特別企画

クラウド時代のSIerに求められる“サービスインテグレーション”の資質

アバナード山根隆宏氏に聞く

アバナード グループマネージャーの山根隆宏氏

 近年、企業におけるクラウドサービスの活用が急速に拡大している。これにともない、オンプレミスを中心に展開している従来型SIerにもクラウド化の波が押し寄せようとしている。では、企業がクラウドサービスを活用する真のメリットはどこにあるのか。また、クラウド化が加速するなかで、これからのSIerに求められる資質とは。アバナード グループマネージャーの山根隆宏氏に聞いた。

 アバナードは、アクセンチュアとマイクロソフトの戦略的合弁会社として設立。マイクロソフトのプラットフォームに特化し、顧客企業に最大限の価値をもたらすソリューションを提供する「サービス・イノベイター」として事業を展開している。クラウドサービスについても、「Windows Azure」のマイクロソフトグローバルパートナーとなり、いち早く顧客企業へのクラウド提案を推進している。クラウドソリューションビジネスのパイオニアとしての立場から、国内企業のクラウド活用状況をどう見ているのか。

 「当社は、2010年に『Windows Azure』の正式サービスが始まると同時に、積極的にクラウドソリューションの提案を行ってきた。ここ1~2年で、国内の企業にもクラウド導入が広がりつつあるが、本格的にクラウドを活用できている企業は少ないのが実状だ」と、山根氏は、国内におけるクラウド活用は発展途上にあると指摘する。「クラウド活用の大きなメリットは3つあると考えている。まず『コスト』、2つめが『アジリティ』、3つめが『スケーラビリティ』だ。現在、国内企業のほとんどは『コスト』メリットのみを導入目的としており、クラウド活用の第一歩を踏み出したにすぎない」という。

 「さらにいえば、この『コスト』、『アジリティ』、『スケーラビリティ』という3つのメリットは、テクノロジーの観点だけでなく、ビジネス観点においても大きなメリットが期待できる。とくに、ビジネス観点での『アジリティ』と『スケーラビリティ』こそがクラウド活用の最大のメリットといえる」と、山根氏は力を込める。

 「いくつか例を挙げると、自動車メーカーでは、ナビゲーションシステムのプラットフォームをクラウドで標準化すれば、関連会社でサービスを共有することができる。そして、車のワイパーが動いたデータをリアルタイムに収集することで、これを降雨エリア情報としてコンビニなどに提供するサービスビジネスにつながる。同様に、映画館でも、チケット販売システムをクラウドで標準化し、前売りチケットの売れ行きデータを映画配給会社にサービス提供することが可能になる。つまり、クラウドの活用は、社内の業務効率化のみならず、副次的に新しいビジネスチャンスを生み出す可能性がある」と、具体例を交えながら、クラウド活用がもたらす「アジリティ」と「スケーラビリティ」のビジネスメリットを説明した。

 「しかし、こうしたビジネス観点でのクラウド活用のメリットに着目できている企業はまだ少ない。なぜならば、IT部門が主導でクラウド導入を進めているからだ。ビジネス観点からのメリットを引き出すには、経営層も含めて、全社的にクラウドをどう活用するかを考える必要がある」と、クラウド活用をビジネスメリットにつなげていくためには経営者の意識改革が求められると訴える。

 同社がこれまで手がけてきた案件でも、ビジネス観点でのメリットまで見据えたクラウドの導入事例は、アクセンチュアがコンサル提案を行っている大規模企業に限られるという。やはり、中堅・中小企業からの案件は、コスト削減を目的にしたクラウド導入が大半を占めるが、「最近になって、全社的なクラウド活用を検討する企業も増えてきている」と、クラウド活用の意識は少しずつ変わりつつあるようだ。「ただ、具体的なビジネスメリットまでは見えていないので、そうした企業に対しては、当社から一歩進んだクラウドソリューションの提案を行っている。このときのポイントは、あくまでコスト削減の実現を前提にした上で、中・長期的なプランとして、ビジネスメリットにつながるクラウド活用を提案するようにしている」と、山根氏は、SIer側にもコスト削減から次のフェーズへと導くクラウド活用の提案力が必要になるとの考えを述べた。

クラウド化でSIerに求められる資質とは?

 では、クラウド化への流れがさらに加速していく中で、これからのSIerにはどんな資質が求められるのか。「ハードウェアを基盤としたシステムインテグレーションではなく、サービスインテグレーションにシフトしていくことが重要だ」と山根氏は断言する。「クラウド時代には、ソフトウェアもシステムも、業務や機能の単位でパーツ化され、サービスとして提供されるようになる。これらのサービスを組み合わせてインテグレーションし、顧客に最適なクラウドソリューションを提供することがSIerの役割になる」という。

 また、外部システムを利用するクラウドソリューションでは、社内で完結するオンプレミスシステムに比べてセキュリティ面の不安が大きくなるため、企業の法務部門が関わってくるケースも少なくない。そのため、IT部門と業務部門、法務部門の間に入って、横軸での社内調整を担うことも、クラウド時代のSIerに求められる重要な役割といえよう。

 さらに、山根氏は、SIerがサービスインテグレーションへとシフトするにあたって、目指すべきビジネスモデルについて、「クラウドで展開されるサービスは、大きくIaaS/PaaS/SaaSの3つがあるが、クラウドのメリットを最大限に発揮するには、PaaSやSaaSを使って新たなビジネスモデルを開発していくことだ。既存のシステムがクラウドに対応しやすい仕組みであれば、IaaSだけでもコストやスケーラビリティの効果を期待できるが、その上でPaaSやSaaSを積極的に利用していくことで、より高いビジネスメリットを生み出すことができるはず」と述べている。

 同社でも、特定企業向けに提供していたPaaS上の機能が広範に活用されるようになり、その結果、従量課金のSaaSとして新たなサービスが立ち上がった事例があるという。また、先に紹介した自動車メーカーや映画館でのクラウド活用例も、PaaSやSaaSの利用によって新しいビジネスが生み出されていく代表的なケースといえるだろう。

 今後の取り組みについて山根氏は、「『Windows Azure』を中核にIaas/Saas/Paasを網羅したマイクロソフトのクラウドテクノロジーと、アクセンチュアのグローバルなコンサルティング力を生かしながら、幅広い業種・業界のニーズに対応したクラウドソリューションを提供していく。とくに今後は、オンプレミスとクラウドをうまく切り分けたハイブリッド・クラウドによって、基幹系業務のクラウド化も積極的に提案していきたい」との考えを示した。「また、中堅・中小規模企業に向けては、クラウド活用によって、コスト削減だけではない大きなビジネスメリットが得られる可能性があることを、セミナーなどを通じて広く啓発していく」と意欲を見せた。

唐沢 正和