特別企画

コンサルから開発、セールスまで幅広い業務を担当――、日本オラクルの社員に聞く、IT企業で働く醍醐味とは?

 1997年に新卒で日本オラクルに入社し、コンサルティング部門を経て米Oracleに転籍。1年間開発現場で働いたのち帰国し、その後セールスコンサルタントとしてのキャリアを積んでいる平井輝恵氏。社会人生活のすべてをオラクルで過ごしている同氏だが、コンサルティングから開発、セールスまでを経験し、その仕事の領域は一般の社会人と比べるとかなり幅広い。

 IT企業の代表格ともいえるオラクルで働くということは、一体どのようなものなのか。さまざまな部門での職務を経験した平井氏のキャリアから、IT企業で働くこと醍醐味(だいごみ)や苦労を探ってみたい。

日本オラクル クラウドアプリケーション事業統括 ソリューション・プロダクト本部 トータルソリューション部 プリンシパルセールスコンサルタント 平井輝恵氏

新卒入社でコンサルティングを担当

 平井氏が日本オラクルに入社した1997年は、同社が新卒の学生を採用し始め、新人でありながらコンサルティング業務を任せようという取り組みが始まったころだったという。製品のこともよくわからず、コンサルティングがどのような仕事かもわからないまま配属された部署だったが、現場で先輩と共にアプリケーションの導入やプロジェクトの設計などを経験し、顧客に対し最新情報や新たな使い方を提案しつつ、徐々に信頼を得ることや喜んでもらえることのうれしさを実感していったという。

 中でも平井氏は、当時オラクルにしかできないようなコンサルティングが経験できたことに充実感を感じていたという。「当時はパラレルサーバーがはやっていて、基幹系のクリティカルなシステムでハイエンドサーバーを何台も並べるといったオラクルにしかできないような構築方法も体験しました。技術的に深い部分まで学べましたし、こうした技術を提供できることがオラクルのコンサルティングの価値なのだと実感できました」と、平井氏は当時を振り返る。

米国の開発現場を体験

 コンサルティング部門で約4年間の勤務を経たのち、平井氏は同じく日本オラクルに勤めていた夫の米Oracleへの転籍を機に、Oracleの開発部門に所属することとなった。日本オラクルは、基本的に米国で開発された製品の販売会社だ。そんな中、平井氏は、日本オラクルに所属しつつも米国の開発現場で製品のリリースに携わる機会を得たのである。

 米国では、「Oracle E-Business Suite(Oracle EBS)」の開発部隊に所属、日本のユーザーからの要望を仕様に盛り込むべく日々奮闘した。「製造業向けの製品を担当していたのですが、日本の製造業は非常に細かい要件を求めてきます。その要望を開発現場に伝えることはもちろん、日本でのものづくりの方法も同時に理解してもらいつつ要件を定義し、それを設計書にまで落とし、その後の仕様テストまで、開発の一連の流れを経験できました」と、平井氏は米国での体験を語る。

 もちろん、米国滞在中にはつらい時期もあった。言葉の壁もあり、最初はコミュニケーションにも苦労したという。また、開発作業は経営陣から見れれば投資にあたるため、「こうした仕様を盛り込めばこれだけ売り上げが上がる」といった数値をコミットすることが求められたが、実際に製品として存在しないと日本の顧客は評価もできない。そうした日米の考え方の違いに戸惑った時期もあった。

 しかし平井氏は、「うまく話せなくても、伝えたいことがあれば一生懸命伝える努力をし、相手ときちんと向き合うことで、しっかり話を聞いてもらえることがわかりました」と話す。最終的には日本の顧客の要望も理解してもらうことができ、今でも当時平井氏が担当して盛り込んだ機能がOracle EBSに残っているという。

 「EBSという大きなパッケージを作るプロセスが体験できたことは、本当に良かったと思っています。日本オラクルでは、製品そのものの開発に携わることはほとんどありません。それが、開発現場で実際に製品のリリースを体験したことで視野が広がりました。現在セールスコンサルタントとしてお客さまと話す時にも、開発の人とどう話すべきかを意識できており、それも当時の経験があったからだと思っています」と平井氏。オラクルに所属していても一部の人間しか体験できないことではあるが、平井氏は米国で得た経験が今のキャリアにも大きく役立っていると感じている。

セールスコンサルタントとしてのやりがい

 帰国後はセールスコンサルタントとして活躍する平井氏。米国で開発に携わっていたEBS製品はもちろん、ERP、CRMと担当プロダクトの幅を広げ、現在ではカスタマーエクスペリエンス(CX)関連のクラウド製品を担当しているという。

 セールスコンサルタントの仕事は、これまでに体験してきたコンサルティングや開発とは全く異なる。顧客の要望を理解し、予算を念頭に置いて金額に見合った提案をする。そこには、パートナーや関係者との交渉も含まれるのだ。新たな製品が登場すれば、その製品の販売に向けた準備も整える。「お客さまにタイムリーに情報を伝えながら、望まれているものをタイミング良く提案することが重要です。新しい分野の仕事でしたが、こうした営業としての感覚を身につけることを楽しんでいます」と平井氏。成績が数値となって最も現れやすい現在の職は「特にやりがいがある」とも感じているという。

 「初めに担当したコンサルティング業務では、プロジェクトや製品のインプリなどの流れを見てきました。その後、開発部隊で開発のプロセスを経験した上で、現在お客さまのITシステムを提案しています。これまでの経験があるからこそ、導入や開発の立場を考えた提案ができると自負しています」と平井氏。さまざまな部門での経験が、今の仕事の強みにつながっているという。

転職を考えたことも

 長年にわたりオラクルでキャリアを積んできた平井氏だが、実は一度だけ転職を考えたこともあるという。それは、大型案件を1人でクローズした直後のこと。自分の仕事にある程度の自信を持つことができたタイミングと、オラクルが組織替えしようとしていたタイミングが一致し、「外で挑戦してみるのもいいのではないか」と考えた。

 すでに転職候補先からオファーをもらい、オラクルを退職する意思を伝えたのだが、周りからは引き留められた。転職先は、ある専門分野の技術を提供する企業で、その分野の専門性を高めようという思いがあった。ただ、オラクルのようにさまざまなソリューションを持つ企業では今後担当する分野の幅も広いことや、周りの人から引き留められ、一緒に仕事を続けたいと感じる仲間が多かったことから、転職を思いとどまったという。

 当時を振り返り、平井氏は次のように語る。「転職はタイミングだと思うんです。ふと新たな挑戦をしたいと思った時期と、会社の方向性と自分の方向性が必ずしも同じではないと感じた時期が一致するのであれば、一度会社を離れてみるのもいいかもしれません。私は結局オラクルに残ることを選択し、その決断に今は満足しています。また転職したいという気持ちになれば、その時にあらためて考えてみようと思います」。

 また平井氏は、これまでに3回の産休・育休を取得しており、家事と育児、そして仕事とのバランスを取りながらセールスコンサルタントとしての仕事を続けている。限られた時間の中で仕事をこなすコツは、どこにあるのだろうか。

 「たとえ仕事を早く切り上げて帰宅しても、やるべきことをやっていれば認めてもらえます。個人的には、生活のリズムを崩さないことが大切だと考えています。仕事が終わらず遅くなると、子どもの調子が狂ってしまい、かえってそれが私の仕事にも影響を与えることがわかりました。そこで、どうしても必要な仕事の時間は朝早く起きることで対処し、子どもの生活リズムを崩さないように心がけています。限られた時間の中でバランスを取ることが得意になってきましたね」(平井氏)。

 社歴が長くなり、今後はこれまでの経験を生かして後輩を育てることにも力を注ぎたいという平井氏。また、2020年の東京オリンピックに向け、関連企業とかかわることでオラクルのことをより多くの人に理解してもらえるような取り組みができればと考えているという。平井氏の仕事の幅は、今後も大きく広がりそうだ。

藤本 京子