クラウド&データセンター完全ガイド:特別企画

規制改革実施計画が動かすデータセンターの消火設計――水消火設備の見直しを見据えたファーウェイ「SmartLi 5.0」の安全設計

生成AIの普及でデータセンターの消費電力が跳ね上がるなか、停電時にサーバーを守るバックアップ電源のあり方も問い直されている。省スペースで長寿命なリチウムイオン電池は新規プロジェクトで事実上の標準になりつつあるが、日本では安全性への懸念と、消火設備をめぐる法令の建て付けが大規模導入の足枷となってきた。その一角が、2026年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画で動き出す。規制見直しの現在地と、ファーウェイのスマートリチウム蓄電池「SmartLi 5.0」の安全設計を軸に、AIデータセンターの電源バックアップが向かう先を整理する。

AI算力時代が突きつける電力とスペースの壁

 クラウドサービスの基盤として拡大してきたデータセンターは、いまAI算力の拠点へと役割を変えつつある。大規模モデルの学習で計算密度は爆発的に高まり、消費電力は従来とは異なる水準に達した。電源設備の側も、同じ速度で作り替えを迫られている。

 真っ先にボトルネックとなるのが、停電時にサーバーへ電力を供給し続けるバックアップ電源だ。長らく主役を務めてきた鉛蓄電池はエネルギー密度が低く、ファーウェイの資料によると、データセンターの面積の30~70%を占有してしまうという。高密度化するAIサーバーを置くべき床を、電源設備が食いつぶしかねない。

 運用面の負担も軽くはない。状態管理は人手に依存し、定期的な手動点検と内部抵抗テスト、そして深充放電テストを要する。設置数が多いほど労力は膨らみ、運用コスト(OPEX)を押し上げる。

 拡張性の乏しさも見過ごせない。充放電サイクル数は数百回、寿命は一般に5~7年とされる。新旧の電池を混ぜて使えないため、将来を見込んだ容量を最初に一括導入せざるをえず、初期投資(CAPEX)も重い。成長に合わせて増設するAI時代の作り方とは相性が悪い(図1)。

図1:鉛蓄電池とリチウムイオン電池の比較(ファーウェイ調べ)

安全性への懸念と、動き出した消火設備の規制見直し

 総所有コスト(TCO)でも技術性能でも、リチウムイオン電池は鉛蓄電池を上回る。それでも導入をためらう事業者が残るのは、燃焼可能な危険物である電解液を大量に持ち込むことへの不安があるからだ。

 2022年10月、韓国・板橋のSK C&Cデータセンターで発生したリチウムイオン電池火災では、消火のため建物全体の電源を遮断せざるを得ず、鎮火までに約8時間半を要した。入居していたカカオはサービスが全面停止し、3万2000台のサーバーを手動で起動する必要があったため復旧が長期化。メッセージング、決済、銀行、タクシー配車まで機能不全に陥り、国民生活に広範な影響が出た。

 日本ではさらに、法令の建て付けが設計の選択肢を狭めてきた。消防法施行令13条は、通信機器室は床面積500平方メートル以上、電気設備部分は200平方メートル以上で、不活性ガス・ハロゲン化物・粉末のいずれかの消火設備を設けるよう義務付けている。水系は感電や水損といった二次災害を招きうるという前提に立った規定であり、リチウムイオン電池の火災に有効とされる水消火設備は選択肢に入らない。同令29条の4には代替設備を認める性能規定があるものの、通信機器室について水消火設備を認める総務省令が存在せず、実務では選べない状態が続いてきた。

 そこに、2026年7月21日に閣議決定された規制改革実施計画が扉を叩いた。「次世代AIデータセンターの国内立地の加速」の項目には、消防庁が水消火設備の有効性と二次災害のリスクを検証し、令29条の4に基づく総務省令の制定・改正を含む見直しを行うことが盛り込まれた。実施時期は「令和8年度上期検討開始、結論を得次第速やかに措置」とされている。国土交通省側でも、水消火設備を採用した場合の排煙設備の免除(平成12年建設省告示1436号の改正等)が検討される。ガス系の義務を外すのではなく、性能規定のルートで水系を追加する設計だ。水消火設備が認められている諸外国に追いつくための改正方針といえる。

 ここで決まったのは見直しの方針であり、水消火設備が使えるようになったわけではない。実際に選べるのは総務省令が制定された後である。

 同じ計画には蓄電池の数量規制に関する措置も含まれるが、消火設備とは別の論点として切り分けて読む必要がある。リチウムイオン蓄電池の電解液は消防法上の危険物(第4類第2石油類等)にあたり、1000L以上になると危険物施設としての規制がかかる。この規制はすでに緩和が進んでおり、2024年7月2日付の消防危第200号により、耐火性の収納箱等に収めれば箱1つあたりの電解液量で該当を判断できるようになった。実施計画にはさらに、日本データセンター協会などの提言を受け、熱暴走の伝播を評価する試験規格UL9540Aに整合した試験基準を平成23年通知へ追加する措置が令和8年度措置として盛り込まれている。追加が実現するのはこれからだ。

材料から消火機構まで、多層で固める安全設計

 法改正の動きが加速する中、製品の側は安全性の要求にどう応えているのだろうか。まず、セルの材料を見てみよう。ファーウェイのSmartLiシリーズが採用するリン酸鉄リチウム(LFP)は、三元系(NCM)やコバルト酸リチウム(LCO)に比べて安定した結晶構造を持ち、熱暴走時の発熱量が小さく、酸素を生成しないため爆発も起こしにくい(図2)。

図2:リン酸鉄リチウムと、マンガン酸、コバルト酸、三元系の特性比較

 そのうえでファーウェイでは、セル、パック、ラック、UPSの各レベルに保護を積み重ねている(図3)。セル単位では絶縁膜を厚くして3セル1ユニットのケースに収め、パック単位ではヒューズが外部短絡時にパックを切り離す。絶縁不良による漏れ電流を50mA・100ミリ秒で検知すれば、電池ラックの電源を遮断する。

 ラック単位では、セルの電圧と温度を見るBMU、ラックの充放電を制御するBCU、全体を束ねてUPSと連携するSBCUの3層からなるBMS(バッテリーマネジメントシステム)が、過電圧、低電圧、過熱、過電流を検知して異常箇所を能動的に切り離す。

 万一の発火に備えた消火機構も内蔵する。パック内部が190℃±15℃に達すると消火装置が自動起動し、パーフルオロヘキサノンをパルス噴射して延焼を抑え込む。実施計画が試験基準への追加を掲げるUL9540Aの熱暴走試験でも、水素発生量280ppm未満、外装温度190℃未満にとどまることが確認されている。

図3:過電圧・過熱・過電流の検知・隔離のための3層BMS(BMU/BCU/SBCU)

 各国の規制に対応した検証も進む。ファーウェイによると、同社はスプリンクラー消火の実証実験を実施しており、スプリンクラーが起動した状況でも製品の安全性を確認しているという。電池側の多層防御に外部からの水消火が重なる構図を、同社は二重の安全性と説明する。

 実験結果を踏まえ、同社はスプリンクラーヘッドの配置や散水量、防火区画や離隔距離といった蓄電池設置の設計項目まで含む提案が可能だとしている。建物側に余裕がない案件には、蓄電池のみを屋外に置く構成も用意するとしている。

SmartLi 5.0が実現する省スペースとシンプルな運用

 こうした安全設計を土台とする最新世代がSmartLi 5.0だ。「SmartLi 5.0 ST」(図4)の定格容量は153Ah/88.12kWh(9+9構成)。単一の電池盤で、周囲温度30℃以下なら400kWを10分間出力できる。サイクル寿命は50%DOD(放電深度)で5000サイクル。UL1642やUL9540A、IEC62619などの国際認証も取得済みだ。

 省スペース効果は明確だ。鉛蓄電池と比べて設置面積を約70%も削減する。バッテリー寿命も鉛蓄電池に比べ格段に長い。同社は保守期間を10年間としているが、フロート充電とサイクル寿命の両面から10年以上交換不要とされる。

 運用面での要となるのが、アクティブ電流平衡技術だ。容量のばらつきが避けられない新旧の電池を混在運用できるため、需要の伸びに合わせた段階的な増設が可能になる。ファーウェイの試算では、最終的に600kW・10分間となるバックアップ電源を2期に分けて導入した場合、一括で導入するのに比べ、導入時点の投資を32%抑えられるという。

 容量確認の手間も減る。停電リスクと工数を伴う人手の放電テストに代えて、自動でグループ分けして順次放電により容量を算出する。同社は1600パック規模のモデルケースで、年間のテスト費用を2500万円節減できるとしている。

 構造面の配慮も細かい。ケーブルグランドやドレンパン、扉の排水溝で水滴の浸入経路を塞ぎ、内部短絡を防ぐ。セル室はIP66の防水・防塵仕様とし、結露によるアークも抑える。

図4:SmartLi 5.0 STの外観と主な仕様

日本のAIインフラを底上げする基盤へ

 視野を広げれば、規制見直しの行方は個々の事業者だけの問題ではない。サーバーチップの消費電力が増え続けるなか、データセンターでは液冷技術やミスト冷却システムの導入が本格化している。水消火設備が選択肢に加わり排煙設備の要件も整理されれば、高価なGPUサーバーを火災から守る設計の幅は広がる。「高密度のAI水冷サーバー+リチウムイオン電池UPS」というグローバルの標準構成も、国内で組みやすくなるだろう。

 ファーウェイによれば、同社のデータセンター向けリチウムイオン電池は2025年に世界市場シェア1位を記録し、全世界で累計50万モジュール、容量にして2000MWh超を出荷している。制度の側が検証へ動き出したいま、問われるのは解禁の可否ではなく、その時に即応できる準備がどこにあるかだ。積み上げた実績と、来たる見直しを織り込んだ設計。この二つがそろってはじめて、日本のAIインフラ建設はグローバル標準に追いつく基盤を得る。

<関連リンク>

ファーウェイ・ジャパン(華為技術日本株式会社)

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