ケータイ音楽の覇権争い-Microsoftがモバイル向け音楽配信会社買収



 携帯電話、モバイルサービスの伸長とともに、モバイル音楽ビジネス関連の動きも活発化している。米Microsoftもモバイル音楽に本腰を入れ始めた。先ごろ、携帯電話向け音楽配信インフラを手がけるフランスのMusiwaveを約4600万ドルで買収すると発表した。これをテコに音楽サービス分野の強化を図るとみられる。携帯プレーヤー「Zune」の発売から1年、iPod&iTunesの独走に待ったをかけられるか―。


 Musiwaveは、デジタル音楽の販売ソリューションを、オペレーターがブランディングできる“ホワイトレーベル”として提供しており、同社のインフラを利用して米Vodafone、独T-Mobile、英O2などがそれぞれ自社のオンライン音楽ストアを運営している。

 Microsoftはまず11月12日、Musiwave買収に向け独占的交渉を進めていることを発表。そして15日、これが合意に至ったと発表した。Microsoftは、2005年にMusiwaveを傘下に収めたモバイルサービス企業米Openwave Systemsに現金4600万ドルを支払うほか、負債約400万ドルを肩代わりする。

 Microsoftは買収によって、Musiwaveが築いてきたレコード会社、端末メーカー、モバイルオペレーターとの関係などを資産として手に入れ、これが「モバイル分野の新しいエリアを開拓するチャンスとなる」(Pieter Knook・Microsoftモバイルコミュニケーション事業部担当上級副社長)としている。

 現在、モバイル分野でMicrosoftは、「Windows Mobile」の携帯プラットフォームと、音楽プレーヤー「Zune」を核とする2つのビジネスを展開している。

 まず、「Windows Mobile」でのスマートフォン市場での苦戦は認めざるを得ない。この市場では英Symbianの「Symbian OS」が67%のシェアを占め安定した1位で、Windows Mobileのシェアは14%にとどまっている(英Canalysの2006年度調査)。

 「Zune」の方は、昨年11月に投入し、今月13日には、自動同期機能、カスタマイズ可能な外観などが特徴の第2世代機を発表した。当初から、無線LAN機能による音楽共有などiPodにはないユニークな機能を備えてはいるものの、売れ行きはというとパッとしない。

 累計販売台数は約120万台だが、対するiPodは2001年の発売以来、1億台以上を売り上げている。米NPD Gpoupのまとめでは、2007年1月時点の米国市場のiPodのシェアは72.7%と圧倒的で、「Zune」は、米Sandisk(8.9%)に次ぐ3位(3.2%)だ。


 Microsoftは、「iTunes Store」に対抗するオンライン音楽ストア「Zune Marketplace」を立ち上げており、第2世代Zuneの発売に合わせて、Zune Marketplaceもアップグレードしている。月額定額ダウンロード無制限メニューといった特徴は残しながら、デザインを刷新して使い勝手を改善。カタログには300万曲以上をそろえ、音楽ビデオなどのコンテンツも追加、MP3(DRMフリー)でも音楽を提供する。

 Musiwaveの買収は、こうしたなかで行われたものである。その技術がどのように活用されるかは、今のところ不明だが、Microsoftがモバイル向け音楽配信サービス事業の展開を視野に入れていることは間違いないだろう。

 Microsoftは、音楽、ゲームなどのコンテンツに、いつでもアクセス可能にする「Connected Entertainment」構想を打ち出しており、Musiwaveの技術は、Windows Mobile、Zune、MSN、Windows Liveなどの製品・サービスを拡充すると説明している。

 wired.comは、MicrosoftのZune戦略について分析し、Appleがハードウェア、OS、サービスをエンドツーエンドで提供するのに対して、Microsoftはサードパーティ戦略をとるだろうとみている。

 このなかでwired.comは、Zune Marketplaceには、Facebook、MySpaceなどのSNSの音楽を表示するウィジェットを実装できるオープン性があると指摘。また、「MusiwaveをZuneサービスに組み合わせることで、今後各国のオペレータはZuneストアの自社ブランド版を提供できる」というMicrosoft Zuneグローバルマーケティング担当ゼネラルマネージャ、Chris Stephenson氏のコメントを紹介している。

 このほか、Musiwaveの技術には、携帯電話で直接楽曲を購入できる“over-the-air”がある。これは、iPodではまだ実現していない機能だ。


 こうしてMicrosoftはiPod&iTunesの追撃をもくろむのだが、モバイル音楽市場のプレーヤーは、Appleだけではない。世界の約35%の携帯電話を供給しているフィンランドのNokiaも、オンライン音楽ストア「Nokia Music Store」を11月に英国でオープン、今後主要市場に拡大する。韓国Samsungもオンライン音楽ストアを立ち上げており、ソニー子会社の英Sony Ericssonも、リニューアルした「playnow」を来年半ばにローンチして、音楽販売に力を入れる。

 さらに、Musiwaveの顧客を含むオペレーターも自社ポータルでオンライン音楽ストアを展開している。まさに、ハードウェアベンダー、オペレーター、サービスプロバイダーなどさまざまな分野の企業が入り乱れる市場なのだ。そして、どこも対Appleを意識している。

 今後MicrosoftがMusiwaveの技術をどのように統合してゆくのか、たくさんのパズルのピースがどう組み合わされていくのかが、注目される。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/11/19 09:04