大河原克行のクローズアップ!エンタープライズ

日本マイクロソフト、売上高の50%をクラウドで占めると宣言!

クラウドビジネスへの取り組みを平野拓也社長に聞く

 「日本マイクロソフトは、2年後には売上高の50%をクラウドとする」――。

 日本マイクロソフトの平野拓也社長は、米国フロリダ州オーランドで開催されたパートナー向けイベント「Worldwide Partner Conference(WPC) 2015」の会場において、日本のパートナー400人を前にこう宣言した。同イベントでは数多くのクラウドパートナー向け戦略が発表され、クラウド事業を加速する体制が本格的に整ったともいえる。

 「クラウドで売り上げの半分」という宣言は、売り上げの92%を占めるパートナーによるクラウド販売体制が整った自信の裏返しによるものだ。

 そして、2016年度中にはパブリッククラウドでナンバーワンシェアを目指すことも宣言した。WPC 2015の会場で、平野社長に日本マイクロソフトの新たなクラウド戦略について聞いた。

日本マイクロソフトの平野拓也社長

WPC 2015で打ち出した施策はクラウド事業にどう影響するのか?

――WPC 2015では、数多くのパートナー向け施策が発表されました。特にクラウドに関する施策が強化されています。これらの各種施策は、日本マイクロソフトのクラウドビジネスにおいて、今後、どんな影響をもたらしますか。

 サティア(ナデラ氏)がCEOに就任して1年半が経過し、彼が考えていたことや、会社の方向性を、いままで以上に訴えることができたのが、今回のWPC 2015の特徴でした。なぜクラウドがお客さまにとっていいのか、ということを提案するのが、これからのMicrosoft。クラウドは便利であるという話から、例えば、Cortana Analytics Suiteのようなサービスを活用することで、付加価値をどう高めるかといった提案を行うこと、それをベースに、Microsoftの今後の戦略はどうなるか、どんなポジションを担うのかといった方向性が明確になったといえます。

 日本のユーザーは、慣れ親しんだものを長く使い続けるという特徴があります。また、その一方で、クラウドに対する興味と関心はあるが、まだ不安を持っている人もいる。さらに、一部には、「クラウド=コスト削減」という観点にしか目が向いていない人たちもいます。

 問題は、単にクラウドの世界に導くことではなく、クラウドを利用することの価値がどこにあるのかを理解してもらい、それによって、クラウドを利用してもらうこと、価値をしっかりと定義していくことが、日本マイクロソフトの仕事となります。

 Microsoft Azureには、さまざまな機能があります。しかし、こんな機能がありますというだけでは、ユーザー企業にも、パートナー企業にも理解をしていただけない。どの機能がどうあてはまるのか、どのコンポーネントをどう利用すれば価値が創出できるのか。セキュリティはどうなのか。そうしたことを、丁寧に会話をしていく必要があると考えています。

 そこに、Microsoft Azureがフィットするのであれば、ぜひ、Microsoft Azureを使っていただきたい。どんな機能があるのかがわかりにくいという課題に対して、日本市場においては、10種類のシナリオをパッケージ化して提案していくつもりです。

 もはや、「クラウドの世界に、ぜひきてください」というフェーズではなく、価値を訴求できる部分がどこか、強みがどこかという点を伝えていかなくてはならないといえます。そこで、日本マイクロソフトの競争力を高めていきたいと考えています。

 日本マイクロソフトは、今回のWPC 2015で、2年後には売上高の50%をクラウドとする目標を打ち出しました。これを実行する上で、WPC 2015で打ち出した数々の施策は、日本マイクロソフトの経営の舵取りを行う上でも、原点になるものだといえます。数年後にWPC 2015を振り返ったときに、ここがアクセラレーションポイントであったと言うことができるのではないでしょうか。

コンサンプション(消費)を中心とした事業展開

――Microsoftは、クラウド事業の中核に、「コンサンプション(消費)」という考え方をおき、この指標にこだわっていくことを明確にしました。この狙いはなんですか。

 コンサンプションをベースとした考え方は、これからの新たな世界における定義のひとつだといえます。そして、これは、ライセンス売りだけのビジネスから決別するという宣言だと受け取ってもらってもいいと思います。そのためには、Microsoftもやり方を変えていかなくてはいけない。

 私は、2016年度の重点方針のなかに、「これまでのPCを核とした考え方から、人を核とした考え方へ」、「販売重視から、利用価値重視へ」といったことを含めました。この言葉に共通しているのは、ライセンス販売からコンサンプションへの転換、あるいは利用価値を売っていくことへの転換により、ビジネスの軸が変わるという意味を持ちます。

 そして、現場においては、インセンティブの仕組みはどうするのか、社内の評価制度はどうするのか、戦略はどうなるのか、オペレーションはどうするのか、組織と体制の作り方はどうなるのか、といった仕組みのすべてに影響が出てくるものだといえます。

 基本的な考え方やフィロソフィーを打ち出すというのとは、まったく違うレベルで、現実的に会社や組織運営、パートナーとの関係構築のメカニズムを組み替えることになります。PCにWindowsやOfficeがインストールされている数を重視するのではなく、これからの指標は、データセンターがどれだけ活用されているのかということになります。そのためにはお客さまに使ってもらわなくてはいけない。

 Microsoftは、将来のリーダーを目指す「チャレンジャー」の立場にあります。チャレンジャーという立場で考えれば、これは適切な指標の見方であり、時代の変化をとらえたタイムリーな指標だといえます。指標が「売り」から、「コンサンプション」に変わらなければ、Microsoftがチャレンジャーとして頂点を目指すための変革は、中途半端なものにしかなりません。メリハリがついた変化を目指す上では、この考え方はベースとなります。私自身、社長として、挑戦のしがいがあるテーマだと思っています。

パートナー戦略はクラウド事業拡大の重要な柱に

――WPC 2015の基調講演では、ケビン・ターナーCOOが、「Googleの幹部は、OfficeユーザーをGoogle Appsに移行させると言っているが、そうした自信過剰の部分が、私たちにとってはむしろチャンスである」と発言しました。この発言を裏返した場合、どこにMicrosoftのクラウドビジネスの強みがあるといえますか。

 自信過剰という意味では、少し前のMicrosoftのようですね(笑)。Microsoftのクラウドビジネスの強みという点では、いくつかのポイントがあります。

 Office 365やMicrosoft Azure、CRM Onlineといったクラウド3兄弟によるサービスを提供していること、日本に東西2つのデータセンターを有していること、高いセキュリティレベルやプライバシー保護のルールを提供していることなどが挙げられますが、その一方で、Microsoftが、発達したパートナーシステムを有しているという点は、ほかのクラウドプロバイダーにはない大きな資産です。

 しかも、パートナー数を単に増やすとか、瞬間的にもうかるような仕掛けをして、こちらに向かせるとかではなく、しっかりと根付いたパートナーとの関係を持ち、その上で、トレーニングやインセンティブ、各種ツールの提供を実施。さらには情報提供などのコミュニケーション面でも他社にはない環境を実現するなど、長年にわたって、安心してお付き合いいただけるものがそろっているという点も、他社にはない特徴です。

 コンピテンシーを取得していただき、日本全国のパートナーが、どんなところに強みを持ち、どんなところに経験があるのかといったことを把握して、お客さまに対応できる。一定以上のスキルを持ったパーナトーが全国規模で、お客さまにアプローチするわけですから、ダイレクトを中心としているクラウドプロバイダーとは大きな差が出るのは当然だといえます。

 Microsoftパートナーネットワーク制度の歴史は20年以上になります。最近では競合他社がこの仕組みをまねるといった動きが出ていますが、契約、販売、サポートまで、パートナーの取り組みにおいて、すべてのライフサイクルを支援できるのが日本マイクロソフトの強みです。最近では、パートナー同士の協業が、ずいぶん生まれており、より統合された提案を行うといった動きが出ています。これも当社が持つ、日本に根ざしたパートナーネットワークだからこそ生まれたものです。

 もうひとつは、「Microsoftは顔が見える」という点です。仮に製品においてなにかしらの問題が発生した場合とか、商談を強く押したいといった場合にも、長年の経験をもとに、米国本社に聞かなくても、日本側で対応できるようになってきています。これも競合との大きな差といえます。

パブリッククラウドでのナンバーワンを目指す

――今回のWPC 2015では、2017年度に会社全体の売上高の50%をクラウドとする一方で、2016年度には、国内のパブリッククラウド市場で1位になることを打ち出しましたね。

 日本マイクロソフトがクラウド3兄弟と呼ぶ「Microsoft Azure」「Office 365」「CRM Online」の領域において提供する、SaaS、PaaS、IaaSでのパブリッククラウド領域で、ナンバーワンを目指します。プライベートクラウドやホスティングといった領域は対象にはしていません。

 パブリッククラウドの市場においては、2014年度は5番手、2015年度は3番手でしたが、2016年度は、競合他社の成長がこれまでの範囲であることを前提にし、われわれが計画している予算をしっかりとやれば、トップになれると考えています。

 主力となるOffice 365は、市場から高い評価と支持を得ています。Excel、Word、PowerPointとの親和性や安定性、さらには、Skype for Businessによってコミュニケーション機能およびコラボレーション機能の基盤が充実していること、Power BIも機能として差異化できるものを提供している点が挙げられます。

 そして、こうした製品の機能だけでなく、お客さまに対するサポータビリティへの評価、お客さまから顔が見える対応を行っている点で、他社との評価が根本的に違います。お客さまやパートナーから言われることは、対応の仕方と、ケアの仕方がまったく違うということ。日本マイクロソフトであれば、安心してパートナーシップを組んだり、安心して導入できるという声があります。機能だけでなく、顔の見えるサポートを提供していることに評価が集まっています。

 さらに、セキュリティやプライバシー保護に対する評価も高い。他社のように、個人のデータがどんなことに使われているのかがわからないといったこともありません。日本マイクロソフトは、ここ数年、ワークスタイルの変革を提案し続けてきましたが、その地道な活動がすごく響いていると考えています。

――クラウドビジネスの成長において、日本マイクロソフトが軸においたのが、直販ではなく、「パートナー」による事業拡大です。なぜ、パートナービジネスを重視するのでしょうか。

 日本マイクロソフトのビジネスは、いまでも92%がパートナーによるものです。クラウド時代においても、パートナーを通じたビジネスを重視することは当然です。クラウドを軸としたパートナーシップを強化することで、「パートナーをもっとも大切にしているクラウド企業は、日本マイクロソフトである」といわれることを目指します。

 2014年度にはクラウドパートナーは1500社でしたが、2015年度には2500社にまで増大しました。これを2016年度は、3500社に拡大します。今回のWPC 2015で発表されたCSP(クラウドソリューションプロバイダー)プログラムの拡張などを通じて、パートナーを通じたクラウドビジネスを、日本でもしっかりとやっていきたいと考えています。

 そのためには、われわれの体制の変化も必要ですし、パートナーも変革することが必要です。「変革を進めるパートナーとの協力関係」を構築することが、2016年度の重点ポイントのひとつです。変革するパートナーと一緒に、われわれも変革したいですね。

 また、パートナー戦略のひとつとして、ISVパートナーとの連携をさらに強化したいと考えています。7月1日付けで、ISVビジネス推進本部を20人体制で新設しました。この組織を通じて、ISVに対する情報提供、ソリューションの共同開発などを進めていきたいと考えています。

 社長就任以来、お客さまやパートナーを訪問して感じたのは、変革を目指しているMicrosoftが、これからどう変わるのかということに対する期待値です。米本社のCEOがサティア・ナデラへと変わり、それにあわせて変革が進んでいます。日本マイクロソフトの変革とともに、パートナーの変革を促すのが私の役割であると考えています。私が先頭になり、日本マイクロソフトの社員全員が、チャレンジャーとしてのマインドセットを持って、変革を進めていきたいと考えています。

 サティアは、「プロダクティビティとビジネスプロセスの改革」、「インテリジェントなクラウドプラットフォームの構築」、「革新的なパーソナルコンピューティング体験の創造」という3つの切り口から、Microsoftの「アンビション(野心)」を表明していますが、日本マイクロソフトでは、この考え方を基本にして、「これまでのPCを核とした考え方から、人を核とした考え方へ」、「販売重視から、利用価値重視へ」、「変革を進めるパートナーとの協力関係へ」、「Windowsにとどまらない新しいエコシステムへ」、「過去にとらわれず、変革と挑戦を進める社内文化へ」という5つの変革に取り組みます。

平野社長が就任後初の記者会見で示した、2016年度の重点分野

樋口前社長の作り上げてきた基盤の上で変革に取り組む

――社長に就任してから1カ月を経過しました。手応えはどうですか。

 外資系企業では、社長交代の際には、数カ月間にわたって社長のポストが空席になったり、暫定的に本社から人が来たりといったことが起こりやすいのですが、今年3月に新体制へと移行することを発表してから、数カ月間にわたって引き継ぎを行い、すでに3月以降に行われた2016年度の予算編成や、それに向けた体制変更は私が行いました。4

 多くのお客さまやパートナーを訪問し、お話をするなかで、社長業の責任の重さを強く感じています。しかし、その一方で、会長となった樋口の表情が、毎日毎日、明るくなっていくのを見て、少し悔しい思いをしています(笑)。私の役割は、これまでの成功モデルを、次の成功モデルにどう変えていくかという点。樋口が作り上げてきた「顔が見えるマイクロソフト」「日本に根付いた日本マイクロソフト」の基盤の上で、変革に取り組んでいきたいと考えています。

――そういえば、ゴルフもお酒もあまりやらないと聞きましたが。

 ゴルフは、東欧に行く前、日本で仕事をしていたときに、樋口から「120を切るように」と言われました。年始めに提示されたバジェットの最後に付け加えられていたのですが、冗談だと思っていたんです。最初に回ったら「176」。ある日、樋口から「ところでスコアの方はどうだ」と言われて、「この人、本気でバジェットのなかに入れているんだ」と焦った覚えがあります(笑)。

 それから猛練習をしたのですが、年度の終わりのスコアが「122」。2つだけ足りませんでした。ゴルフだけが目標を達成できていません(笑)。東欧時代の3年間はまったくゴルフはしていませんでしたから、これから猛練習しなくてはなりませんね。

大河原 克行