特別企画

NAND型フラッシュメモリの生みの親 東芝に聞く エンタープライズ向けSSD製品の最新動向と将来に向けた取り組み【後編】

 フラッシュメモリの歴史をたどると、その原点は東芝にある。フラッシュメモリの基礎技術は東芝によって発明され、東芝によって世界初のNAND型フラッシュメモリ(以下、NAND型フラッシュ)が市場へと投入された。現在、同社は四日市工場(三重県四日市市)においてNAND型フラッシュの量産を行うとともに、近年ではコンシューマからエンタープライズまで幅広いセグメントを対象とする多種多様なSSD製品を発売するようになった。

 後編では、東芝が提供するエンタープライズSSDの最新ラインアップとそれぞれの特長、そして将来に向けた展望などを取り上げていく。

用途にあわせてDWPDの設定値が異なるSSD製品をラインアップ

 NAND型フラッシュは、その動作の原理上、データの書き換え回数(Write/Erase Cycle)に制約がある。SSDでは、コントローラによる適切なウェアレベリング、高度なエラー訂正、実容量を超えるNAND型フラッシュを搭載するオーバープロビジョニングなどの手法によって、長年の実用に耐える製品寿命を確保している。例えば、東芝のエンタープライズSSDは、すべてのモデルで200万時間に及ぶMTTF(Mean Time To Failure:平均故障時間)のほか、5年間の動作保証を提供している。

 SSDの書き換え耐性を定量的に示す指標として業界内でよく使われているのが、DWPD(Drive Write Per Day)だ。DWPDは、動作保証期間(例えば5年間)中、平均的に使用すると仮定した場合に1日にドライブの全容量を最高何回まで書き換えられるかを表した指標であり、DWPDの数値が大きければ大きいほど書き換え耐性に優れていることを意味する。また、DWPDを高めるためにオーバープロビジョニング領域(SSD余剰容量)を多く確保する関係から、ランダムライト性能(IOPS)も向上する傾向にある。

 その一方、オーバープロビジョニングによって実容量を超えたNAND型フラッシュを搭載するということは、容量あたりの単価が上昇することにもつながる。そして、データのリード・ライトに対するデータの総量やその比率は、そもそもアプリケーションによって大きく異なっているため、DWPDの大きなモデルが常に優れているとも限らない。

 このような理由から、多くのSSDベンダーは、DWPDの設定値が異なる複数のモデルを取りそろえ、用途ごとに適したモデルを選択できるようにしている。例えば、東芝はDWPD=25以上を確保した高耐久のHigh Enduranceタイプ、DWPD=10に設定したバランス重視のMid Enduranceタイプ、連続した大容量データへのアクセスや読み出しの比率が多いアプリケーションを対象とするDWPD=3のValue Enduranceタイプ、そして動作の大部分が読み出しに集中するDWPD=1のRead Intensiveタイプがある。最近では、さらに読み出し特化に振り向けたDWPD=0.5のVery Read Intensiveタイプも追加された。

DWPDの違いによって作り出されたSSDのポジショニング(出典:東芝提供による資料)。DWPDの数値が大きなSSDは、耐久性に優れ、ランダムライト性能も高い。しかし、容量あたりの単価も高額になり、投資対効果を考慮するとオールラウンドで使用することは難しい。このため、東芝はDWPDの違いでカテゴリ(同社ではプールの区切り線に喩えてSwimlaneと呼んでいる)に分けて製品化を行っている

東芝が提供する第3世代のエンタープライズSSD『PX04シリーズ』

 東芝のエンタープライズSSDは、2011年に第1世代モデルの『PX01シリーズ』が登場して以来、2012年以降は第2世代モデルの『PX02シリーズ』と『PX03シリーズ』、そして2015年には第3世代モデルの『PX04シリーズ』へと推移している。

 世代ごとの技術的な相違点はさまざまだが、大枠の世代を作り出しているのがSSDコントローラであり、同一世代の中でマイナーチェンジ(例えばPX02とPX03)を生んでいるのがSSDに搭載されるNAND型フラッシュの違いである。

 第1世代モデルでは、1個のメモリセルに1ビットを保持するSLCタイプのNAND型フラッシュを採用していたが、第2世代モデルと第3世代モデルではSSDコントローラの刷新とともに、1個のメモリセルに2ビットを保持するMLCタイプへと移行した。

 また、半導体製造プロセスも世代ごとに微細化が進んでおり、第1世代モデルのメモリチップは32nmルールで製造されていたが、第2世代モデルでは24nmや19nmルールに微細化され、第3世代モデルでは最適化をさらに進めたA19nmプロセス技術が採用されている。そして、2016年後半以降は15nmルールへと微細化がいっそう進んでいく。

 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 メモリ応用技術第二部 ストレージプロダクツ応用技術第三担当 グループ長の中島賢司氏は、こうした持続性のある製品ロードマップについて「当社のエンタープライズSSDは、NAND型フラッシュとSSDコントローラの開発サイクルと足並みをそろえる形で世代を重ねてきました。将来登場する第4世代以降のモデルもすでにロードマップに組み込まれており、これからのさらなる進化もお約束しています。このように、継続性のある製品供給体制を敷くことで、お客さまは中長期的な投資計画を立てやすくなり、結果的にお客さまの安心にもつながるのです」と語る。

株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 メモリ応用技術第二部 ストレージプロダクツ応用技術第三担当 グループ長の中島賢司氏
東芝エンタープライズSSDのロードマップ(出典:東芝提供による資料)。2016年後半以降に登場するモデルは、最新の15nmプロセス技術によって製造されたNAND型フラッシュを搭載する予定だ。そして、次世代のSSDコントローラが登場した段階で、SSD自体も第4世代へと歩みを進めることになる

PCI Express接続モデルのラインアップ化とともに、最大電力枠の設定機能も新たにサポート

 第3世代のPX04シリーズは、SAS Gen.3とPCI Express Gen.3の両方に対応したSSDコントローラを搭載している。SAS(デュアルポート対応)をインターフェイスに持つ『PX04S』(末尾にSが付くSASモデル)の2.5インチSFFタイプに加え、PCI Express接続タイプ(Gen3×4レーン構成)の『PX04P』も新たに登場し、ドライブ形状は2.5インチSFFタイプとPCI Express拡張カード(Add-in Card)の2種類である。

 PX04シリーズの記憶容量は、DWPDの小さなモデルになるほど大容量に設定され、容量あたりの単価もリーズナブルになっていく。具体的には、High Endurance仕様が200〜1600GB、Mid Enterprise仕様がPX04Sで400〜3200GB、PX04Pで800〜3200GB 、Value Enterprise仕様が400〜3840GB、Read Intensive仕様が480〜3840GB、そしてVery Read Intensive仕様が2000および4000GBだ。

 そして、PX04シリーズでは、最大電力枠の設定機能も新たに追加された。10/15krpmのエンタープライズHDDが伝統的に9ワットを最大電力枠に定めてきたことから、SAS 2.5インチSFFタイプのSSDも最大9ワットが業界標準の電力枠である。PX04シリーズは、この最大9ワットを順守する形で設計されているが、より大電力の12ワットモードもサポートしている。これにより、大電力供給に対応したエンクロージャやドライブベイを組み合わせることで、さらに高い書き込み性能が得られる仕様となっている。

 一方で、PCI ExpressタイプのSSDは、25ワットが標準的な最大電力枠だが、PX04Pは新世代のSSDコントローラを搭載したことで最大18ワットという省電力駆動を実現している。また、ユーザーの使用環境にあわせて電力枠を低減することも可能であり、消費電力と性能のバランスを最適化できる拡張性を併せ持つ。

PX04シリーズのラインアップ(出典:東芝提供による資料)。SAS Gen.3とPCI Express Gen.3の両方に対応したSSDコントローラを搭載したことで、SAS(デュアルポート対応)をインターフェイスに持つ『PX04S』(末尾にSが付くモデル)のほか、PCI Express接続タイプ(Gen3×4レーン構成)の『PX04P』も新たな選択肢として加わった

PCI Express接続のドライブスロットを持ったサーバー製品がNVM Express普及のカギに

 SSD市場の競争は日々激化しており、世の中のニーズを先取りする形で適切なSSD製品を投入していかなければ、あっという間にシェアを奪われてしまう。東芝は、さまざまなタイプのSSDを発売しながらも、特にエンタープライズ分野ではSAS接続タイプとPCI Express(NVM Express準拠)接続タイプに注力していく意向だ。

 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 メモリ応用技術第二部 ストレージプロダクツ応用技術第三担当 参事の友永和総氏は、その根拠を「サーバー外付け型の独立したストレージシステムでは、ストレージを共有する複数サーバーからアクセスが集中するほか、インターフェイスの冗長化によって高い堅牢性を確保することも求められます。このため、今後もSAS接続タイプが主流になると予測しています。また、サーバー内蔵ドライブやデータセンターでの利用(ハイパースケールやCSP)においては、現時点でコストパフォーマンスに優れたSATA接続タイプが多く採用されていますが、SATAそのものが現行の第3世代(6Gbps)を最後に進化が止まります。このため、中長期的にはPCI Express接続タイプの比率が高まっていくと見込んでいます」と説明する。

 筆者が個人的に注目しているのは、やはりNVM Expressの動向だ。NVM Expressは、PCI Express接続のSSDに最適化されたレジスタインターフェイスやコマンドセット、機能セットなどを定義する、新世代SSDのための業界標準規格である。

 PCI Expressで直結されたオールフラッシュデバイスは、記憶階層でいえばメインメモリに近い位置付けにあり、旧来のストレージ専用プロトコル(SATA、SASなど)でアクセスするのはあまりにも効率が悪い。半導体メモリをベースとした記憶装置である以上は、もっとメモリライクにアクセスできる機構が必要だ。このため、一部のベンダーはそれを独自のハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって実装してきた経緯がある。

 そして、このような仕組みをオープンな世界へと誘うのがNVM Expressである。NVM Expressが登場することで、NVM Expressを取り巻く大きなエコシステムが構築され、各社がNVM Expressに準拠したSSDやドライバソフトウェアを次々と生み出してくれる。そうなれば、ユーザーは特定のベンダーにロックインされることなく、PCI Express接続のSSDを最大限に使い倒せるようになるのだ。

 こうした背景もあり、東芝はNVM Expressに対応したSSDの開発を決断し、開発を進めてきた。また、開発にあたっては、NVM Express標準準拠が必須となることから、NVM Express標準化委員会にも参画してきた。

 そして、NVM Express対応SSDが適合するプラットフォームの拡大は、まさにこれからという状況にある。このため、同社のPX04Pシリーズも今後急速にユーザー環境へと浸透していくことが期待され、顧客によるPX04Pの技術検証も、前編で取り上げたGMOインターネット株式会社を含めてすでに始まっているという。

 同社 システム本部 第四サービス開発部 インフラエンジニアリングチーム マネージャーの島原弘和氏は、ユーザーの目線からNVM Expressの将来性を「PX04Pシリーズは、Windows、Linux、VMwareなど、主要なOSやハイパーバイザーのインボックスドライバでそのまま動作しますので、導入の敷居はかなり低い製品といえます。特にAdd-in Cardタイプは、既存のPCI Express SSDを置き換えるものとして、ストレージ性能の底上げが必要なエリアで早々に採用する計画も立てています。一方の2.5インチSFFタイプは、SAS/SATA SSDを置き換える選択肢となりますが、サーバー上のドライブスロットにホットプラグ/アンプラグで抜き差しできる構造にならないとなかなか採用できません。現時点でPCI Express接続のドライブスロットを持つサーバーは少なく、ユーザーの立場からサーバーベンダーには常に要望を挙げていますが、東芝のようなドライブベンダーからもぜひ強く伝えてもらいたいところです」と語る。

株式会社東芝 セミコンダクター&ストレージ社 メモリ事業部 メモリ応用技術第二部 ストレージプロダクツ応用技術第三担当 参事の友永和総氏
GMOインターネット株式会社 システム本部 第四サービス開発部 インフラエンジニアリングチーム マネージャーの島原弘和氏
従来のSSDとNVM Express対応SSDの違いを表したもの(出典:東芝提供による資料)。PCI Express経由で直結したSSDは、旧来のストレージ専用プロトコルでアクセスすると効率が悪い。NVM Expressは、PCI Expressに最適なアクセス手段を提供することで、オーバーヘッドの少ない高効率のデータ転送を可能にする

他社の競合製品を大きく凌駕するパフォーマンスを発揮するPX04シリーズ

 東芝への取材時に、同社はPX04シリーズのパフォーマンスに大きな自信を見せていた。そこで、顧客との商談時に使用しているベンチマークテスト結果の一部を筆者にも開示してもらうことにした。

 まず、SAS接続のPX04Sだが、8KB Mixed I/O(リード:ライト=70:30)の性能計測によれば、IOPS、レイテンシともに他社の同クラス機種と比べて30%〜80%程度の優れた性能を確認している。また、PCI Express(NVM Express準拠)接続のPX04Pは、市場での同クラス代表機種に対してシーケンシャルおよびランダムI/Oのすべてが上回り、また最大2倍程度の性能電力効率(ワット当たり性能)も達成している。後発のエンタープライズSSDということもあり、競合製品と比べてパフォーマンス面で優れていることは必須の条件といえるが、それはきちんとクリアしているもようだ。

 もちろんこれらは東芝による実測結果であり、ユーザーの実環境でまったく同じ結果が得られることを保証するものではない。ユーザー環境での実測結果と東芝が開示するベンチマーク結果の間で、定性的な傾向が一致することはほぼ間違いないが、他社製品との間で具体的にどれほどの性能差が生まれるかは個々の環境で確かめるしかない。SSDの導入を検討している読者の皆さんは、ぜひとも東芝をはじめとするSSDベンダーに声をかけ、検証機材を借り受けてベンチマークテストを自らの手で行ってみていただきたい。

東芝製品(PX04S)と他社の同クラス機種に対する実機測定結果(東芝調べ)。これは、8KBというかなり小ブロックのアクセスパターンに対するIOPSとレイテンシの計測である。大ブロックのアクセスパターンに対して高いスループットを得るのは比較的簡単なことだが、そもそもSSDが強く求められるアプリケーションを考えれば、小ブロックのデータアクセスでいかに高いIOPSと低レイテンシをはじき出せるかが肝になる
東芝製品(PX04P)と市場での同クラス代表機種に対する実機測定結果(東芝調べ)。このグラフで最も注目したいのが、性能電力効率(ワット当たり性能)である。PX04Pは、競合製品よりも少ない電力で、より高い性能をはじき出していることが分かる。これは、高密度化が進むデータセンター環境において大きな力を発揮する特長だ

独自の3次元構造によってトランジスタ特性を大幅に改善したBiCS FLASH

 東芝自身が公表している製品ロードマップによれば、第4世代のエンタープライズSSDでは、3次元形状の新世代フラッシュメモリ『BiCS FLASH』を採用する計画である。同社は、第5製造棟においてBiCS FLASHの量産を2015年度に開始し、またBiCS FLASH専用の生産設備を設置するために第2製造棟の建て替えも行っている最中だ。2016年以降は、この新製造棟においてBiCS FLASHの生産を順次開始していく予定となっている。

 従来のNAND型フラッシュは、昔ながらのプレーナー型トランジスタに浮遊ゲートを設け、そこに電荷を蓄えることで情報を記憶する。そして、これまでは製造プロセス技術の微細化と多値記憶技術を組み合わせることで大容量化を推し進めてきたが、セル面積が縮小することでトランジスタ自身の特性(特に絶縁膜の特性)が劣化し、セル同士の電気的干渉(Inter-cell Interference)などが起こりやすくなる。

 そこで、BiCS FLASHは、これ以上の微細化が困難だったプレーナー型に代わり、円筒形状(マカロニチャネル構造)の縦型トランジスタを採用している。これにより、極めて高速で安定した情報の消去、書き込み、読み出しを可能にしている。

 また、このような縦型トランジスタを垂直方向に積み上げる高層マンションのような構造をとることで、チップあたりの大容量化も容易にしている。従来型のチップは、チップ面積当たりの容量を大きく増やすために、最大16枚程度のシリコンダイ同士をワイヤボンディングで接続している。しかし、伝送路が長くなる関係から、高速データ転送を阻害したり、信号の駆動力を強化するために消費電力が増加するといった問題をはらんでいた。

 これに対し、東芝は、シリコンダイ同士を最短距離で接続できるシリコン貫通電極(TSV:Through Silicon Via)によって、高速データ通信と省電力を両立する技術も開発している。同社は、BiCS FLASHとTSVを組み合わせることで、さらに高密度で性能とコストを両立させたNAND型フラッシュを提供していく予定だ。

 中島氏は、こうした新しいテクノロジの採用に関して「競合他社が3次元技術をいち早く投入したこともあり、お客さまからは東芝の3次元技術に関しても質問される機会が増えてきています。しかし、NAND型フラッシュ単体のテクノロジがどれくらい新しいかではなく、そのチップを搭載した完成品(SSD)にとってベストなテクノロジが何かを考えることが重要なのです。東芝は、パフォーマンス、容量、信頼性、コストといったエンタープライズのさまざまなニーズを満たしつつ、3次元技術をきちんと使いこなせるタイミングになった段階で、エンタープライズSSDにも3次元技術を投入します。3次元技術を採用したBiCS FLASHはすでに量産体制に入っていますので、機が熟せばいつでもSSDへの投入は可能となっています」と力説する。

従来のプレーナー型トランジスタとBiCS FLASHで採用されている縦型トランジスタの違い(出典:東芝提供による資料)。BiCS FLASHは、円筒形状(マカロニチャネル構造)の絶縁膜を取り入れることで、トランジスタを微細化しても絶縁膜の特性を良好な状態に保つことができ、高速で安定した情報の消去、書き込み、読み出しを可能にしている。
48層積層プロセスを用いた世界初の256ギガビット3次元フラッシュメモリ「BiCS FLASH」(東芝による写真提供)。2015年9月からサンプル出荷を開始している

TLC/QLCタイプのメモリセルやストレージインテリジェンスにも注目

 現行のPX04シリーズでは、MLCタイプ(2ビット/セル)のNAND型フラッシュを採用しているが、将来的には1個のメモリセルで3ビットの記憶が可能なTLCタイプや、4ビットの記憶が可能なQLCタイプの投入も視野に入れている。ただし、現時点ではBiCS FLASHの採用こそ計画に入っているものの、TLC/QLC技術については言及されていない。

 友永氏は、今後の見通しについて「性能や耐久性に対するニーズは、コンシューマとエンタープライズでかなり異なっています。少なくともエンタープライズ分野の製品については、検証に多くの時間を割かなければなりません。BiCS FLASHとTLC/QLCの組み合わせなど、今後の状況に応じて採用を検討していく予定です」と語っている。

 SSDに関して注目しておきたい、もうひとつのトレンドが『ストレージインテリジェンス』である。ストレージインテリジェンスそのものが指し示す範囲はかなり幅広いが、SSDに特化して説明するなら、SSDの接続元となるホストコンピュータと連携して動作する『さらに賢い』SSDを実現する技術といえば分かりやすいだろうか。

 最新のSSDには、高い処理能力を持ったマイクロプロセッサが搭載されている上、そのプロセッサにはNAND型フラッシュという超高速のストレージ領域が直結している。このため、ホスト側からSSDコントローラを制御し、ユーザーのアプリケーションに適した動作をさせることで、SSDのパフォーマンスや耐久性をさらに高められる可能性が生まれる。

 友永氏は、「当社は、日々拡大しているSSDの市場に対するニーズにきちんと応え、今後もSSDのビジネスを着実に広げていきます。このような中で、ストレージインテリジェンスのような技術動向は、ユーザーに新たな付加価値をもたらす有力な切り口になると期待しています。また、SSDやストレージシステムベンダー各社が参加する標準化委員会・業界団体などにも参画し、関係各社と連携することで、業界標準技術として使いやすく、また先進性に富んだストレージ技術の普及に取り組んでまいります」と説明する。

SLC、MLC、TLCタイプのメモリセルとそれぞれの特徴について(出典:東芝提供による資料)。MLCタイプは、もともと1個のメモリセルに2ビット以上の情報を記憶できるものを総称するものだったが、3ビット/セルのTLCタイプが登場したことを受け、業界全体で2ビット/セルのものだけをMLCと呼ぶようになった。本来、明確に区別するならDLCとでも書くべきではないかと筆者は常々思うわけだが、それはさておき3ビット/セルのTLCタイプは、大容量化の面で大きなメリットがある反面、ライト性能、書き換え耐性、データ保持力の面ではSLC/MLCタイプに及ばない。結局は用途に見合うかどうかという話であり、コンシューマ向け、エンタープライズ向けなど、用途にあわせてそれぞれのタイプを柔軟に使い分けていくというのが東芝の方針だ
ホストと連携して動作する『さらに賢い』SSDを実現するストレージインテリジェンス(出典:東芝提供による資料)。東芝自身も、SSDのストレージインテリジェンスに向けて技術開発から標準化への参画まで、幅広く取り組んでいる最中だ

システム全体でパフォーマンスを引き出すインテグレーション支援体制

 東芝は、SSDを提供するドライブベンダーだが、同社の開発部門にはアプリケーションベンチマークを担当するチームも在籍している。そして社内では、仮想化、RDBMS、SDS、ビッグデータ、さまざまなファイルシステム、RAID&HWとの組み合わせなど、さまざまなエンタープライズアプリケーション環境に対し、SSDのパフォーマンスや動作特性を実機で検証し続けている。そして、何らかの問題を発見した際には、SSDの開発部隊にフィードバックを行って迅速な対応にあたっている。これにより、SSD単体では高速だが、特定のアプリケーションで十分な性能を発揮できないといった問題の解消に努めている。

 中島氏は、「今後は、東芝製エンタープライズSSDの採用を検討しているお客さまにさらなる安心をお届けするため、ベストプラクティスを紹介するホワイトペーパーを積極的に公表していく計画です。エンドユーザーの皆さまは、アプリケーションを含めたシステム全体で高いパフォーマンスを追い求めています。このため、当社もドライブの供給だけでなく、システムベンダーやクラウド、データセンター事業者などのお客さまとも連携し、エンドユーザーのニーズにあわせた製品開発を行っていきたいと考えています」と説明する。

単なるSSDの供給にとどまらず、実際にSSDが活用されるエンタープライズアプリケーション環境でも所望のパフォーマンスが発揮できるかどうかを社内の実機環境で常に検証し続けている(出典:東芝提供による資料)

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 取材の最後に、今後の意気込みとして「当社が持つ最先端のNAND型フラッシュを最大限に活用したSSDの開発、そしてSSDをはじめ、チップ自身の最終的な用途を起点に考えた半導体製品の開発という、双方向のアプローチでNAND型フラッシュとストレージ製品のビジネスに取り組んでいきます」というメッセージをもらった。

 このようなメッセージは、半導体チップとそれを搭載した完成品の両方を手がけているベンダーだからこそ明言できることだ。もちろん、世界を見渡せば、そうした立場にあるベンダーはほかにもあるが、東芝は唯一『日本発』の企業である。

 液晶パネルなどを見ても分かるように、かつては日本もかなり強かったはずの分野が、今では片っ端から海外に奪われている状況にある。そのような中で、最先端のNAND型フラッシュが三重県四日市市で作られ、世界中に供給されていることに対し、日本生まれ日本育ちのチャキチャキ日本人である筆者自身もたいへん誇らしく思っている。

 ぜひとも『日本発』のエレクトロニクスワールドを再び盛り上げるべく、東芝には引き続き挑戦し続けてもらいたい。

(伊勢 雅英)