“目で見てわかるマインドマップ”を使った、どの企業でも今すぐ始められるBCP~マインドジェット


 3月11日の東日本大震災以来、多くの日本企業がBCP(事業継続計画)の見直しを真剣に行いはじめている。それまでは“保険”的な存在としてとらえられがちだったBCPだが、3.11のあの瞬間を体験した人の多くが「現状のBCPではいざというときに、事業継続どころか復旧すらおぼつかない」ということに気づいたのだ。

 大地震のような非常時を乗り切り、速やかな復旧と事業再開を図るには、「非常時の行動を規定するガイドラインが重要」とマインドジェット株式会社 チーフエバンジェリスト 渡邉安夫氏は語る。今回、渡邉氏に「企業規模にかかわらず、今すぐ始められるBCP」をテーマにお話を伺う機会を得たので、これを紹介したい。

 

PDCAを踏まえたBCPをマインドマップで

マインドジェット チーフエバンジェリストの渡邉安夫氏
文章での計画策定には、さまざまな面で限界があるという

 マインドジェットは、マインドマップをベースにしたビジネスツール「MindManager」を主力製品とする企業だ。ご存じの方も多いと思うが、マインドマップはあるキーワードを図の中心に置き、そこから放射状に別のキーワードやイメージを広げながら新たな発想を展開していく表現技法だ。

 これをビジネスツールに応用したMindManagerは、ビジネスプロセスの可視化や情報のマッピングにたけており、ブレインストーミングや戦略立案、タスクマネジメントなどの現場で広く使われている。現在ユーザー数は180万人強、IBMやMicrosoft、Coca-Colaなどの優良企業を数多く顧客にもつ。

 そしてマインドマップの考え方はBCPの策定/運用にも応用できる部分が多いと渡邉氏は語る。

 冒頭でも触れたように、BCPで重要な存在となるのは災害発生時から事業再開にいたるまでの行動を規定するガイドラインだ。有名なものに2005年に経済産業省が発表した「事業継続計画(BCP)策定ガイドライン」(http://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/downloadfiles/6_bcpguide_gaiyou.pdf)があるが、渡邉氏は「BCPに関して何から取り組んでよいかわからない、という企業はまずこの経産省のガイドラインをベースにし、自社用にカスタマイズした“災害時のPDCA”を規定する」ことをアドバイスする。

 「非常時には日常業務とはまったく異なる意思決定が求められる。不測の事態が起こったとき、いかにスムーズに作業を行うことができるか、刻一刻と変わる状況にどれだけ柔軟に対応できるか。大地震などの災害時では、ふだんやり慣れていないことはほとんど実行できないと考えておいたほうがいい」と渡邉氏。

 つまり、BCPの策定(Plan)はもちろんのこと、BCP実施体制の理解や役割の確認(Do)、災害発生を想定した訓練(Check)を行うことで、初めて災害時に実行可能な行動(Action)につながるわけだ。

 このPDCAを規定する際、特に最初の段階のプランニングにおいてマインドマップの考え方は大きな威力を発揮する。

 3.11以来、BCPに関するセミナーや勉強会があちこちで開催されており、情報量は格段に増えた。だがそれを実際に自社のBCP対策に落としこむ段階になると「何から手を付ければよいかわからない」という声はいまだに多い。この状況について渡邉氏は「テキストベースの情報が、ばらばらなフォーマットで、あちこちに散在しているところに大きな要因がある」と指摘する。

 テキスト/ドキュメントをベースにしてBCPを策定しようとしても全体像をつかみにくく、また、災害発生時のイメージも描きにくい。「災害発生時に何をすべきか、というのは意外と想像しやすい。だが、その行動はいつ、どのような順番で行うべきなのか、どのくらい時間がかかるのか、といったところまで踏み込むことが難しい」と渡邉氏。BCPを策定するには、災害発生時を具体的にイメージした上で、全体像を描くことが肝要になる。

 マインドマップはテキストベースのアプローチと比較して、目で見てわかりやすいという特徴を備えている。つまり従業員の理解を得やすいフォーマットでBCPの運用サイクルと行動計画を示すことが可能になる。渡邉氏は「BCP策定の最終目的はドキュメントをアウトプットすることではなく、誰もが非常時に行動できるようにすること」と言うが、文字だけで規定されたぶあついマニュアルと、視覚化されたアクションプランのどちらが関係者の理解を得やすく、また非常時に行動しやすいかは明白だ。


MindManagerを用いたBCP策定の例。アクションプランが視覚化されているためわかりやすいし、関連情報へも適切にリンクされているので、情報が取り出しやすいメリットがある

 マインドマップをツール化したMindManagerはさらに、BCPの全体像をふかんするだけでなく、個別の関連情報にもアクセスしやすく、新たに追加された情報のひも付けを容易にする。会議やブレインストーミングの場ではさまざまなアイデアが出るが、そういった一見ばらばらの情報も、Mind Managerではツリー化して格納し、すべての情報を互いに関連付けることが可能だ。そういう作業を繰り返していくことで、自社に適したBCPが自然とカスタマイズされて“育って”いくことになる。

 渡邉氏によれば「会議室のホワイトボードや付せん紙のメモといった手書きの情報も、MindManagerに放り込めば、あらゆる情報が連鎖したBCPの計画書を作ることができる」という。また、情報のフィルタリングやリスティングといった作業も容易に行え、任意のフォーマット(Word、PowerPoint、PDFなど)による保存/印刷も可能となっている。

 渡邉氏はマインドマップは「ガイドラインを視覚化した地図」だという。大地震のような災害発生時はいわば、未体験の環境に突然放り込まれたのと同じ状況である。そのとき、地図があるのとないのではその後に取れる行動がまったく異なる。「パニックのときはどうしても直線的な思考に陥りがちだが、地図があれば別の視点から考えることも可能になる。いざというときに自分の現在地をすばやく把握でき、空間を認識できる地図の存在は大きい」。

 この地図の役割を果たすのが視覚化されたアクションプランということになる。

 

作りっぱなしではなく訓練で定期的な見直しを

作成したガイドラインを机上の空論にしないためにも、PDCAのサイクルによって改善していくことが重要だという

 BCP対策においては計画立案も重要だが、それにもまして、スムーズに計画を実行できるような体制を整え、災害時は実際に行動に移せなくてはならない。せっかく作ったガイドラインを机上の空論にしないためにも、定期的に避難訓練の機会を設け、計画の見直しや変更を重ねていく作業も重要だと渡邉氏は指摘する。MindManagerはこうした教育/訓練シミュレーションをリンクさせていく機能もあわせもっている。「一度、計画を実施してみるとさまざまな改良点が見えてくるはず。避難訓練を行うことでサイクリックに回しやすくなるので、ぜひ計画全体に組み入れてほしい」(渡邉氏)

 避難訓練の重要性は、東日本大震災における東京ディズニーランドの例にも見ることができる。3月11日の地震発生時には、数万人の来園者がおり、交通機関もストップした。だがアルバイトを含む同園のスタッフは、パニックを起こすことなく、冷静な対応で来園者の安全を確保した。これはアルバイトに至るまで「来園者を守る」という同園の最も基本の考え方が徹底されていたこと、加えて2日に一度実施されているという避難訓練のたまものであることは間違いない。

 「お土産の食べ物を被災した来園者に配るなど、マニュアルにはない行動が奏功した部分もあったが、それも基本が徹底しているからこそできたこと。来園者を守るという事業における最も重要な目的を全スタッフが理解し、実行した、BCPの最たる例」と絶賛する。

 2日に一度の避難訓練は無理でも、定期的な実行と見直しはぜひともBCPのサイクルに取り入れていきたいところだ。「重要なのは東京ディズニーランドのように、会社にとって最も重要な目的を全員が常に再確認すること」だと渡邉氏は指摘する。自社のビジネスの目的は何かを、全従業員が理解している状態があって初めて災害に対する備えが万全だと言える。

 3.11以来、すべての日本企業にとってBCPはひとごとではなくなったはずだ。保険でもなく、机上の空論でもないBCPを、いまこそ想像力を駆使して取り組むときなのかもしれない。その際、マインドマップのプロセスが教えてくれることは少なくないだろう。

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