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「モバイルは全事業の戦略の主導権を握っている」――SAP幹部、同社のモバイル事業を語る

 「SAPが注力している事業分野は、アプリケーション、アナリティクス、データベース、そしてモバイルだ。中でもモバイルは、ほかの事業分野すべてに関連している。つまり、モバイルは全事業の戦略において主導権を握っているのだ」と語るのは、SAP モバイル戦略担当グローバルバイスプレジデントのWilliam Clark氏だ。

 SAPといえばエンタープライズアプリケーションの大手ベンダーだが、2月27日までスペイン・バルセロナにて開催された世界最大のモバイル関連イベント「Mobile World Congress 2014」に巨大なブースを出展したことからも、同社がモバイルビジネスに注力していることが伺える。SAPのモバイルビジネスの現状をClark氏に聞いた。

モバイルアプリとその基盤を提供

SAP モバイル戦略担当グローバルバイスプレジデント William Clark氏

 Clark氏によると、SAPのモバイルビジネスの大きな柱となるのはアプリケーションだ。現在同社のアプリストアには、270ものモバイルアプリが用意されているという。

 そのモバイルアプリを支えるために、さまざまなコンポーネントが存在する。そのひとつは、モバイルアプリを開発するための「SAP Mobile Platform」だ。この開発プラットフォームにより、「モバイルデバイスが多種多様のバックエンドシステムとつながるようになる。SAPだけでなく、IBMやOracleなどのシステムともつながるのだ。クロスプラットフォーム環境でさまざまなユーザーエクスペリエンスが提供できるSAPプラットフォームの価値は大きい」と、Clark氏は同社のプラットフォームに自信を見せる。

 モバイルアプリを支えるもうひとつのコンポーネントは、セキュリティソリューションの「SAP Mobile Secure」だ。SAP Mobile Secureは、モバイルデバイス管理(MDM)とモバイルアプリ管理(MAM)、そしてモバイルコンテンツ管理(MCM)という3分野の管理製品で構成されている。

 デバイスそのものの安全性を保つMDM製品には「SAP Afaria」を用意。15年以上の歴史を持ち、世界でも高いシェアを誇る同製品だが、2013年3月からはAmazon Web Services(AWS)でも入手可能で「1デバイスにつき月額1ユーロ(注:日本での価格は非公開)にて利用できる」とClark氏はアピールする。

 アプリケーション管理については、Mocanaとのパートナーシップにより、同社の技術を使ったアプリケーションラッピングを実現する。「例えば、複数の病院で仕事をする医師が、単一デバイスで複数の病院のアプリを使っているとしよう。その中にはSAP Mobile Platformで構築したアプリもそうでないアプリも存在し、プライバシーなどの課題が気になるところだ。Mocanaはソースコードがなくてもアプリケーションをラッピングできるため、このような場合でもさまざまなアプリケーションを安全な状態に保つことができる。これにより、BYODのみならず、Bring Your Own Applicationが実現する。さらにはBYOX、つまりXには何を当てはめても良く、何でも自由に持ち込むことができる世界への進化につながるのだ」とClark氏は説明する。

 コンテンツ管理面では、複数のデバイスからコンテンツにアクセスできる「SAP Mobile Documents」を提供している。Clark氏は同ソリューションを「Dropboxのエンタープライズバージョンのようなもの」と説明。2013年3月(日本では同年4月から)に提供を開始しており、「1人月額4ユーロで利用可能(注:日本での価格は非公開)」としている。

新たなパートナーシップを発表

 Mobile World Congress 2014に合わせ、SAPではモバイル開発分野における新たなパートナーシップを2月24日に発表した。SAPの新たなパートナーとなったのは、XamarinとService2Mediaだ。

 Service2Mediaとのパートナーシップでは、モバイルアプリライフサイクルプラットフォームの「M2Active」が、SAP Mobile PlatformのAPIをサポートするようになる。これにより、さまざまなモバイルアプリがSAPのシステムにアクセスできるという。

 一方のXamarinは、iOS、Android、Windows 8向けのアプリをすべてマイクロソフトのVisual Studio環境で開発できるプラットフォームを提供しており、世界111カ国で50万人以上の開発者コミュニティを持つ。SAPとのパートナーシップでリリースされる新ソフトウェア開発キット(SDK)により、SAP Mobile Platformの機能やデータを活用するネイティブアプリが開発できるようになるとのこと。また、Xamarinのモバイルアプリテスト環境「Xamarin Test Cloud」にSAP Mobile Platformのデータ認証機能が組み込まれる。これにより、さまざまなデバイスが自動的に検証できるという。

 Clark氏は、「この世に存在する数多くのマイクロソフト開発者が、Windows PhoneのみならずiOSやAndroid向けのアプリも開発できるようになる。Xamarinのプラットフォームを利用することで、BYOT(Bring Your Own Tool)が実現する」と説明。「われわれは、モバイルアプリを開発するにあたり、プロプライエタリなツールにロックインすることはないと宣言した最初のベンダーだ。今回の発表は、この方向性の延長線上にあるものだ」と述べた。

沙倉 芽生