングである」と述べた。

日本IBM 理事 テクノロジー事業本部 オートメーション事業部長の上野亜紀子氏

 日本IBMでは、2024年に買収したwebMethodsと、IBMのインテグレーション製品を融合した「IBM webMethods Hybrid Integration」を、2025年6月16日から提供を開始すると発表。複数のシステムとの連携を、ひとつの統合プラットフォームで一元管理できるほか、AIエージェントと実装済みコネクター、ノーコード・ローコードによって、経営戦略に合わせた接続や開発を迅速に実現。オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウド環境を統合した管理を可能にするという。

 「IBM webMethods Hybrid Integrationによって、サイロ化したツールを一元的に管理、集約し、企業全体の統合基盤を可視化でき、瞬時に状況を把握できる。管理者、開発者の負担を大幅に軽減する。今後はパートナー企業と連携し、マルチベンダーに対応した統合管理環境を実現していく」と述べた。

IBM webMethods Hybrid Integration

 また、日本IBM 執行役員兼技術理事 テクノロジー事業本部 プロフェッショナルサービス統括部長の藤田一郎氏は、CIOのためのダッシュボードという観点から説明。「運用や開発、統合の自動化に加えて、複雑化するシステム全体を、CIOが業務の視点から把握できる自動的な仕組みが必要になってきた。IBMでは、複数の可観測ツールやAIを、CIOのために自動的に統合することで、変化が必要なときに、常に最新の情報を自動的に収集できる仕組みを提供している」とした。

日本IBM 執行役員兼技術理事 テクノロジー事業本部 プロフェッショナルサービス統括部長の藤田一郎氏

 日本IBMでは、自動的な情報取得を行い、業務起点でのドリルダウン分析を行う環境を構築するためのPoCを開始。オブザーバビリティツールであるInstanaやTurbonomic、SevOneなどの情報を、それぞれのレイヤーから収集し、業務、データ、ネットワークなどを網羅したエンドトゥエンドの環境を可視化するための取り組みを開始しているという。

不確実な時代にCIOが見るべき情報とは?

 なお、IBMのオートメーション事業戦略について、日本IBMの藤田氏は、「歴史を振り返ると、IBMは、1964年にシステム360を市場投入するとともに、COBOLなどに投資をして、メインフレームの時代をリードしてきた。1995年前後になると、Linux、Java、MQ、HULFTなど、分散化したオープン時代を支える基礎技術の最初のバージョンが登場し、IBMはそこにも対応をしてきた。2025年は、ハイブリッドクラウドとAIの時代になり、自動化が必須になる。自動化においては、OpenShift、Transformer/LLM、Hybrid Integration、AnsibleおよびTerraformが重要な役割を果たす。2025年以降の技術は、AIのための技術であると同時に、自動化のための技術になる。AIとビジネスとの共存を実現し、増大するエントロピーを抑制することが経営課題になる。これを解決するために自動化が必要になっている」などと述べ、IBMが自動化に注力している背景をあらためて強調した。

IBMは、今も昔も、すべてのプラットフォームに技術提供