特別企画
リコーがクラウドとオンプレミスの2TierのERPアプリケーションを選ぶ理由
2017年8月15日 06:00
国内でERPのパッケージアプリケーションの導入が盛んになったのは、2000年頃からだろう。大企業を中心とした多くの企業が、なんらかのERPアプリケーションを導入している。その多くは未だオンプレミスで運用されているだろう。一部、人財管理などのアプリケーションはSaaSを活用する動きもあるが、会計や生産管理などERPの「主流」は、保守的な日本のIT市場ではクラウドへの移行例はまだ少ない。
ところがここ最近、ERPベンダーやクラウドサービスベンダーが、ERPアプリケーションをクラウドで利用するための取り組みに注力し出している。そのような動きの中で、株式会社リコーは第19次中期経営計画の施策の1つとして、新規・成長事業を推進するビジネス基盤に、「Oracle Enterprise Resource Planning(ERP) Cloud」のSaaSを採用すると発表した。
新たな事業創造のためにクラウドを積極的に活用
リコーと言えば、複写機メーカーのイメージがまだ強い。実際、複合機やプリンターなどオフィス向けの画像機器を中心に展開する「画像&ソリューション」は同社の主力ビジネスだ。とはいえ複写機市場は今、かなり厳しい状況にある。紙を活用する複写機のビジネスは、デジタル時代には明らかに縮小傾向にあるのだ。そこでリコーでは新たなビジネス展開が必要と考え、産業向け製品であるサーマルメディア、光学機器、半導体、電装ユニットなどの製造・販売、さらにはデジタルカメラや全天球カメラなどの新しい製品を展開する新規事業や成長期待事業に力を入れている。
当然ながらIT部門にも、デジタル技術を駆使しこれら新しいビジネスへの支援が求められる。「数年前に、今のままならIT部門はいらない。業務要件聞いてそれを実現するだけなら必要ないと言われました」と言うのは、7月26日に都内で開催されたイベント「Oracle Modern Business Experience 2017」で講演を行った、株式会社リコー デジタル推進本部 戦略企画部 部長の東前卓也氏だ。
これまでのIT部門は、経営の効率化のところばかりを行ってきた。今後は、新たな事業創造のためにITを活用できなければならない。それが結果的に、リコーの競争力向上につながる。新たな事業創造のために、最近リコーが積極的に活用しているのがクラウドだ。「今はIaaSからSaaSまで、ソリューションが有効だとなれば利用しています。これらを使うには勘所が大事で、そのためにIT部門は目利き力を付ける必要があります」と東前氏。新しいクラウドのような技術に対し、IT部門は適切な判断が行える選択眼が必要だと指摘する。
もう1つ東前氏が指摘したのが、SaaSを活用するためにはボトムアップ型ではなくトップダウン型でアプローチすべきだと言うこと。アプリケーションを人の使い方に合わせカスタマイズするのではなく、SaaSで提供されている機能に人が合わせる。これは「トップからやらないと駄目です。そうしないと、結局は現場があれをしたいこれをやりたいとなってしまいます」と。現場の要求を1から聞いてしまえば、使えるようになるまでに膨大な手間と時間がかかってしまう。なので「使いながら改善していくような方法が必要になります」と言う。
グローバルレベルで速く安くERPを実現するならクラウド
そんなリコーが、新たなERPアプリケーションとして選んだのが「Oracle ERP Cloud」だった。そしてこれを新規および成長事業領域で活用するために、リコーでは「2Tier ERP」の戦略をとることにした。2Tier ERP戦略とは、手間と時間をかけてカスタマイズした従来のERPと、新しい領域のためにビジネスを迅速に立ち上げることができるERPの2つを使い分けるのだ。
リコーでは、ERPパッケージのOracle E-Business Site(EBS)を自社ビジネスに合うよう手間と時間、コストをかけてカスタマイズしてきた。この仕組みは機器をリースして印刷枚数で課金するような日本独自の複写機ビジネスの仕組みにもしっかりと対応するものとなっている。さらに顧客接点システムとビジネス基盤のシステムを、Oracle EBSの上で統合も行っている。そのためOracle EBSは、今や同社にはなくてはならないものとなっているのだ。
とはいえ前述したようにリコーでは複写機以外のビジネスにも、積極的に進出している。当初は新規ビジネスを立ち上げた際に必要となるITシステムを、Oracle EBSに載せようとしたこともあった。しかしこれにはカスタマイズの手間が必要で、コストもかなりかかってしまう。
リコーが考える新規事業のためのシステムの導入方針は、とにかく速く安く立ち上げること。なのでビジネスの標準テンプレートを準備し、ビジネス部門はそれを選択するだけで使えるようにしたいと考えた。さらにビジネスが駄目なら撤退が容易で、その上で単一プラットフォームに載せることでスケールメリットも出したいと考えたのだ。
これらの要件を満たす仕組みは、SaaSのERPアプリケーションしかなかった。リコーではさまざまなサービスを比較し、最終的にはコストと実現までのスケジュールの面からOracle ERP Cloudを採用する。Oracleのサービスを選んだ他の理由としては、拡張性が高いこと、グローバルレベルで対応できること。そしてリコーの中にOracle EBSを使いこなしてきたノウハウがあり、それをOracle ERP Cloudでも活用できると考えたことだ。その上で、長年培ってきたリコーとOracleとの信頼関係も、ERP Cloud採用の後押しをした。
「コストだけで選べば、他の選択肢もありました。とはいえそれを選ぶと、個別に対応しなければいけないことが多く、さらに海外展開をどうするかなどの手間がかかることも考えられました」(東前氏)。
現在リコーでは、2017年度内(2018年3月)に4つの事業領域でOracle ERP Cloudの導入を進めている。スケジュール的には順調に進んでいるが、実現したいスコープは予定通りではないところもあるという。
その理由はリコー側の見積もりが甘かったところもあれば、Oracle ERP Cloudの機能が足りないところもある。欲しい機能がOracle ERP Cloudの次期バージョンで実装されそうなものもあり、そのあたりは今後どう進めていくべきかをOracleとともに悩んでいるとのことだ。
今後導入が進んでも、Oracle EBSとOracle ERP Cloudという2つのレイヤー間を密なる連携をする考えはないと言う。理由は「事業の特性が異なるので、これらを一緒にするメリットがあまりないからです」と東前氏。とはいえ、事業が異なっても横串でビジネスの数字を可視化できるようにはしていく。
ERP Cloudの機能が違うと感じるなら、それは自分たちのやり方が間違っている
現在は、新規ビジネスの業務部門の担当者も一緒になりワークショップを開催し、用意されているテンプレートの質問事項に答え、それを元にOracle ERP Cloudのセットアップを実施している。ここまでの段階で、ビジネス部門の要求とOracle ERP Cloudの機能の間に大きなギャップは生まれていない。業務部門側も速く実現したい思いが強いこと、さらに「昔のOracle EBSと違ってOracle ERP Cloudは機能も豊富で、利用者側でもパッケージアプリケーションを使うのになれている」ことなどが、ギャップが生まれていない理由だろうと東前氏は言う。
「世の中で利用したいであろう機能がOracle ERP Cloudには入ってきています。それらと違うと言うことは、リコーのやり方が違うのではとの仮説で導入を進めています。昔はそんなやり方はできませんでしたが、今はそれが可能です」(東前氏)。
ERPの領域をクラウドでとの取り組みは、リコーが国内では先行しているだろう。ここについては、日本は欧米よりも4、5年遅れているとの見解もある。とはいえ、ERPもクラウドが「使える」という認識が出てくれば、一気に普及が進むのも日本のIT市場の特性だ。4、5年の遅れは1、2年もあれば一気に取り戻せる可能性が高そうだ。
「ERP Cloudの機能面はどんどん充実しています。セキュリティやコンプライアンスの懸念もあるかもしれませんが、クラウド活用の事例も増えそういう抵抗感はどんどんなくなっています。とにかく速くやりたいというニーズがあるならば、躊躇せずERPもクラウドを選択するべきです」と、東前氏はアドバイスする。そして、多くの企業がクラウドを選択することでERP Cloudを取り巻く状況に勢いが出てくれば、サービスはさらに良いものになる。そのためにも「皆さんで一緒にERP Cloudを盛り上げて行ければ」ともいう。