AOL争奪戦、それぞれの事情
大手ポータルの米America Online(AOL)がにわかに脚光を浴びている。米メディアの報道によると、米Microsoft、米Google&米Comcast、米Yahoo!の各社がAOLとの提携を目指して交渉を進めているという。米Time Warnerとの世紀の合併以降、あまりぱっとしなかったAOLだが、IT界の巨大企業が争奪戦を展開する魅力的な企業となった。それぞれの思惑を整理してみよう。
MicrosoftとAOLが交渉していると報じられたのは今年9月の半ばだった。9月15日付の米New York Postは、事情に詳しい人物2人からの情報として、親会社のTime WarnerとMicrosoftとの間で、AOLの多数株売却の交渉が進んでいると伝えた。MicrosoftはAOLをMSNに統合することを検討しているという。両社はこれについてコメントせず、詳細は明らかにならなかった。
ところが約1カ月後の10月12日になって、今度はGoogleとケーブル最大手のComcastがAOL株の一部取得を目指して交渉してると複数のメディアが伝えた。さらに2日後の10月14日には、ポータルとしてAOLの最大のライバルであるYahoo!もAOL株取得に向けた交渉を始めたと報じられた。米The Wall Street Journalによると、交渉はごく初期段階だという。
これで、インターネットを舞台とする巨大企業が三つどもえでAOLにラブコールを送っているという図式が明らかになった。ただし、各当事者は否定あるいはノーコメントを通しており、「市場のうわさにすぎない」(Time WarnerのRichard Parson CEO=13日、香港で)と突き放している。
米国最大のプロバイダーであったAOLは2000年初めにTime Warnerとの合併を発表し、1年間をかけて手続きを完了した。しかし、その後、株価は合併当初の約4分の1まで下落、2002年第1四半期には540億ドルの損失を出し、Steve Case会長は結局、辞任に追い込まれている。
その後もブロードバンド化の波に乗り遅れ、じり貧状態が続いている。最新の2005年第2四半期(4-6月期)決算報告によると、6月末現在の会員数は2080万人で、3カ月前から91万7000人、1年前からは260万人も激減している。売上高は21億ドルで前年同期から8000万ドル(4%)減った。会員からの収入が1億6800万ドル(9%)減少したが、広告収入が9900万ドル(45%)増えたおかげで抑えることができたという。
10月19日には、従業員の約4%にあたる700人を削減すると発表した。コールセンターの要員が中心で、会員数の減少と、ユーザーのPCスキルの向上で必要性が薄れたためと説明している。
一方、Time WarnerにはAOL株を現金に替えたい事情がある。“Corporate Raider”(企業乗っ取り屋)の異名を持つ大富豪で投資家のCarl Icahn氏に、配当金200億ドルなど株主への利益還元を迫られているのだ。Icahn氏はTime Warner株の潜在的価値は現在の価格の2倍はあると主張している。そして同社に対して事業を売却し、株主に配当金を支払うよう投資ファンドと組んでプレッシャーをかけているという。こうしたこともあって、Time WarnerはAOLの価値を最大限に生かすことを考えているとみられている。
かつての勢いはなくなったとはいえ、AOLは米国内で推定1億人以上のユーザーを持つトップポータル企業だ。同社と組むことで、この膨大なユーザーにアクセスできるようになることが、各社のAOLへの熱い視線のおおもとだ。が、少しずつ異なる事情もある。
MicrosoftはTime Warnerに対してAOLとの合弁を求めているという。MSNはポータルとしてはAOL、Yahoo!に大きく水を空けられており、不振を挽回して、一気にトップに躍り出ることができる。
Comcastは、株式保有によって利益を得られるほか、AOLのダイヤルアップ利用者を新規のブロードバンド顧客として取り込める可能性がある。Yahoo!はポータルではAOLに次ぐ2位で、提携すれば圧倒的な支配力を持つことができる。さらに映画・テレビに展開する巨大エンターテインメント企業Time Warnerのコンテンツを優位に手に入れられそうだ。
だが、最も重要なポイントは検索サービスと、これに連動する検索広告だろう。
AOLは現在、検索サービスにGoogleを採用しており、Googleにとっては単体で最大の収入源になっている。もし、AOLがMicrosoftと組めば、MSNに取ってかわられる可能性があり、とても見過ごすことのできない事態だ。Yahoo!にしてみれば、攻め込んで自社の検索サービスを採用させるチャンスであり、またMicrosoftの大いなる野望を阻止することになる。
GoogleがAOLから得ている売り上げは3億ドルとも4億ドルともいわれている。この闘いは、急成長する検索サービス広告の顧客争奪戦でもあるのだ。
ただし、各社の思惑通りにいくかどうか、見通しは混沌としている。Time Warnerは全社に対し、「経営権の維持」とあくまで「少数株の売却」という条件を提示しているという。