特別企画
愛媛県が日本マイクロソフトとの協働プログラムで得たものとは
(2015/5/19 06:00)
愛媛県と日本マイクロソフト株式会社が2014年1月に発表した「地域活性化協働プログラム」。同プログラムが2015年3月末に終了したことに伴い、両者は活動報告会を開催した。日本マイクロソフト 執行役 社長室 室長 シチズンシップリードの牧野益巳氏によると、同社が地域活性化プログラムを本格的に展開するようになったのは2009年。以来6年で12県と共同事業を行い、愛媛県は12番目の県だったという。
その中でも「愛媛県との取り組みはユニークだった」と牧野氏は言う。それは、マイクロソフト側が提供できる支援パッケージの中から取り組みを開始したのではなく、愛媛県側が地域活性化に直結するテーマを最初から提案したことにある。それが、自転車通行が可能な「瀬戸内しまなみ海道」を中心として、愛媛をサイクリングで活性化しようというアイデアから生まれた「愛媛マルゴト自転車道サービスサイト」の構築である。
「しまなみ海道のみならず、愛媛県には自然豊かでフラットなサイクリングに適したコースが多いため、26のコースを整備した。それをPRするため、観光パンフレットやサイクリスト向けの地図を用意したほか、自転車を乗せることのできるサイクルトレインも走らせた。あとはインターネットでもPRできるよう、投稿型のサイトを作ろうと考えていた」と、愛媛県 観光物産課 係長の三好啓司氏はサイト構築の背景を語る。日本マイクロソフトとの協働プログラムの話が持ち上がったのは、サイト構築を決めたころだったという。「1月の協働プログラム発表後、4月にはサイトが構築できた。短期間でサイトが構築できたのはマイクロソフトの支援のおかげだ」(三好氏)。
愛媛マルゴト自転車道サービスサイトの構築には、マイクロソフトがサンフランシスコやロンドンで提供している住民連携サービスクラウドを応用したという。その後、サイトのスマートフォン対応を進め、6月にはAndroid版を公開。8月にはiOS版の一部機能を、10月には全機能をリリースした。サイトの運用管理は、愛媛県から委託された地元の障碍者支援NPOが担当しているという。
三好氏によると、現在サービスサイトの登録者数は約530人。「行政の用意したパンフレットなどは、最新情報を載せるために取材が必要で、リアルタイムな情報が反映できない。そのため、サービスサイトを通じて投稿された情報は重要だ」と三好氏。ただし、サービスサイトへの投稿には登録が必要で、「今後さらに登録者数と投稿数を増やす必要がある」と三好氏は言う。
また、サービスサイトの今後の展開については、「コンテンツを拡充していきたい。例えば、サイクリストの休憩施設や、初心者向けの情報などだ。また、外国人向けに、地図などの静的コンテンツは英語、韓国語、中国語などに対応していくほか、ユーザーからの要望にもできるだけ応えるようにしたい」としている。
人材育成や障碍者支援、NPO基盤強化も
今回日本マイクロソフトが愛媛県との協働プログラムで支援したのは、愛媛マルゴト自転車道サービスサイトの構築だけではない。個別のプログラムとして「IT高度人材育成サポートプログラム」「障碍者向け支援プログラム」「NPO基盤強化プログラム」の3つが採択され、さまざまな講座やセミナー、コンテストなどが実施された。
IT高度人材育成サポートプログラムでは、愛媛大学大学院と協働で、技術者向け専門セミナーやトレーニングを用意。愛媛県内のICT関連産業の復興と高度人材の育成を目指した。具体的には、マイクロソフトが教育コンテンツを無償で提供し、教育方法や教材活用スキルが移転できるようにしたほか、マイクロソフトの講師による講習会も実施。講習会の基礎編には34~36人が、応用編には12~15人が参加したという。
障碍者向け支援プログラムでは、障碍者の就労支援を行うNPO法人ぶうしすてむと、障碍者の就労移行支援事業を行うICT企業フェローシステムに対し、Microsoft AzureやMicrosoft Dynamics CRMの講座を実施。また、愛媛マルゴト自転車道サービスサイトの制作会社から技術サポートを受け、今後障碍者が同サイトの運営を担当できるようにした。
NPO基盤強化プログラムでは、NPOが長期的に活動できるよう、NPOのプレゼン力の強化を目指したほか、プレゼン作成のスキルや効果的なプレゼン方法のノウハウを伝授できるNPOリーダーを育成すべく、ワークショップを開催した。また、一般投票も可能としたプレゼンコンテストを実施、今回の報告会ではその表彰式も行われた。
牧野氏は、今回のプログラム全体を振り返り、「毎年さまざまな自治体と協働プログラムを実施しているが、今回はサイクリングを中心とした観光誘致が主なテーマとなるなど、地域活性化に直結していたことから、前向きに楽しく取り組めた。ただ、地域の課題は各地で異なり、1つの団体が地域全体の課題を解決することは難しい。また、協働プログラムの期間が終わっても、地元で自律的にこのような仕組みが継続できる基盤が必要だ。今回は、愛媛県知事の中村時広氏や各プログラムで中心的な役割を果たしてくれた地元企業およびNPOのリーダーシップがすばらしく、今後もこうした企業や団体が連携して地域活性化が続く仕組みが構築できたと思っている」と述べた。