Microsoft SQL Serverの進化を見る【第三回】

PowerPivotで進化するBI機能


 マイクロソフトが5月にリリースした最新データベース製品「SQL Server 2008 R2」では、ユーザーのニーズを取り入れ、BI(ビジネスインテリジェンス)において新機能を搭載するなど、重要な機能拡張が行われている。

 三回目となる今回は、SQL Server 2008 R2で強化されたセルフBI(Business Intelligence)機能「Power Pivot」に関して、解説していこう。

 

PDCAサイクルを高速化するセルフBIツール

 SQL Server 2008 R2では、単なるデータベースエンジンだけでなく、BI機能の充実が図られている。

 BI機能は、現在のビジネスにおいては、非常に重要なツールとなっている。データベースに全国の営業所からの販売データが蓄積されていても、そのデータベースをキチンと分析できなければ、ビジネスの現状、ビジネス上の戦略を計画することはできない。しかし、多くの企業においては、データはデータベースに保存はされているが、分析のためのツールが用意されていなかったり、BIツール自体の使い方が特殊だったりして、多くのユーザーが簡単に利用できるモノではなかった。

 これまで、多くのBIツールは、データベースエンジンを開発・販売している企業が提供しているのではなく、他の企業が販売していた。また、同じ企業が販売していたとしても、オプションだったり、別製品だったりすることも多くあった。このため、BIが利用できる環境を構築するには、多大な費用がかかったのだ。

 データベースとBIツールというのは、両方があわさってこそメリットが発揮されるということで、データベースベンダーがBIツールを開発している企業を買収し、自社のデータベースにBI機能を取り込み始めている。

 しかし、多くのBIツールベンダーのソフトウェアは、使い勝手が非常に難しく、営業マンが簡単にBIツールを使いこなすことは難しかった。このため、多くの企業では、専門チームがBIツールを使って、各種のテンプレートを用意するといった状況だった。これでは、メインフレーム上でデータベースが導入され、さまざまなレポートを出すのに、システム部にお願いするというのと違いはない。

 実際、システム部が持つ予算でテンプレートを開発していると、コスト面から、さまざまな部署からのリクエストをすべて満足するテンプレートを提供することができない。また、システム部に依頼をしても、完成まで数カ月かかり、今すぐ見たいという時には、役に立たないといわれていた。

 ビジネスのスピードは、グローバル化、ネット化などにより、どんどん速度を増している。こういったビジネス速度に対応していくためにも、PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを短期間で回していく必要がある。短期間でPDCAサイクルを回すためにも、今すぐ評価が行えるようにするためにも、エンドユーザー自身が簡単に利用できる、セルフBIツールが必要になっている。

マイクロソフトが考えるセルフサービスBIは、エンドユーザーが自分で開発できるBI(TechDaysのセッションより)セルフサービスBIは、SQL Server 2008 R2をバックエンドにして、フロントにはExcel 2010やSharePoint Server 2010を利用する

 

Excelこそが最良のBIツール

PowerPivotというプラグインにより、Excel、SharePointでBIを実現する
分析の画面イメージ

 多くのBIツールベンダーでは、エンドユーザー向けの専用GUIなどを用意して、より多くのユーザーに使ってもらえるBIツールを目指している。しかし、よく考えてみれば、表計算ソフトのExcelは、もっとも多くのユーザーが利用しているツールでありながら、さまざまなデータをグラフ化して、可視化するには最適なソフトだ。また、多く人々が利用していることから分かるように、Excelは、ある程度のPCの知識があれば利用できる。

 そこで、マイクロソフトは、Excelでデータを分類、集計するピボットテーブルの機能を強化し、さらにSQL Serverと連携することで、多くのユーザーが簡単に利用できるBIツール環境を構築できるようにしている。そこで、SQL Server 2008 R2とExcel 2010では、セルフBI機能の強化を行っている。

 この、セルフBIは、どのような場面で必要とされるのだろうか。

 例えば、BIツールとしては、データベースに蓄積されているデータをさまざまな面から、なんども分析し直すことが多い。しかし、IT部門に頼んで分析に必要な多次元キューブを毎回作ってもらっているのでは、非常に効率が悪いし、スピードに欠ける。

 そこで、Excel 2010では、Excelのエンジンを改良して、メモリ上に数百万行を超える膨大なデータを展開できるようにしたほか、その数百万行を瞬時にソーティングなどの操作が行えるようにパフォーマンスを改善。そして、メモリ上で自由に多次元キューブを、ユーザーが自らの手で構築できるようにしたのだ。

 例えば、全国の営業所の販売データをSQL Server 2008 R2から取り込み、営業所別、エリア別のデータを見るとともに、自分の手元にある別のデータとマージして、さらに詳細に分析したい、という場合が考えるられる。

 PowerPivotでは、SQL Server 2008 R2だけをデータソースとしているわけではない。ローカルPCに蓄積されているExcelのシート、テキストファイル、Azure上のデータベースSQL Azure、他社のデータベース(Oracle、DB2 Teradata、Sybase、Informix)などのデータソースを利用することができる。

 マルチなデータソースをサポートすることで、ローカルPCのExcelで編集したデータ、他のデータベースエンジンと接続して引っ張ってきた在庫データ、SQL Server 2008 R2にある営業データと併せて、多次元キューブをユーザーが自らの手で作りだし、Excel 2010で分析することが可能になる。

PowerPivot for Excel 2010は、デスクトップのExcel 2010上でレポートを作成可能だ。これは、Excel 2010で機能強化されたインメモリ分析のおかげSQL Server 2008 R2以外のデータベース、Excelデータなど、さまざまなデータをBIで利用できる
SQL ServerとSQL Azureは、連携できるよう作られているSQL Azureのデータをパワーピボットに取り込むこともできる
スライサーによりさまざまなデータを多角的に分析できる。スライサーは、ユーザーが自由に設定することができるPowerPivot for Excel 2010では、フリーフォームのレポート作成も行える

 このほか、Excel 2010自体で改良されたのが、グラフ化などの可視化の表現力だ。単に、円グラフや棒グラフを作るだけでなく、セル内にグラフを作る機能とでもいうべき「スパークライン」など、Excel 2010では表現力を強化しているが、これをそのままBI環境でも利用できる。

 こうして一度作った多次元キューブは、IT管理者の協力が必要になるが、SharePoint Server 2010を利用すれば、ほかのユーザーが利用することも可能になる。SharePointなどにアップしておき、多くのユーザーが利用したり、改良したりしていくことで、日々のビジネスでデータベースの役割が重要視されてくるだろう。

 また、企業にとって大きなメリットがあるのは、Excel 2010で利用できるSQL Server 2008 R2のPowerPivotプラグインは、無償で提供されていることだ。さらに、SQL Server 2008 R2は、標準で多次元データベースを構築するための機能がそろっているため、SQL Server 2008 R2とExcel 2010さえあれば、オプションのソフトウェアを購入しなくても、BI環境を整えることができる。

 経営層にとっては、追加コストなく、BI環境を整えることができるのは、大きなメリットがある。膨大なコストをかけてBIツールを導入しても、結局エンドユーザーが使いこなせないと費用が無駄になる。SQL Server 2008 R2とExcel 2010の組み合わせなら、通常のITインフラとして必要なモノを買いそろえるだけで、BIツールとしての機能もカバーしている。これなら、低コストでBI機能を試すことができる。

 もし、多くの社員が利用できてメリットが大きいと分かれば、コストをかけて本格的にBI環境の構築に取り組んでもいいだろう。このように、専用BIツールよりも敷居が低いのが、PowerPivotを使ったBI機能の特徴だろう。

 また、PowerPivotは、ビジネス・コラボレーション・プラットフォームであるSharePoint Server 2010用のプラグインも提供されている。

 Excel 2010のPowerPivotを使って作成されたキューブを、より多くの環境で使いたい、というニーズは、もちろんある。そこで開発されたのがPowerPivot for SharePointだ。

 SharePoint Server 2010にPowerPivotを導入すると、PowerPivot Galleryという項目が追加される。PowerPivot GalleryにExcel 2010で作成したシートを発行すれば、Webブラウザを用いて、PowerPivotを使って作成したデータを見ることができる。

 PowerPivot Galleryは、Silverlightを利用して画面表示を行うため、WebブラウザはIE 8だけでなく、Firefox、Chrome、Safari(Mac OS X)などが利用できる。特にMacでも、SQL Server 2008 R2のBI機能が利用できるのは便利だ。

 PowerPivot Galleryは、静的な画面が保存されているのではなく、構築されたロジックが保存されている。このため、データがアップデートされれば、自動的にアップデートされたデータを反映したグラフが表示されることになる。

SharePoint ServerにPowerPivotプラグインを追加することで、ブラウザを使ってExcel 2010で作成したBIデータを見ることができるSharePointを使えば、バックエンドのデータベースと連動して、常に最新のデータを使ってグラフなどの表示ができる

 

Reporting Servicesとレポートビルダー

 SQL Server 2008 R2には、Reporting Servicesが用意されている。これを利用すれば、ユーザーがWebブラウザやExcelなどで見られるレポートを、簡単に作成することが可能だ。また、レポートを簡単に作成できるようにレポートビルダー 3.0というツールが用意された。

 レポートビルダー自体は、以前のSQL Serverにも用意されていた。今回のレポートビルダー 3.0では、マイクロソフトが提供しているインターネット上の地図サービス「Bing Maps for Enterprise」が簡単に利用できるようになった。

 例えば、地図サービスを使えば、日本全国を地図で表示しながら、エリア別に販売データをグラフ化して表示することができる。さらに、エリアをクリックすることで、どんどんドリルダウンして、都道府県別、営業所別などの細かなデータを見ることができる。

 Power Pivotの提供により、SQL Server 2008 R2とExcel 2010を利用したBI機能は、多くのエンドユーザーが利用できるモノになってくる。また、Excel 2010の高度なグラフ化機能を利用すれば、膨大なデータを可視化することができる。

 ここまでくれば、BIツールの使い方を覚えるよりも、どのような分析を行うのか? どのようにデータをドリルダウンするようにして、多くの社員が利用できるBI機能を提供するのかが問題になってくる。これこそが、多くの企業が必要としていることで、どのBIツールを利用するのかということに頭を悩ませなくてもいいだろう。

 今後は、Power Pivotを使ったBIツールをどのように利用していくのかというのが重要になってくるのだ。

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