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Google Glassフィーバー、高まる期待とプライバシーの懸念

 メガネのようにかけるGoogleのモバイルコンピュータ「Google Glass」がメディアを盛り上げている。Googleがこのほど、技術仕様を公開し、開発者版「Explorer Edition」の出荷を開始した。ベンチャーキャピタルなど、Glassのエコシステムを確立しようという動きも活発化しており、期待は高まっている。Webには使用した感想、Glassを使って撮影した写真や動画がアップロードされ、同時に、問題点も浮上している。

詳細判明、開発者版の出荷もスタート

 Google Glassは、右目ガラス上部に装着した小型のコンピュータによって、目の前のオブジェクトに対する情報をAR(拡張現実)技術を利用して表示する端末だ。操作は音声コマンドで行う。Google社内で先進的な技術開発を行う「Google X」の代表的なプロジェクトで、2012年4月に共同創業者のSergey Brin氏が発表して以来、話題となってきた。

 Googleが4月15日に公開した仕様によると、ディスプレイは仮想的に、8フィート(約2.4メートル)先にある25インチサイズのHD画面に相当。カメラ解像度は5メガピクセルで、720pの動画撮影が可能という。無線通信は802.11 b/g、Bluetoothをサポートし、Bluetoothを使って携帯電話と接続できる。メモリーは計18GBのフラッシュメモリーを搭載。このうち12GBがユーザー領域で、Googleのクラウドストレージと同期できる。バッテリー持続時間は、典型的な利用の場合は1日としている。

 Googleは合わせて、1セット1500ドルで開発者向けに限定販売する「Explorer Edition」の出荷も開始した。アプリストアのGoogle Playには、Glassの設定・管理やSMSなどとの連携が可能になるAndroidアプリ「MyGlass」を登録している。

 Googleが公開したデモビデオでは、Glassを利用する人の目にナビゲーションを表示したり、音声コマンドで写真やビデオを撮影して友人と共有したり、Google検索を行う体験がどのように映るのかを見せている。

 市場はすでにGlassブームが起こりつつある。4月初め、Googleの投資部門Google VenturesはAndreessen Horowitz、Kleiner Perkins Caufield & Byers(KPCB)と共に、Glassアプリケーション開発を促進する投資ファンドイニシアティブ「Glass Collective」を立ち上げた。

 アプリへも期待は大きい。IHS iSuppliでは、Glassが契機とする“スマートメガネ”デバイスの出荷台数が2016年には1000万台に達すると予想したが、その成功のカギを握るのはアプリと分析。「ハードウェアはGlassの成長にそれほど重要ではない」とし、「アプリの訴求にすべてがかかっている」としている。

 Glassアプリケーションはすでに登場しており、例えば開発者のMike DiGiovanni氏は5月2日、ウインクすると写真が撮影できるアプリ「Winky」を公開している。

「手放せない」「現実世界にいる感覚が薄くなる」

 開発者版が出回り始めたところで、使ってみた感想などGlassに対する評価も出始めた。著名なテクノロジーブロガーRobert Scoble氏(Rackspace所属)はGoogle+に「Google Glassを2週間使ってみたレビュー」として感想を記している。

 Scoble氏はいくつか指摘をしているが、Glassなどのスマートメガネに対しては「Glass(あるいは競合製品)を装着しない日はなくなる(手放せなくなる)だろう」と絶賛した。Glassが提供する写真や動画などGoogle+との連携機能、広告がないこと、きちんと機能する音声コマンド、ソーシャル性などがプラス評価につながったようだ。Scoble氏は価格さえ適切であれば、成功すると見ている。Scoble氏の予想では、適切な価格は300ドル以下だ。

 Scoble氏が評価ポイントに挙げた「ソーシャル性」については、正反対の意見もある。Scoble氏は、会話中にスマートフォンの画面をのぞくことは失礼にあたるがGlassなら相手に視線を向けたままGoogle検索などができる、としてソーシャル性をプラス評価に入れた。

 一方で、同じことを、GuardianのコラムニストMatt Andrews氏はマイナス評価した。Glassをかけた相手は、自分を見つめたままYou Tube動画をみているのかもしれない、として「ガジェットとしてはパワフルだが、ソーシャルツールとしては適しているのか分からない」と首をかしげる。

 Business Insiderは、かけ心地に満足しながらも「かけた途端に別の世界にいる気分だ。突然、たくさんの情報が目の前に現れる。“ハイパーコネクテッド”ではあるが、現実の世界にいる感覚が薄くなる」と印象を述べている。別の筆者による記事は、視野上部に表示される情報を読むために目を動かす必要があることから、「通常のように見ることができない」と疲れを感じたことを報告した。

監視社会と、監視の民主化

 Glassは生活を一変させる可能性を持っている。が、どこでも使えるが故に使用を規制すべきだとの議論が始まっている。ハンズフリーのナビは、その特徴の1つだが、米ウェストバージニア州では安全の観点からGlassを装着しての運転を禁じる法案が既に提出されている。

 そして最も大きいのが、プライバシー問題への懸念だ。米シアトルのバーでは、顧客へのプライバシー配慮から、早くもGlassを装着しての入店を禁止しているという。

 Glass発表を契機に、監視社会に向かうトレンドに警笛を発する運動「Stop The Cyborgs」も生まれた。Stop The CyborgsのWebサイトでは、「Glassのようなウェアラブルコンピュータはビデオカメラとして利用されると、知らない間に自分が写っている動画をインターネットにアップロードされてしまう可能性がある」として、知らない間に他人が自分を知っているような事態が起こりうるとする。なお、同団体が求めているのは、完全な禁止ではなく利用の制限だ。

 また一方で、Glass所有者自身へのプライバシー懸念も浮上している。セキュリティ専門家のJay Freeman氏は自身のブログで、Glassにはセキュリティ上のバグがあると報告。所有者以外がルート機能にアクセスしてGlassを乗っ取ることが可能であると指摘した。

 他方、小説家でソフトウェア開発者でもあるJon Evans氏は、Tech Crunchへの寄稿で、Glassのようなウェアラブル端末によって「監視を民主化できる」と説いた。これまでの「監視する側(権力者)と、される側(市民)という図式の一方通行の監視から、双方向の監視を実現する可能性もある」、というのだ。

 例えば、市民がGlassを装着して行政側の行動をすべて記録し、それをインターネット上に公開することで、何が見られているのかを知ることができる。Evans氏はさらに、何が監視されているのかをチェックするだけではなく、市民は自らも政府を監視し記録できるようにしなければならない、と論を進める。

 Evans氏の提案の背景にあるのは、街の至る所に監視カメラが設置される監視社会への流れだ。機器のコストが劇的に安くなって、カメラの数は急増している。それが避けられないのならば、「監視の民主化」が妥協案となる、というものだ。

 Glassは2013年から2014年に商用版が登場する予定だ。もはやGlassが成功するかどうかの意見は少なく、ウェアラブルは当然の流れとの見方が主流になってきた。いまのうちに、あらゆる面から議論しておくことが必要だろう。

(岡田陽子=Infostand)