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顧客の購買体験はデジタルからフィジカルに――、AWSが8年ぶりに「リテールテックJAPAN」に出展へ

 アマゾンウェブサービスジャパン合同会社(以下、AWSジャパン)は18日、3月4日~7日の4日間にわたって東京ビッグサイトで開催される「リテールテックJAPAN 2025」(主催: 日本経済新聞社)の出展を前に、報道関係者向けに展示内容の事前説明を行った。

 AWSジャパンが同カンファレンスにブースを出展するのは2017年3月以来となるが、今回の出展について、AWSジャパン エンタープライズ技術本部 流通小売・消費財グループ本部長 五十嵐建平氏は「AWSのテクノロジは長年にわたってAmazon.comのビジネスを支えてきた。生成AIによる顧客体験が多くの業界で向上している現在、あらためて日本の小売業界にAWSが培ってきた知見を届けていきたい」と語り、特に購買体験にフォーカスしたソリューションを紹介していくとしている。

AWSジャパン エンタープライズ技術本部 流通小売・消費財グループ本部長 五十嵐建平氏

 リテールテックJAPAN 2025には250を超える企業/団体が出展し、期間中には約8万人の来場者数が見込まれている国内最大級の展示会で、流通/小売業務家の情報システムと最新技術が一堂に集う機会となっている。

 今回、AWSジャパンは「来店前のエンゲージメント構築から、物理の店舗への来店、実際のショッピング、購入、そして購入後のカスタマーサービスに至るまでの一連のカスタマージャーニーにしたがって、デジタルとフィジカルの両面から購買体験を向上できるソリューションをパートナー企業とともに数多く展示する」(五十嵐氏)予定で、Amazon.comが採用する没入型バーチャル3Dショッピング「Amazon Beyond」や、ホログラムショッピング「Virtual Try-All」などをブースで実体験できる。

AWSジャパンの展示は「顧客体験」にフォーカス、顧客がリアル店舗で体験するエクスペリエンスに、生成AIなどの最新テクノロジを反映させたソリューションを紹介する

 AWSジャパンが8年ぶりにリテールテックに出展する理由について、五十嵐氏は「生成AIの登場により、小売業界の顧客に提供できるものが大きく変わった」と生成AIが大きなトリガーだったと語る。もともとAmazon Web Services(AWS)は、親会社のAmazon.comをテクノロジの側面からサポートするために生まれたビジネスユニットであり、「“小売業から生まれた、小売業のためのクラウド(Born from Retail, Built for Retailers)”として、Amazon/AWSが起こしてきたイノベーションを小売業の顧客に還元していきたい」(五十嵐氏)という思いは非常に強い。

AWSのテクノロジが支えてきたAmazon.comのイノベーション
03.jpg 小売業はAWSの原点であることを示す「Born from Retail, Built for Retailers」

 日本の流通/小売業界でも顧客エンゲージメントの強化やDX推進の基盤、あるいは基幹システムとしてAWSクラウドを採用する事業者は多く、例えばファーストリテイリングやサントリーホールディングス、カインズといった大手企業の導入事例もよく知られている。だが、生成AIはこれまでAWSが小売業界に提供してきた数々のソリューションとは違った角度からのイノベーションを起こす可能性が高いと五十嵐氏は強調する。

 「店舗でモノを買うという行為はこれから10年20年たってもなくならない。だが購買という行為から顧客が受ける体験(エクスペリエンス)は大きく変わってきており、生成AIによってさらに劇的に変わろうとしている。いまはちょうど購買体験がドラスティックに変わるはざまであり、すぐそこに来ている小売の未来をより多くの人々に見てもらいたくて8年ぶりにリテールテックJAPANへの出展を決めた」(五十嵐氏)。

小売業における、“デジタルからフィジカルに”というトレンド

 五十嵐氏がいう“購買体験の変化”とは具体的に何を指すのか。同氏は小売業界における現在のトレンドとして、「デジタルからフィジカルに」という流れがあると指摘している。小売事業者にとってはオンラインビジネスの拡大は常に重要なテーマだが、物理空間に店舗を構えている場合、そこでの購買体験の向上もまた、企業として果たさなければならないミッションである。

「デジタルからフィジカルに」は顧客体験にフォーカスした今回の展示をあらわすテーマのひとつ

 だが現在は「デジタルとフィジカルのエクスペリエンス分離した状態で存在しており、融合するに至っていない」と五十嵐氏はいう。逆に、もしオンラインショッピングなどのデジタル空間で得られたエンゲージメントをリアル店舗などフィジカルでも活用することができれば、顧客の購買体験をより高め、ブランドに対するロイヤリティ向上につながる可能性が高くなる。また、小売事業者にとっての大きな課題である返品率に関しても、没入型体験により顧客の購入前のエンゲージメントが高まれば、大幅に軽減できるという期待もある。

 そうした「デジタルからフィジカルに」の流れにおいて注目されている技術のひとつが、没入型体験(immersive experience)を取り入れたショッピングサービスだ。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などに代表される没入型体験は、映画やゲームなどエンターテインメントの分野での活用がよく知られているが、VRによる仮想店舗など小売業界でも徐々に普及が進みつつあり、ある調査によれば、55%のブランドと小売事業者が「今後3年間で没入型体験への投資を増やす」と回答している。

VRやARを取り入れた没入型体験の関心は高く、購入前のエンゲージメントを高め、返品率を減らす効果も期待されている

 Amazon.comは、同社の販売事業者が既存のショールームをもとにしたデジタルツイン(仮想店舗)を簡単に構築できるツールとして「Amazon Beyond」を開発、顧客が場所や時間を問わずに自分のデバイスからリアル店舗をイメージしやすい環境でショッピングを楽しむことを可能にしている。実際のショールームのデジタルツインをベースにすることで、販売事業者は自社のブランドイメージを顧客に伝えやすくなり、ショールームやリアル店舗に顧客が足を運ぶ可能性も高くなる。

Amazon.comの販売事業者向けに開発されたリアル店舗のデジタルツイン「Amazon Beyond」

 Amazonはホリデーシーズンにあたる2024年11月1日~12月28日の8週間にわたり、Amazon Beyondを使った仮想ショッピングモールを実験的に展開している。結果として、アクセスした顧客は1万2000時間以上滞在、1000万回以上のインタラクションを達成し、顧客エンゲージメントの強化、また95万インプレッションを獲得してブランドのエンゲージメント強化につながったという。

2024年のホリデーシーズンにおけるAmazon Beyondのビジネスインパクト

 Amazon Beyondは、AWSのさまざまなテクノロジを使って構築されているが、3Dショップの360度ビューや高解像度のズームイン、カート追加機能など購買体験の向上に欠かせない部分はパートナー企業のObsessの技術が使われている。

Amazon Beyondで使われているテクノロジとAWSサービス。現実の空間(ショールーム)を取り込み、使いやすいUIを備えた仮想空間を構築するまでにさまざまな技術が使われている

 没入型小売環境の構築を得意とする同社のテクノロジは、eコマースサイトやモバイルアプリでも評価が高く、Amazon Beyondにおける購買体験の向上を支えている。「今回リテールテックJAPANで展示するソリューションの多くはAWSのパートナー企業との共同展示。AWSの小売業における知見を伝えるには、顧客のことをよく知るパートナーの協力が不可欠」(五十嵐氏)。

AWSのバーチャル3Dショッピング技術はObsessやProto、Avataarなどのパートナー企業の技術も含まれている

仮想的に商品を試せる、研究段階の「Virtual Try-All」も展示

 没入型体験を実現するテクノロジとして、もうひとつ五十嵐氏が紹介したのが、仮想的に商品を試すことができる「Virtual Try-All」である。現在はまだ研究段階だが、オンラインショッピングでは一般的になりつつある衣料品の仮想試着(virtual try-on)よりも、「(衣料品だけでなく)幅広い製品カテゴリや環境に対応可能な、選択肢を拡張する技術」(五十嵐氏)として、小売におけるデジタル→フィジカルの流れを加速することが期待される。

 Virtual Try-Allは、Amazonが開発した新しい生成AIモデル「Diffuse-to-Choose」をベースにしており、従来の仮想試着ソリューションよりも正確かつ高速に製品を仮想的に視覚化することを可能にする。また、事前に3Dモデルや複数の製品ビューを用意する必要はなく、2D画像が1枚あれば「あらゆる製品、あらゆる場所、あらゆるシーン」に対応した画像をリアルタイムに生成でき、コスト効率にすぐれたスケーラブルなアプローチとしても注目度が高い。

「Virtual Try-All」にはAmazonが新たに開発した生成AIモデル「Diffuse-to-Choose(DTC)」が実装されている。特定のシーンで衣料品や家具の色や質感をリアルタイムに変更するための正確なセマンティクス操作を保証する

 リテールテックJAPAN 2025では、このVirtual Try-Allのデモとして、AWSのパートナー企業であるProtoの等身大ホログラムデバイスを利用した試着「AWS Try-All Demo」や、仮想空間の部屋でインテリアのイメージを変更する「AWS Room Makeover」などが展示される予定だ。いずれもリアルタイムで違和感のない、さまざまな“試行”を体験することができる。

リテールテックJAPANで展示予定のVirtual Try-Allを搭載した等身大のホログラムによるショッピング体験。デバイスはProtoの製品
Virtual Try-Allを使ったルームギャラリーのARショッピングも展示される
没入型のリアルタイムショッピングで多くの導入実績があるAvataarの技術を使った商品説明。時計を分解した状態を3Dでさまざまな角度から表示(デバイスはProto M)

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 このほかにもAWSジャパンブースでは、Protoのデバイス上のアバター店員による商品説明や、Stripe(デジタル決済)やQualtrics(カスタマーサポート)と連携したソリューションが数多く展示される予定となっている。

リテールテックJAPANのAWSブースはAWSの技術はもちろんのこと、さまざまなパートナー企業の技術も同時に展示、顧客体験に関する現在のAWSエコシステムを概観できる

 数ある小売向けテクノロジの中から、今回のリテールテックJAPANではあえて“購買体験”の展示にフォーカスしたAWSジャパンだが、五十嵐氏は「せっかくの物理環境での展示なのだから、テクノロジをただ見てもらうだけではなく、来場した方に購買体験の変化を体験してもらいたい。そしていまより少し先の小売の未来、夢物語ではなくチャレンジ可能な未来を日本の小売業界の方々に実感してほしい」とその理由を語る。

 オンラインショッピングが人々にとって日常の習慣となり、デジタルの世界には新たな小売の知見が蓄積されたが、今度はデジタルで積み重なった購買体験がフィジカルな店舗でのショッピングに反映されようとしている、そうしたトレンドの変化を実感できるユニークな機会となりそうだ。