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LinuxでOSの世界を変えた米Red Hat、「Red Hat Storageでストレージの世界も変える」

 米Red Hatが、ストレージソフトウェア「Red Hat Storage」でストレージの世界に変革を起こそうとしている。かつてサーバーOSの世界では、各ベンダーが独自のハードウェアに独自のUNIX OSをバンドルして販売していたが、Linuxの登場により標準的なx86サーバーとLinuxを組み合わせるようになった。「このような変革をストレージの世界でも起こす」と、米Red Hat ストレージ部門 バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのRanga Rangachari氏は語る。

オープンなストレージ環境を提供

米Red Hat ストレージ部門 バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャーのRanga Rangachari氏

 Red Hat Storageは、Red Hatが2011年10月に買収したGlusterの製品が基となっており、2012年8月に「Red Hat Storage 2.0」として提供開始した製品だ。

 同製品は、x86サーバーの内蔵ディスクを活用し、仮想的なストレージ環境を構築するソフトウェア。汎用的なx86サーバー上で稼働するためベンダーロックインの心配はなく、オンプレミス、プライベートクラウド、パブリッククラウド、ハイブリッドクラウドなど、すべての環境で同じストレージが展開できる。ノード単位で導入できるため、従来型ストレージのように最大の容量を見積もって購入する必要がなく、スモールスタートが可能だ。

 「ストレージの世界は今もベンダー独自のハードウェアとソフトウェアがバンドルされており、離れられない状態だ。しかし、クラウド環境ではプロプライエタリな手法は通じない。顧客もクラウドインフラではソフトウェアソリューションがなければ意味がないことに気づきはじめている。だからこそソフトウェア型ストレージでストレージの世界に変革を起こすことができると考えている」(Rangachari氏)。

 Rangachari氏は、Red Hatがストレージ市場に参入する理由の1つに、こうしたクラウド環境へのシフトが起こっていることを挙げる。また、今後生成されるエンタープライズデータの大半が非構造データであることや、ビッグデータ活用が求められるようになるといった市場の変化からも、「ストレージの世界を変えていきたい」としている。

ハードウェアコストの削減率は52%

 Red Hat Storageの最大の利点は、コストメリットがあることだ。IDCの試算によると、ソフトウェア型ストレージを採用することで、5年間でハードウェアのコストが52%、運用コストが20%削減できるという。「サービスレベルを損なうことなくコスト削減できるのが、Red Hat Storageの最大のメリットだ」とRangachari氏は語る。

 また、汎用的なハードウェアを利用するため、「ハードウェアの進化をそのまま顧客に提供できる」とRangachari氏。Red Hat Storageでは、現在多くのx86サーバーで採用されつつあるSSDもサポートしている。こうしたハードウェアの革新をすぐに活用できることもソフトウェア型ストレージのメリットだという。

 課金はサーバー単位となるため、内蔵ディスクを多く搭載できるサーバーほどギガバイト単価は安価になる。また、Red Hatではすべての製品をサブスクリプションベースで課金するため、新バージョンがリリースされても追加料金なしに新たな機能が利用できる。

活性化するコミュニティ

 Red Hat製品のイノベーションの中心はオープンソースコミュニティだ。Red Hat Storageの場合も、オープンソースコミュニティ「Gluster」がさまざまな開発を行い、Red HatがRed Hat Storageとして製品化、顧客に提供している。

 Rangachari氏によると、Glusterコミュニティは過去12カ月で開発者の数が300%増加したという。現在30のプロジェクトが進行中で、「コミュニティが活性化していることが、すべてエンドユーザーの利益につながる」としている。

 顧客数は非公開だが、「金融、保険、小売り、エンターテインメントなど、さまざまな業種の顧客が世界中にいる」とRangachari氏。また、前四半期には100万ドルを超えるRed Hat Storageの契約があったという。

 米国ではIntuitがRed Hat Storageを導入。TBあたりのストレージコストが16分の1になったという。日本では、以前ファイバチャネル(FC)型ストレージを利用していたカシオ計算機がRed Hat Storageを採用し、ストレージコストが半減したとのこと。

 また、ブログサービスを提供するシーサーがRed Hat Storageを導入しているほか、楽曲や動画などを配信するコンテンツクラウド系の企業から引き合いがあるといい、「スモールスタートで必要に応じて容量を追加しやすい点に魅力を感じてもらえるようだ」としている。このほか、バックアップやアーカイブ領域にRed Hat Storageを活用するニーズも高まってきているという。

新バージョンでOpenStackとの連携を実現

 2013年9月には、最新版となる「Red Hat Storage 2.1」を発表。2.1では、Red HatのOpenStackプラットフォーム「Red Hat Enterprise Linux OpenStack Platform」と連携できるようになった。同プラットフォームを通じ、オブジェクトストレージのSwift、ボリュームサービスのCinder、イメージサービスのGlance、コンピュートサービスのNovaが、Red Hat Storageを統合ストレージとして利用できるようになる。

 つまり、「顧客はストレージプラットフォームを統合できるようになる。Red Hat Storageは、安全なストレージプールでさまざまなインターフェースをサポートする統合ストレージなのだ。オンプレミスでもクラウドでも、1つのストレージとして管理できる」とRangachari氏は説明する。

 また、最新版では、Amazon Web Services(AWS)上でRed Hat Storageが無料で検証できる「Red Hat Storage Test Drives on AWS」も提供される。AWSで検証してからハードウェアを購入し、データをオンプレミスに移行することも可能だ。

 さらに、2.1は2.0に比べてレプリケーション性能が38倍になったほか、Windows環境におけるパフォーマンスは3倍になった。また、1分間あたり100万ファイルをサポートするなど、パフォーマンスやスケールなどが大幅に改善されている。

 今後の方向性についてRangachari氏は、「製品をさらに改善し、パフォーマンスを向上させ、スケーラブルにする。また、OpenStackとの連携は今後もさらに進めるほか、ビッグデータにも注力していく予定だ」としている。

沙倉 芽生