Microsoft SQL Serverの進化を見る【第一回】

着実な進化を遂げるデータベース


 マイクロソフトは5月から、最新データベース製品である「SQL Server 2008 R2」の提供を開始した。今回は「R2」という名前が示す通り大々的なバージョンアップではないが、ユーザーのニーズを取り入れBIへの対応を強化するなど、重要な機能強化が行われている。また国内での取り組みも、マイクロソフト内部のもの、パートナーとのものを含めて、着実に前進しつつあるという。

 今回の特集では、こうしたSQL Serverを取り巻く状況や、最新版での機能強化などを、マイクロソフトや同社のパートナーに取材し、数回にわたって紹介する。


SQL Serverはエントリーレベルのデータベース?

マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの斎藤泰行氏
SQL Serverの歴史と技術革新

 「MicrosoftではSQL Serverに対し、全体の1/6くらいに相当する多額の投資を行って、機能や信頼性の向上を行ってきた。しかし、SQL Serverはエントリーレベルのデータベースだといわれることが多い。特に、SQL Server 6.0/7.0といった古いバージョンで触られた方の経験が根強く残っている」――。マイクロソフト サーバープラットフォームビジネス本部 エグゼクティブプロダクトマネージャーの斎藤泰行氏は、SQL Serverに関するこうした印象が顧客の間ではまだまだ強い、と話す。

 もともと、SQL ServerはSybaseの資産をベースに開発された製品だったが、1998年のSQL Server 7.0では、Sybase由来のコードをすべて捨て、Microsoft独自のコードを採用。その後も、フェイルオーバー機能や64ビット環境のサポートなどの機能を徐々に追加し、着実に進化させてきた。

 斎藤氏によれば、開発における具体的な投資分野は「ミッションクリティカル対応」、XMLや地理データなどの「あらゆるデータへの対応」、「開発のしやすさ」、「BI(ビジネスインテリジェンス)」の4つ。

 特に「Yukon」の開発コード名で知られるSQL Server 2005では、「ミラーリングや、ポリシー管理による自動化、複数サーバーを前提とした大規模対応などの機能強化を実施。「5年をかけて作り直したといってもいい」と斎藤氏が述べるように、大幅な強化が行われ、過去の製品とはもはや別物といっていいくらいの進化を遂げてきた。

 さらに、2008年のSQL Server 2008では、開発のしやすさを追求し「エンティティ(Entity)」の概念を導入したほか、圧縮機能が追加され、より大規模な環境で利用しやすくなっている。

 「データベースの運用については、クエリのパフォーマンスに問題を抱えており、I/O性能を出せる高価なストレージに頼らざるを得ない運用をしているところも多い。しかしSQL Serverの圧縮ではデータを1/10くらいにできる上、読み取りだけでなく更新についても対応できる。高価なストレージを入れる必要がなくなるので、データの爆発が起こっている中、すごいビジネスチャンスがある。一方で、圧縮するとデータの展開作業がボトルネックになるのでは、という声をよく聞くが、実際はストレージがボトルネックになることが多いので、展開時のCPU負荷がボトルネックになることはあまりない。こうした点を伝えて認知していけば、当社にとっての強みになる」(斎藤氏)。

データの圧縮によって、ストレージ容量が削減できるほか、パフォーマンス面でも大きな効果を発揮するという

ベンチマークや事例公開でマイナスイメージ払しょくを図る

SQL Serverのトランザクション処理性能

 このように、多額の投資を行い、着実な機能強化を実施してきたSQL Serverにとって、「『エントリーレベルのデータベース』という印象は、はるか昔のものだと当社としては認識しているが、パートナーやお客さまには根強く残ってしまっている。そこを変えていくのが、今後への課題」(斎藤氏)なのだ。

 そのために、特にSQL Server 2005が提供されてからは、性能面でのアピールやミッションクリティカル領域での事例公表を積極的に行い始めた印象がある。性能面では、「毎秒あたりのトランザクション性能が優れているので、オンラインのネットバンキング、トレードシステムなどで強みがある」と斎藤氏が話すように、現実的なOLTP環境でのトランザクション性能を示す「TPC-E」ベンチマークでは、上位をSQL Serverが独占しているという。

 こうした現状を、SQL Serverを販売しているベンダーはどう見ているのだろうか。

 日本ユニシス 共通利用技術部 データ利用技術室 データベース適用グループ グループリーダの高橋恭之氏は、「古くからWindows Serverのミッションクリティカル領域への適応を行い、ミドルウェアでもDWHでも有力なソフトであることを2000年から見てアライアンスを締結している」とし、SQL Serverでも十分対応できる領域が広がっている、との見方を示す。

 一方、特にBI(ビジネスインテリジェンス)/DWH(データウェアハウス)にフォーカスしてSQL Serverを取り扱っている日本電気(NEC)でも、「SQL Server 2005くらいからは、なぜSQL Server?という疑問の声を、現場ではあまり聞かなくなってきた」(第三ITソフトウェア事業部 グループマネージャの白石雅己氏)とする。

 さらに、白石氏は、「金融系ではミッションクリティカル性が要求されるのは当然。しかし、情報系だからミッションクリティカルではないのかといえば、そんなことはない。情報によって、経営判断に影響が出るからだ。これだけ案件が出てきたということは、それなりにミッションクリティカル性が評価されてきた、ということだろう」とも述べ、十分な信頼が生まれつつあるとの認識を示した。

メインライン開発で高い信頼性を担保

SQL Serverの導入事例
メインラインで信頼性向上を行う一方、新機能は製品クオリティに近づいて初めて、ここに組み込まれる

 導入事例でも、百五銀行の次世代銀行勘定系システム、カブドットコム証券のオンライン証券システム、外為どっとコムのFXシステムなど、国内の金融機関では確実に採用を増やしてきた。また海外では、ロンドン証券取引所やNASDAQをはじめとした大型案件や、大規模データウェアハウスでもSQL Serverが採用されるなど、信頼性についての評価も高まっている。

 こうした、高い信頼性を支えているのは、製品コードの「メインライン」を継承していく開発手法だ。SQL Server 2008は、前バージョンのSQL Server 2005をベースに設計されているが、1000名以上の開発者が、信頼性、セキュリティ、パフォーマンスといった、基本機能強化のみをメインラインに対して行っている。

 一方で、新機能や機能強化は、メインラインと切り離された個別のチーム(Improvement)単位で実施され、数々のテストを経た後、製品クオリティに近いものになった段階ではじめて、メインラインに組み込まれる仕組み。こうした分業体制により、メインラインの品質を保ったままでの製品提供が可能になっているのだ。

 斎藤氏は、「当社の製品は最初のService Packを待て、という風潮もありますが(笑)、こういった説明をしていくと、当社の狙いを理解していただける。日本では“枯れた”ものが好まれるし、ミッションクリティカルではなおさらそういった傾向があるものの、実は最新版がセキュアであり、パフォーマンスも改善されているというメッセージがきちんと伝えられている」と、この価値を再三強調してきた。

 実際にパートナーからも、「メインライン開発は、メインストリームを残して機能を向上させる部分で効果があったし、信頼性の面でも大きな影響がある」(NECの白石グループマネージャ)と、評価する声があがっている。

SAPの新規導入における国内シェアでは、SQL Serverが71%以上を占めている

 こうしたメッセージの発信もあってか、エントリー向けという認識が払しょくできていない一方で、国内でのシェアは順調に伸びているとのこと。テクノシステムリサーチの調査では、2008年には44%だったシェア(導入サイト数ベース)が、2012年には50%近くまで伸びることが見込まれている。斎藤氏は、「小さいところに入っているから数も多いといわれるが、確かに2005年までは、エントリー層が6割、ミッションクリティカル層が4割だった。しかし今は、それが逆転するようになった」とのデータを示し、その証左として、SAP環境での導入率を紹介する。

 「SAPは誰もが認める基幹業務アプリケーションだが、そのSAP環境における2008年の実績値では、新規インストールの73%がWindows Serverベースで、さらにその71%がSQL Server。このように、大企業での採用が増えているのが現状だ」(斎藤氏)。

他社製品からの乗り換え促進に向けた施策を展開中

インサイトテクノロジーとの協業により、乗り換えのアセスメントを提供している

 順調に実績を積み重ねているSQL Serverだが、やはり成長戦略の上では、他社データベースからの乗り換えが一番重要な領域になる。マイクロソフトでも、ここについては非常に重視しているポイントで、競合ベンダーの関連製品、コンサルティングを長年手掛けてきたインサイトテクノロジーや、トレーニングで実績のあるシステムテクノロジーアイなどとアライアンスを組み、移行促進に積極的に取り組んでいる。

 そのうち、インサイトテクノロジーと進めているマイグレーションについてのアセスメントサービスでは、企業側の反応もよく、当初の倍近い人的リソースを費やしている。

 このサービスが好調なのは、不況の影響もあり、企業において、IT予算への削減圧力が高まっているからだ。「お客さまに伺って、どのバージョンのデータベースがどこにどのくらいあるか、という棚卸しをまずやるが、お客さま自身が何本あるのかを把握されていなかったりもする。実は、保守料が年間1億円を超えているようなお客さまはザラで、今まではそれでもしょうがないと思っていても、IT予算が逼迫(ひっぱく)する現在ではそれも許されなくなっている。そこで、困ったIT担当者が、データベースのライセンス・保守費用削減を期待して、アセスメントを依頼してくる」というのだ。

 斎藤氏によれば、こうしてアセスメントサービスを提供する際、移行に関して必ず言われることが2つある。

 1つは移行によるコスト効果で、「安いのはわかった。でも、何年でペイするのか? すぐに効果が出ないのならやらない」と言われるのだそうだ。しかし、「保守料で年間1億円以上払っているところが多い、と話したが、そうした例でも、移行作業に5000万円、ライセンス費用に2000万円で、初年度から3000万円が浮く、というケースがよくある」(斎藤氏)とのこと。初年度からメリットを出せるので、それまではためらっていた移行に積極的に取り組むという効果が、実際に出ているというのだと説明する。

システムテクノロジーアイでは、競合ベンダーの用語でSQL Serverを説明する取り組みを進めている

 また。よく言われることの2つ目は、「技術者がいない」という点。マイクロソフトでも、これを解決するために、技術者への啓発という面での取り組みを積極的に行っている。

 具体的には、システムテクノロジーアイとの協業によって、セミナー開催回数を増やしたり、顧客への個別のデリバリーを行ったり、とにかくSQL Serverを理解してもらえるように務めているとのことで、その結果、「何だ、既存知識だけで十分じゃないか、ということを、次第に理解してもらえた」(斎藤氏)のだという。

 このような取り組みを継続してきた結果、競合データベース一辺倒だった銀行、通信など、それまでは門前払い同様だった業種でも採用が増加。「ハードウェアの劇的な性能強化の効果とも相まって、コスト削減と性能向上で、大きなメリットを提供できている」と、効果が現れていることを強調する。

 「また、パートナーへのメッセージでも、こうしたことはお伝えしてきたが、受け入れて貰っているとの手応えを感じるようになった。実は、パートナー満足度の中に収益性という項目があるが、ここは3年前まではすごく差を付けられていた部分。しかし、今ではそれが逆転している。SQL Serverが製品として成長する中で、利用したい、というお客さまが増え、パートナーの中でも無視できなくなってきているのは確かだろう」と、斎藤氏は話、今後の展開にも自信を示している。



 今回紹介したように、SQL Serverでは、各面でさまざまな取り組みが進んでいるようだ。次回はSQL Serfer 2008 R2の機能強化の肝でもある、BIに関する取り組みについて取り上げる。

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