Windows Server 2012/Windows8のエディションとライセンス
米Microsoftは8月1日(米国時間)に、次期サーバーOSのWindows Server 2012と、次期クライアントOSのWindows 8のRTM(製造工程向け出荷)を発表。ついに、Windows 8世代の製品展開がスタートした。
クラウド Watchではこれまでも、ニュースはもちろん、仮想化道場などの連載においてこれらの製品を紹介してきたが、あらためて専用のコーナーを設け、製品の説明、レビューなどを行っていく。
今回はその初回として、Windows Server 2012、Windows 8のエディションについて解説していく。
■4エディションに整理されたWindows Server 2012、派生製品も廃止
Windows Server 2012では、Datacenter、Standard、Essentials、Foundationの4つにエディションが整理された。
Windows Server 2008 R2では7つのエディションが用意されていたが、Windows Server 2012ではまず、StandardとDatacenterの間に位置していたEnterpriseがなくなったほか、HPCに特化したWindows HPC Server、Webサーバー向けのWindows Web Server、for Itanium-based Systems(以下、Itanium版)も廃止されている。
Itanium版の打ち切りに関しては、x86プロセッサが低コストで高い性能を実現してきたこと、一定の信頼性を備えてきたことを受けて、Itaniumプロセッサ搭載サーバーをリリースするメーカーが少なくなり、Itanium版のWindows Serverに対するニーズが少なくなってきたことが理由として挙げられる。さらにItaniumサーバーは、UNIXがメインOSとなっていることが多いことも、MicrosoftがItaniumプロセッサのサポートを打ち切った理由だろう。
さらに、家庭向けのWindows Home Server、中小企業向けのSmall Business Server(以下SBS)など、Windows Serverの派生エディションとして存在していたものが整理され、Windows Server 2012ではEssentialsに統合された。
最新のSBSであるSBS 2011には、電子メール(Exchange Server)、ドキュメント共有(SharePoint Server)、データベース(SQL Server)といった機能が搭載されており、中小企業がこれらの機能をオンプレミスで安価に利用できるようにしてきた。
しかしクラウドが普及するにつれて、中小企業がオンプレミスでこれらを運用する必要性が薄れてきている。例えば、Microsoft自身がWindows Azureというクラウドサービスを提供しており、ここで、SQL Serverなどのデータベースを低コストで利用することが可能だし、電子メールやドキュメント共有ならば、Office 365というSaaSが用意されている。このような状況を考えれば、中小企業にとって、購入コストや運用コストのかかるオンプレミスでのシステム構築は限定的になってくるのだろう。
そこでWindows Server 2012では、アプリケーションをバンドルするスイート製品は用意されないことになったのだと、筆者は考えている。
既存のWindows Server 2008 R2から移行する場合のプロセッサライセンスの換算表 |
■ライセンス体系が変わったWindows Server 2012
Windows Server 2012のプロセッサライセンス。1プロセッサライセンスで2つのCPUをカバーする |
StandardとDatacenterのライセンスとしては、従来のサーバーライセンスに代わってプロセッサライセンスが提供される。プロセッサライセンスは、CPUのコア数ではなくソケット数で計算する。少しわかりにくいが、1プロセッサライセンスでは2ソケットまでカバーする。つまり、1~2ソケットサーバーであれば1プロセッサライセンスで済むし、4ソケットサーバーでは2プロセッサライセンスが必要になる。
Microsoftによれば、StandardとDatacenterについて機能面で違いはなく、Hyper-Vの仮想マシン上で、何個のWindows Server OSを動かすかによって、どちらが必要かが決まる。
Standardでは、最大で2つまでのWindows Server OSを追加コストなく仮想マシン上で動かすことができる。一方Datacenterでは、追加コストなく仮想マシンとして動かせるWindows Server OSの数は無制限となる。
もし2ソケットサーバーにおいて、仮想マシン上で4つのWindows Server OSを動かそうとするならば、Standardでは2プロセッサライセンスが必要になる。サーバーのソケット数は2つなので、物理環境のみの利用であれば1プロセッサライセンスで足りているのだが、仮想環境で4つのWindows Server OSを動かそうとすると、2プロセッサライセンスが必要となるのだ。
一方でDatacenterでは、仮想マシン上で動かせるWindows Server OSの数は無制限になっているため、1プロセッサライセンスだけでよい。仮想環境で動作させるWindows Server OSが8つになったとしても、やはり1プロセッサライセンスで済むのは変わらないので、仮想化によりサーバー集約を考えている企業にとっては、Datacenterは魅力的に映るだろう。
Windows Server 2012の各エディションで動かせる仮想マシン数 | Windows Server 2012のプロセッサライセンスと仮想マシンの関係。Standardの場合、12個の仮想マシンを立てると6つのライセンスが必要になる |
しかし、公表されているOpen NLライセンス(ボリュームライセンスの1プログラム)の価格を比べると、DatacenterはStandardの約5.5倍の価格になっている。このためDatacenterを利用するなら、10個以上の仮想サーバーを集約しないとコスト面でメリットは出ないことになる。ライセンスを購入する場合には、このあたりを考慮して最適なものを選ぶようにしたほうがいい。
エディション | 最適な用途 | 高レベルの 機能比較 | ライセンス モデル | 参考価格 (日本) (Open NL) | 参考価格 (米国) (Open NL) |
---|---|---|---|---|---|
Datacenter | 高い集約率の仮想化環境 プライベート&ハイブリッドクラウド環境 | Windows Serverのすべての機能 (無制限の仮想インスタンスを含む) | プロセッサ +CAL | 92万4300円 | 4809ドル |
Standard | 低い集約率の仮想化環境 または仮想化環境なし | Windows Serverのすべての機能 (2つの仮想インスタンスを含む) | プロセッサ +CAL | 16万9600円 | 882ドル |
Essentials | スモールビジネス環境 | シンプルなインターフェース クラウドベースのサービスへの構成済み接続 (仮想化権限なし) | サーバー(25ユーザーアカウントの制限) | 8万1700円 | 425ドル |
Foundation | 経済的で多用途のサーバー | 多用途のサーバー機能 (仮想化権限なし) | サーバー(15ユーザーアカウントの制限) | OEMのみ | OEMのみ |
■中小企業向けのEssentialsとFoundation
Essentialsは中小企業向けのエディションで、25ユーザーを上限とする。前述したように、SBSやHome Serverの代替として位置づけられており、SBS 2011 Essentialsに搭載されていた専用の管理ツール、クライアントPCのバックアップ機能、Windows Home Serverが備えていた、メディアストリーミングを実現するDLNA機能などが搭載される。
Foundationは、15ユーザーを上限とするエントリー向けのWindows Server 2012だ。Foundationに関しては現行のWindows Serverと同様、OEM専用エディションとなるため、サーバーベンダーがサーバーにプリインストールして提供することになる。
なおEssentialsとFoundationでは、Hyper-V上で仮想マシンとしてWindows Server OSを動かすライセンスは提供されていない。また、Foundationにはリモートデスクトップサーイスは用意されていないし、Windows Server Update Service(WSUS)はFoundationとEssentialsの両方で提供されない。
また、EssentialsやFoundationではサーバーライセンスとして提供され、Essentialsでは2プロセッサまで、Foundationでは1プロセッサまでの環境で利用できる。
■Windows 8のエディションとライセンス
以前の記事で書いたようにWindows 8では、Windows 8、Windows 8 Pro、Widnows8 Enterprise、Windows RTの4つに整理されている。
このうちWindows 8はコンシューマ向けという位置づけになり、企業でWindows 8を利用するには、Windows 8 Proか、Windows 8 Enterpriseになる。これらのエディションでは、Active Directoryのドメイン環境をサポートしているし、クライアントHyper-Vも利用できる。
またWindows 8 Enterpriseは、ソフトウェア保守契約に相当するソフトウェアアシュアランス(SA)契約ユーザー専用となるため、Windows To Go、Direct Access、BranchCache、AppLocker、リモートデスクトップでのローカルUSBのサポート、RemoteFX(サーバー側のグラフィックカードの利用)などのVDI機能の強化(WAN上でも使用可能)といった、さまざまな付加機能が利用可能だ。さらにWindows 8 App Deploymentにより、企業内でのMetroアプリの配布機能をサポートしている。
一方、ARM版Windows 8であるWindows RTは、1つのエディションしか用意されていない。つまり、ProやEnterpriseといった企業向けのエディションは存在しない。
また、Windows RTはWindows 8世代で新たに作られたエディションのため、Windows 7世代からのアップグレードパスはない。実際、CPUが異なるので、Windows RTはOEM専用のライセンスとなり、ハードウェアとセットにして販売される(パッケージや一般向けボリュームライセンスでの販売はない)。
機能 | Windows 8 | Windows 8 Pro | Windows RT | Windows 8 Enterprise |
---|---|---|---|---|
Windows 7 Starter/Home Basic/Home Premiumからのアップグレード | ○ | ○ | × | ○ |
Windows 7 Professional/Ultimateからのアップグレード | × | ○ | × | ○ |
スタート スクリーン、セマンティック ズーム、ライブタイル | ○ | ○ | ○ | ○ |
Windows Store | ○ | ○ | ○ | ○ |
標準添付アプリ (メール、カレンダー、ピープル、メッセージング、フォト、SkyDrive、リーダー、ミュージック、ビデオ | ○ | ○ | ○ | ○ |
Microsoft Office 2012(Word, Excel, PowerPoint, OneNote)標準バンドル | × | × | ○ | × |
Internet Explorer 10 | ○ | ○ | ○ | ○ |
セキュアなブート(Device encryption) | × | × | ○ | × |
休止時に無線ネットワークの接続保持(Connected standby) | ○ | ○ | ○ | ○ |
Microsoft account(旧Windows Live ID)のサポート | ○ | ○ | ○ | ○ |
デスクトップ環境のサポート | ○ | ○ | ○ | ○ |
x86/x64のデスクトップ アプリケーションのサポート | ○ | ○ | × | ○ |
新エクスプローラーのサポート | ○ | ○ | ○ | ○ |
Windows Defender | ○ | ○ | ○ | ○ |
SmartScreen | ○ | ○ | ○ | ○ |
Windows Update | ○ | ○ | ○ | ○ |
新しいTask Managerのサポート | ○ | ○ | ○ | ○ |
動作中の言語変更 | ○ | ○ | ○ | ○ |
マルチモニター機能の強化 | ○ | ○ | ○ | ○ |
Storage Spaces (ディスクを仮想化 する機能) | ○ | ○ | × | ○ |
Windows Media Player | ○ | ○ | × | ○ |
Exchange ActiveSync | ○ | ○ | ○ | ○ |
File history | ○ | ○ | ○ | ○ |
ISO / VHD mount | ○ | ○ | ○ | ○ |
モバイル ブロードバンド機能 | ○ | ○ | ○ | ○ |
ピクチャー パスワード機能 | ○ | ○ | ○ | ○ |
Play To | ○ | ○ | ○ | ○ |
リモート デスクトップ接続 (クライアント) | ○ | ○ | ○ | ○ |
PCのリセット/リフレッシュのサポート | ○ | ○ | ○ | ○ |
Snap | ○ | ○ | ○ | ○ |
タッチUIと分割キーボードのサポート | ○ | ○ | ○ | ○ |
Trusted boot | ○ | ○ | ○ | ○ |
VPN client | ○ | ○ | ○ | ○ |
BitLocker and BitLocker To Go | × | ○ | × | ○ |
クライアントHyper-V | × | ○ | × | ○ |
ドメイン参加 | × | ○ | × | ○ |
Encrypting File System | × | ○ | × | ○ |
グループポリシー | × | ○ | × | ○ |
リモートデスクトップ接続 (ホスト) | × | ○ | × | ○ |
Windows To Go | × | × | × | ○ |
VHDブート | × | ○ | × | ○ |
Direct Access | × | × | × | ○ |
Branch Cache | × | × | × | ○ |
AppLocker | × | × | × | ○ |
VDI機能の強化 (RemoteFX、ローカルのUSBデバイスの使用) | × | × | × | ○ |
Windows 8 App Deploymentのサポート | × | × | × | ○ |
Windows 8の正式発売日としては10月26日に決定している。
RTM版は、Windows 8もWindows Server 2012が8月1日にリリースされており、Windows Server 2012はクライアントOSよりも一足早く、9月4日からの製品提供が予定されている。プリインストールしたサーバーも、9月から10月にかけて発売されるだろう。
なおMicrosoftでは期間限定だが、Windows XP、Windows Vista、Windows 7を利用しているユーザーに対して、Windows 8 Proへの優待アップグレード版を39.99ドル(microsoft.comからのダウンロード)を提供することを明らかにしている。店頭での優待アップグレードパッケージは、69.99ドルとなっている。
日本での優待アップグレードに関しては未発表だが、日本国内向けでは、2012年6月2日~2013年1月31日までにWindows 7を購入したユーザーを対象として、Windows 8 Proへの優待アップグレード版を1200円で提供するキャンペーンが発表された。
ちなみに、Windows 8では、新規インストールが可能なパッケージ版は販売されないといわれているようだ。一方で、秋葉原などでパーツを一緒に購入できるDSP版に関しては、従来通り販売されると見られる。
またWindows 8のパッケージ版が販売されないのであれば、Windows Server 2012のパッケージ版もリリースされるかどうか微妙だ。Microsoftでは、この機会にパッケージ版のリリースを止めて、すべてをボリュームライセンスに移行しようと考えているかもしれない。もっとも、このあたりはMicrosoftが正式に発表しているわけではないので、詳細がわかるまでもう少しかかるだろう。