百花繚乱! 複雑化するオープンソースのライセンス



 オープンソースソフトウェアとは、ソースコードを無償で公開し、誰もがその閲覧、再利用、改変などができるソフトウェアを指す。これによって、さまざまな開発者が開発に貢献でき、質が向上するという仕組みだ。代表格のLinuxは、WindowsやUNIXを脅かす存在にまで成長した。この開発手法をとるソフトウェアは、利用条件を定めたライセンスの下にソースコードを開示するが、このライセンスを巡って論争が起こっている。

 問題は、ライセンスが増え続けていることだ。オープンソースのライセンスには、GNU GPL(General Public License)、GNU LGPL(Library or “Lesser” General Public License)、BSD Licenseなどがあり、LinuxはGPLを利用している。これらのライセンスは、オープンソースを推進する非営利団体、Open Source Initiative(OSI)の認定を受けてオープンソースとして認められる。オープンソースブームに火がつくまでは、ライセンスの種類は限られていたが、1998年にWebブラウザのMozillaが独自ライセンスMozilla Public License(MPL)を作成、認定を取得して以来、その種類は急増した。

 また近年、企業が自社ソフトウェアのソースコードを開示する際に独自にライセンスを設けるケースが増えている。今年1月末にSolarisのソースコードの一部を開示した米Sun Microsystemsも、新たにCommon Developmet and Distribution License(CDDL)を設定し、OSIの認定を受けている。現在、OSIのサイトには、58種類もの認定ライセンスが並んでいる。

 では、ライセンスの種類が増えることがなぜ問題なのだろう。


 複数のオープンソースソフトを利用してプログラムを構築する場合、各ソフトを管理しているライセンスが異なれば管理が難しくなる。ライセンスの干渉のため、組み合わせによってはコードの共有が不可能になることもあるのだ。たとえば、SunのCDDLとGPLは互換性がなく、コード共有ができないと言われている。なにより開発者やベンダーが混乱してしまう。

 さらに米SCO Groupによる訴訟などで、オープンソースにかかわる知的所有権(IP)利用の制約への懸念が高まっている。ライセンスが複雑になるとオープンソースの導入を避けるユーザーもいるだろう。これでは、オープンソース運動全体にとって痛手となる。

 この問題に関して、公の場で議論が活発になったのは今年2月からだ。3月末には、米Intelが自社のライセンス、Intel Open Source LicenseをOSI認定ライセンスから取り下げる意向を示した。Intelの担当者によると、同ライセンスを利用していたプロジェクトは25件程度しかなかったという。

 4月初め、OSIはこの問題への対策として、1)承認方法の変更、2)新たな分類システムの導入―を発表した。1)の新たに申請するライセンスに対しては、3つの項目(「他のライセンスと重複しない」「明確かつ理解しやすい」「再利用可能」)を満たすことを条件にしており、既存のライセンスでカバーできるものがあれば、それを利用するよう求めた。2)は既存ライセンスをわかりやすくするために、3段階(優先:Preferred、一般:Ordinary、非奨励:Deprecated)に分類するというものだ。OSIではこれらの対策によって、ライセンスをわかりやすくし、かつライセンスの種類増を抑えることを狙っている。OSIによると、利用はGPL、LGPL、BSD、MITなど古くからある一部のものに集中しており、Intelのライセンスのようにあまり利用されていないものも多いという。

 これで方向性が見えたかと思いきや、別の案が浮上した。Linuxの普及団体Open Source Development Labs(OSDL)に理事として参加する米Computer Associates(CA)の担当者が、単一のライセンスを目指す方向で“Templete License”を提唱したのだ。国際的に効力のあるひな型ライセンスを作ることで、企業やプロジェクトがそのつど新たにライセンスを作る必要がなくなる、としている。CAはRDBMSのIngresをオープンソース化する際にCA Trusted Open Source Licenseを作成、認定を受けているが、“Templete License”に採用するライセンスは特定していないという。


 関係者の反応はさまざまのようだ。CA Trusted Open Source LicenseやSunのCDDLが“Templete License”に採用された場合、これらは企業に有利なライセンスであることから、真のオープンソース精神に反するのではないか、などの意見もあがっている。CAのこの案に対し、OSDLは一応の支持を表明したが、OSIは姿勢を明らかにしておらず、先行きは、いまだ不透明だ。

 オープンソースソフトウェアはインターネットという環境の整備と共に進化して、“コラボレーション”という新しい開発の形を生んだ。この手法は、これまでのように、ソフトウェア企業が内部でプログラムを開発してソースコードを所有し、利用に対してライセンス料を徴収するモデルと比べ、開発者、ベンダー、ユーザーにまったく新しい可能性を提供する。ライセンスという問題をコミュニティがどのように解決するのか、注目したい。

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(岡田陽子=Infostand)
2005/4/18 11:00