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日本IBM、「AIサービス・インテグレーター」としてAIをビジネス価値に転換へ
2025年のAI戦略と重点施策を発表
2025年3月14日 14:00
日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は13日、2025年のAI戦略に関する説明会を開催した。説明会では、昨年3月にリリースした「IT変革のためのAIソリューション」を含むAI領域での最新の取り組み状況とともに、今年のAI戦略の方針および重点施策について発表した。
まず、AIに関する2024年の取り組みについて、日本IBM 取締役常務執行役員 テクノロジー事業本部長 兼 Chief AI Officer(CAO)の村田将輝氏は、「昨年は、AIを知り、AIによって組織と人を強化学習した1年だったと考えている」と振り返る。その中で、同社が実現したこととして、「デジタル変革のためのAIソリューションを開始」、「400件を超えるパイロット・プロジェクトを実施」、「IBM社内業務、IBM製品へのAIの組み込みを推進」の3つを挙げた。
具体的には、昨年8月に発表した「デジタル変革のためのAIソリューション」では、ビジネス変革とIT変革の両面から全社的なデジタル変革におけるAIの実用化を加速した。また、パイロット・プロジェクトでは、高サイクルの技術検証を通じてAIスキルとアセットを開発し、品質と生産性を改善。現在、パイロット・プロジェクト専任のエンジニアは約130人を超えており、その半数がAIエンジニアだという。そして、IBMの基盤モデルやAI技術を社内業務や製品に採用し、自社での体験価値をソリューションとして展開。社内の生成AIスキル認定コンサルタントはすでに1万人を超えている。さらに、IBMのオープンで小規模な基盤モデル「Granite 3.0」を自社製品へ積極的に組み込んでいる。
ここで村田氏は、3月12日に国内発表された基盤モデルの最新版「Granite 3.2」について触れ、「『Granite 3.2』では、推論を強化するための思考連鎖機能を搭載しており、安全性と深い推論を必要とするタスクで高い性能を発揮する。また、推論機能の導入により一般的に生じる性能劣化を回避し、深い推論を機能強化しても全体性能を保つことに成功した。導入企業は、目的に適したモデルをチューニングすることで、性能と経済効率を両立させることが可能となり、業務特性やシステム要件に応じた最も経済合理性の高いAIの組み合わせを実現できる」と、バージョンアップのポイントを紹介した。
こうした状況を踏まえて、今年のAI戦略について村田氏は、「2025年は『AIをビジネス価値に転換する年』と位置づけ、IBMは『AIサービス・インテグレーター』として、顧客がAIの能力を迅速に、そして安全にビジネス価値へと転換する懸け橋になることを目指す」との方針を示した。
この戦略実行を加速するための重点施策としては、「オープンな『AIプラットフォーム・サービス』の提供」、「『IT変革のためのAIソリューション』を本番環境に適用・拡大」、「AIパートナーシップで、AI+への変革を顧客と共に加速」の3つの取り組みに注力していくという。
まず1つ目の重点施策、オープンな「AIプラットフォーム・サービス」の提供では、従来のデジタルサービス・プラットフォーム(DSP)を拡張し、DXやAIアプリをプラグインすることで、AIプラットフォームへと発展させていく。そして、さまざまなIBMテクノロジーとアセットを組み合わせ、AIプラットフォーム・サービスを実現することで、AIをより迅速に(30%スピードアップ)、より生産的に(40%コスト圧縮)、より安全に(ゼロ・トレランス)に活用できるようにする。
2つ目の重点施策、「IT変革のためのAIソリューション」の展開については、日本IBM IBMフェロー執行役員 コンサルティング事業本部 最高技術責任者の二上哲也氏が説明。「昨年3月に『IT変革のためのAIソリューション』をリリースし、約1年が経過した。昨年は検証やPOCが多かったが、後半からは本格的な業務でのAI活用が進み、ソリューションの基本機能も整備されてきた。また、顧客課題の解決に向け、『AIパートナーシップ』や『AI+PLIコンソーシアム』の取り組みを開始し、顧客のシステム環境に最適化したAIソリューションの共創にも取り組んできた」という。
今年は、「IT変革のためのAIソリューション」の本番環境への適用・拡大に向けて力を注いでいく考え。同ソリューションは、「AI戦略策定とガバナンス」、「コード生成のためのAI」、「テスト自動化のためのAI」、「IT運用高度化のためのAI」、「プロジェクト管理のためのAI」の5つソリューションで構成されており、三上氏が各ソリューションの今後の展開を発表した。
「AI戦略策定とガバナンス」では、ATの具体的な活用領域としてモダナイズのためのAIエージェントの開発に着手し、今年半ばのリリースを目指す。また、AI本番活用推進のエンジンとなるAI CoE組織の立ち上げ・運用への需要が増加していることを受け、AI活用推進の指針となるAI成熟度モデルをリリースし、実案件でのロードマップ作成に活用する。
「コード生成のためのAI」では、金融系・製造系の大規模基幹システムを中心に本番適用を拡大する予定。また、IBM共通コード基盤モデルにさらに顧客固有のコードも学習し、オンプレ環境でも提供していく。さらに、ソリューションの中核となる「コード生成のためのAIツール」を本格展開し、顧客環境に合わせてカスタマイズしながら活用していくとした。
「テスト自動化のためのAI」では、金融系・保険系・医療系のシステムを中心に本番適用を拡大する予定。また、顧客ニーズに合わせた機能拡張を通じてテスト自動化生成ツールの価値を拡大し、本格展開を図る。これに加えて、テスト自動化ソリューション「自動打鍵テスト」を完成させ、リリースする予定。
「IT運用高度化のためのAI」は、すべてのアプリケーション保守サービス(AMS)案件へのソリューション導入を計画しており、AMSでの過去の知見、IBM標準プロセス、保守・運用のベストプラクティスを学習させていく。また、2025年Q2以降に、「IBM Consulting AIOps2.0」を順次提供する予定。最新版のダッシュボード機能では、IT運用全体のデータを関連付けて分析し、ほぼリアルタイムにビジネスとITの健全性に関する示唆を提供するという。
「プロジェクト管理のためのAI」については、複数案件でレポート自動生成機能の実証検証を実施中で、今後、保険業界の顧客で本番適用が開始される。また現在、レポート自動生成機能において、従来の定量的な総合評価コメントを補完する生成AIを活用した定性的な総合評価コメントの自動生成を開発しており、今年5月末にリリースする予定。
3つ目の重点施策、「AIパートナーシップ」の取り組みとしては、デジタル変革パートナーシップ包括サービスに次ぐ「AIパートナーシップ包括サービス」を提供開始し、開発・保守・運用においてAIを活用することで顧客との共創の効率化と、AI CoEによるAI統合管理を支援する。
また、AI+PLIコンソーシアムを設立。金融業界を主な対象として、IBMが取り組んでいるPL/Iに関する生成AI活用の最新動向やノウハウについて共有できる場を提供する。さらに、IBMコンサルタントの知見を集結して構築したAIプラットフォーム「IBM Consulting Advantage」(ICA)によって顧客との共創を加速していくとした。