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ITは中小企業のワークスタイルをどう変革するか? 「ITマネジメント・コンファレンス」が開催
第一交通産業・インテル・Sansan担当者らが講演
(2015/11/16 12:31)
株式会社インプレスは11日、東京 虎ノ門ヒルズフォーラムで「ITマネジメント・コンファレンス」を開催した。中堅・中小企業を対象に、IT活用のヒントを得られるよう企画されたもので、今回が初めての開催となる。
コンファレンスでは、第一交通産業、インテル、Sansan、ウォッチガード・テクノロジー・ジャパン、Mipoxの担当者が登壇し、自社のIT活用事例やソリューション、昨今のITのトレンドなどについて講演した。
第一交通産業がオープンソース活用で得た技術力の向上
コンファレンスの基調講演では、第一交通産業株式会社 社長付次長の小田典史氏が登壇。「企業にとってのIT化の意義とは?」と題して、同社のオープンソース活用について語った。
1960年にタクシー5台で創業した同社は、その後、タクシー事業を核として、バス事業や不動産事業、介護事業、金融事業など、事業領域を拡大。積極的なM&Aにより、現在では33都道府県で208社を抱える企業グループへと成長している。その企業グループを支えるシステム部門では、小田氏が電算室に配属されて以降、「徹底的にオープンソースを活用している」という。
小田氏は、オープンソース活用のメリットとして、無償で使えること、デモをすぐに作れることのほか、ITにかかる設備投資をM&Aなどのほかの投資に回せることなどを挙げる。その結果、同社のIT投資は売上対比で約0.1%という低水準を推移しているが、小田氏は「もっと削減できる」と話す。
一方、オープンソースを利用するマイナス面としては、とにかく時間がかかること、英語力が必要になることなどがあるという。しかし、オープンソースの活用によって、「部下たちの具現力が向上し、プロセスの整理もできるようになった」という成果も出ていると語る。
同社では、オープンソースを活用して、全国の営業所のネットワークシステムを構築。これにより、ネットワーク上のどこにいても給与計算や請求書発行を行えるようになり、結果として年間で通信費が6000万円、ライセンス費用が1000万円、計7000万円の削減に成功したという。さらに、地震や台風といった災害時に各地の影響をチェックする際にも、ネットワークシステムが活用できているとする。
小田氏は、「(オープンソース活用の)第1段階はひと通り終わった。これからは、オープンソースに拡張を加えていき、今までは内部で運用していたものを外部に出していきたい」と語った。そして、「新旧事業に投資できるように、できるだけITコストを抑え、自分たちで仕組みを作っていくことが、われわれの目指すべきIT化の意義だ」と講演を締めくくった。
小さな改善が大きな違いを生み出す
続いて、インテル株式会社 セールスチャネル事業本部チャネル戦略室 室長の小澤剛氏が登壇。「進化する仕事術」と題して、ワークスタイルの変革について講演を行った。
小澤氏は「ITはビジネス効率化のためのツールから、ビジネス戦略そのものになっており、IT化が格差を拡大している」と指摘。そして、企業が競争力を強化するためには、ワークスタイルを見直す必要があるとした。どのようにワークスタイルを見直すかについては、まずは小さな改善からで良いとし、「それが“バタフライ効果”として、大きな違いを生み出す」と語った。
その小さな改善の例として、小澤氏が取り上げるのがプロセッサだ。インテルの最新プロセッサ「Skylake」は、5年前のパソコンに搭載されているプロセッサと比べ、処理性能は2.5倍、バッテリー駆動時間は3倍に向上。これまで10分かかっていた処理が5分以下でできるようになり、ケーブルを持ち歩いたり、電源を探す必要がなくなることも業務効率の改善のひとつになるとした。
小澤氏は、そうした最新テクノロジーによる業務効率の改善が「アイデアを生み、ビジネスを発展させて、ひいては日本の活性化につながる」とまとめた。
名刺は営業活動のベースとなる会社の資産
次に登壇したSansan株式会社 Sansan事業部 シニア エヴァンジェリストの松尾佳亮氏は、「既に3,000社以上が始める“営業戦略”とは?」と題して、同社の名刺管理サービスについて講演を行った。
松尾氏は「組織の生産性向上に必要なのはイノベーション」だとし、黒電話がスマートフォンに、スケジュール帳がオンラインカレンダーにと、イノベーションによってビジネスツールが変遷したことを紹介。しかし、名刺だけが昔から唯一変わっていないとして、「そこに生産性向上のヒントが潜んでいる」と語った。
名刺には、見込み顧客の情報という側面に加え、誰がどこで名刺交換したかという接点情報の側面もあり、「営業活動のベースとなる企業の資産である」と松尾氏。同社の名刺管理サービス「Sansan」は、「名刺を企業の資産に変えるビジネスインフラ」だとした。
松尾氏は、Sansanの特長として、スキャンした名刺をオペレーターが人力で入力していることによる精度の高さと、名刺ではなく人物を中心とするデータベースとなっていることを挙げる。これにより、1人の人物の名刺が複数ある場合でも、顧客情報を1本化して、データを正確に管理できるという。
Sansanは現在、法人向けに営業している企業を中心に、業種、規模を問わず、3,000社以上が導入している。松尾氏は「名刺を会社で管理するのは、今や当たり前。名刺管理によって、生産性を向上し、営業強化を実現できる」とした。
中小企業を狙うサイバー攻撃にどう対策すべきか?
ウォッチガード・テクノロジー・ジャパン株式会社 CTOのコーリー・ナクライナー氏は、「善は急げ!すべての企業に求められるサイバー攻撃対策とは」と題して、中堅・中小企業のセキュリティ対策について講演した。
ナクライナー氏は「セキュリティの脅威がニュースにならない日はない」と語り、企業に対するサイバー攻撃の脅威がグローバルで高まっていることを指摘。企業へのサイバー攻撃が2014年には全世界で4200万件に上ったことを紹介しつつ、「あくまで、これは企業側で検知できた数。実際には、もっと多くの脅威が存在している」と警鐘を鳴らす。
また、昨今のサイバー攻撃のトレンドとして、「攻撃の質が洗練されてきている」とし、攻撃が複合型になっていると解説。複合型の攻撃とは、例えば、Eメールのリンクをクリックすると、悪意のあるWebサイトにアクセスしてマルウェアをインストールしてしまい、さらに、その感染したパソコンが次の攻撃に利用されるといったケースを指す。
さらに、ナクライナー氏は、中小企業のサイバー攻撃の被害が深刻になっていると述べ、その理由として、中小企業はセキュリティがぜい弱で、大企業への攻撃の踏み台としても悪用されるからだと指摘する。「大企業のセキュリティ事案が注目されがちだが、その発端は中小企業である」という。
複合型攻撃に対しては、多層防御が有効であるとし、ナクライナー氏は同社の中小企業向けUTMアプライアンス「Firebox Mシリーズ」を紹介。同製品は管理が簡単で、10名から750名までの人数をカバーでき、脅威に対策しつつパフォーマンスも重視。「(UTMを使えば)小規模の企業でも、エンタープライズレベルの対策を講じて、安心して安全に攻撃に対処できる」とまとめた。
Mipoxが挑戦したSalesforce導入による業務改善
コンファレンスの最後には、Mipox株式会社 取締役営業本部長の上谷宗久氏が、株式会社セールスフォース・ドットコム コマーシャル営業本部 執行役員の千葉弘崇氏と共に登壇。「導入企業が語る収益アップの真実」と題し、クラウド型の企業向け業務ソフトウェア「Salesforce」のMipoxにおける導入事例について語った。
1925年に創業したMipoxは、塗る・切る・磨くをベースの技術として、研磨フィルムなどの製品事業と受託事業を展開。ピーク時には売上が年間100億円に達していたが、その後、売上は年間約30億円までに低迷。上谷氏は「高いシェアにおごりがあった。偶然を必然にできず、仕組みがなかったため、年間100億の売上を再現することができなかった」と、当時の問題点を挙げる。
同社では、その問題解決のためにSalesforceを導入。社長から一般社員までのすべての活動、業務の内容、進ちょく、貢献度といったあらゆるものを可視化したという。具体的には、営業部門では見込み顧客との接触、商談の回数をSalesforceで管理することにより、営業活動を数値化。また、海外の販売代理店を含めたグループチャットでコミュニケーションを可視化したほか、社員との面談内容なども入力することで人事データとしても活用できているとする。
それらの結果、Salesforceの導入以降、4期連続で増収増益となり、年間の売上は42億円まで回復。さらに、Salesforceの効果だけではないとしながらも、売上比の経常利益率は以前よりも改善しているという。また、「バーチャルなオープンコミュニケーションにより、リアルのコミュニケーションも増え、皆が仲良くなった」という効果もあったと話す。
続いて、セールスフォース・ドットコムの千葉氏からの質問に答える形で、製造部門におけるSalesforceの活用事例について、上谷氏は「エンジニアがチャットに書き込んだアイデアから、実際に製品化したものもある」と紹介。さらに、製造における“秘伝のレシピ”もSalesforceで管理しているとし、「(機密情報の管理には)アクセス権限の設定が重要になるが、Salesforceであれば、それができる」と語った。
当初、上谷氏自身は「情報漏えいを懸念して、情報共有にネガティブなイメージを持っていた」という。しかし、技術の変化スピードは速いため、「ある程度、情報を共有し、オープンにしていかないと、会社として方向性が合わないし、スピードアップができない」とし、「Salesforceを使ってみて、考え方が変わった」と述べた。