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重点施策はポコ(POCO)! 杉原社長が掲げる、日本オラクルの2016年度事業戦略

 「2016年度の重点施策はポコ(POCO)」――。

 日本オラクルは、2015年6月からスタートした同社2016年度の事業戦略を発表した。同社・杉原博茂社長兼CEOは、「2016年度においては、POCOが最重点施策になる。クラウドといえば、オラクルと認知される会社を目指す」と、2020年をゴールに掲げてきた「クラウドナンバーワン」に向けて、事業体制の強化を図る考えを示した。

 POCOは、「The Power of Cloud By Oracle」の頭文字を取ったもので、同社がクラウドビジネスに力を注ぐ姿勢を示すために、杉原社長自らが考案。米本社のマーク・ハードCEOの承認を得て、公式なメッセージとして活用するものだ。

 これまでにも、ハートマークとともにクラウドのメッセージを打ち出すなど、ユニークな手を打ってきた杉原社長だが、2016年度の重点施策の名称にも、その手法を活用することになる。

 「私がポコというと、多くの人がニコっとする」というように、杉原社長ならではの発想で生まれたメッセージだ。

日本オラクル 取締役代表執行役社長兼CEOの杉原博茂氏
“POCO”を発表する杉原社長

4つの課題に取り組み、POCOを推進

 だが、その一方で、当然のことながら、具体的な方針は真剣そのものだ。

 POCOの推進においては、「SaaS/PaaS/IaaS事業の拡大」、「システム事業の拡大」、「エンタープライズ営業の強化」、「地域ビジネス成長に向けた支社体制の再編と拡充」の4つの課題に取り組む姿勢を明確に示した。

POCOにおける、4つの最重点施策

 「SaaS/PaaS/IaaS事業の拡大」においては、「Oracle Marketing Cloud」、「Oracle HCM Cloud」、「Oracle ERP CloudおよびOracle EPM Cloud」、「Oracle Service Cloud」、「Oracle Sales Cloud」の5つのSaaS事業ごとにソリューション別専任組織を新設。さらに、PaaS事業を担当する専任組織としてPaaS事業推進室も設置する。

 また、営業、サポート担当者を増員することで、オラクルダイレクトによる営業体制を強化。クラウドビジネスの成長に向けて、200人規模の人材を新たに採用するという。ここでは、中堅企業向けのクラウドサービスの提供を強化。「いままで以上に多くのお客さまに直接アプローチすることで、お客さまとの距離を縮め、企業の業務部門でも、迅速にOracle Cloudを使ってもらえるようにする」という。さらに、日本国内へのデータセンターの開設に取り組むこともあらためて表明した。

 「システム事業の拡大」に関しては、堅調なエンジニアド・システムズの拡販とともに、ストレージ事業を強化。EXAやZFSの組み合わせ提案や、ソフトウェアとハードウェアの組織融合などを図る。

 また、「エンタープライズ営業の強化」では、お客さま視点に立った直販営業力の強化、顧客の海外事業の展開と成長の支援に取り組むほか、グローバル事業戦略室の新設も行う。

 さらに、「地域ビジネス成長に向けた支社体制の再編と拡充」については、中部支社を、東海支社と北陸支社に再編するほか、西日本支社を関西支社と中国・四国支社に再編。全国を7支社の体制でカバーするという。

 杉原社長は、「クラウドサービスが広がるなかで、ミッションクリティカルなサービスやシステムを誰が担保するのか。クラウドサービスを、どこまでミッションクリティカルに使えるのか、といったことにも、オラクルは真剣に取り組んでいく。POCOの活動を通じて、オラクルが提供するクラウドとはこういうものである、ということを提案したい」とした。

 また、「グローバルに展開する日本の企業に対するサービスレベルを引き上げていきたい。また、日本全国のGDP分布と比較すると、日本オラクルは、首都圏の売り上げ構成比が高く、地域展開には課題がある。今後、POCOを推進していくことで地域格差はなくなっていくだろう」と述べ、地域ビジネスの成長に向けた支社体制の拡充を図る考えを示している。

 同社では、POCOを具現化するために、業務部門の方にも直感的でわかりやすく、簡単に、迅速に導入することができ、効果的に活用してもらえるような事前設定済みのクラウドを、各注力製品の簡易パッケージとして用意。これにより、IT技術者やIT組織を保有しない年商100億円以上の中堅規模企業や大手企業の部門単位にまでOracle Cloudの営業範囲を拡大するとした。

第2創業期を迎える日本オラクル、クラウドビジネスを主体とした企業体質へ

 さらに杉原社長は、「日本オラクルは、今年10月に設立30周年を迎えることになる。それにあわせて、第2創業期を迎える。創業者であるラリー・エリソンや、CEOのマーク・ハードからは、日本オラクルをまったく新しいものへと作り替えてほしいといわれた」とし、クラウドビジネスを主体とした企業体質への転換に力を注ぐ姿勢をあらためて強調した。

 そのほかOracleは、研究開発投資に売上高の13%を投資し、過去5年間に6つのSPRACプロセッサをリリース。今年は、新たなSPARCプロセッサとして、M7を投入することにも言及し、「M7はソフトウェアから生まれた究極のプロセッサであり、クラウド時代に必要とされるパフォーマンス、セキュリティ、キャパシティを実現するために、革命的ともいえる進化を遂げたプロセッサになる」などとした。

 さらに、クラウドストレージサービスにおいては、GBあたりの単価でOracleが最安値であること、145カ国以上でOracleのクラウドサービスを利用できる体制が整備されていることにも触れた。

SPARCでは、5年間で6つのプロセッサをリリースした
クラウドストレージではOracleが最安値だという

 なお、日本オラクルの2015年度業績は、売上高が1610億円、営業利益は470億円、純利益が302億円。「2015年度は売上高、利益ともに成長し、わずかではあるが、コミットした数字を上回ることができた。データベースでは49.9%の国内シェアを獲得し、コアコンピタンスの事業も拡大させることができた」などと総括している。

顧客3社が登壇、パネル形式で

 一方、事業説明会では、杉原社長がモデレータとなり、サッポロビール、ティージー情報ネットワーク、リクルートライフスタイルの3社が登壇し、クラウド・カスタマー・パネルディスカッションを行った。会見のなかでパネルディスカッションが盛り込まれるのは珍しいことで、杉原社長も「初めての試み。記者の反応が冷ややかで、へんな緊張感がある」と笑いながら、モデレータを務めた。

 サッポロビール 営業本部営業戦略部デジタルマーケティング室・工藤光孝室長は、「Oracle Social CloudとMarketing Cloudを導入しており、お客さまの深い理解を得るためのマーケティングを実現している。クラウドを活用することで、時間短縮、コスト削減のメリットがある。日本オラクルには、クラウドサービスで提供されるさまざまな機能を使い切り、それよって効果を出すことを支援してほしい」とコメント。

 ティージー情報ネットワーク 基盤戦略推進部アプリ基盤グループ マネージャーの上田志雄氏は、「Java Cloud、Database Cloudを導入しており、コスト面でのメリットを感じている。だが、オラクルのサービスはまだ洗練されていないところがある。日本独自の商習慣にも対応し、日本のなかで使いやすいクラウドサービスに発展することを期待している」と述べた。

サッポロビール 営業本部営業戦略部デジタルマーケティング室室長の工藤光孝氏
ティージー情報ネットワーク 基盤戦略推進部アプリ基盤グループ マネージャーの上田志雄氏

 また、リクルートライフスタイル 企画統括室CS推進部部長・真島博氏は、「現在、Oracle Service Cloudを活用しており、じゃらんやHotPepperなどのサービスを利用する顧客への対応に活用している。情報共有や商品サイクルのスピードにも対応できるものとなっている点を評価している」などと述べた。

 杉原社長は、「オラクルのクラウドサービスを利用しているユーザーの方々に参加していただく形で、POCOクラブを作り、そこで意見を聞きたい」とした。

リクルートライフスタイル 企画統括室CS推進部部長の真島博氏
パネルディスカッションの様子

日本オラクルの役員全員がコメント

 一方で、会見では、日本オラクルの役員全員が登壇。ひとことずつ挨拶した。以下に、そのコメントを紹介する。

全役員が登壇して、ひとことずつコメントした
日本オラクルの副社長執行役員 アライアンス事業統括の椎木茂氏

「1人でも、1社でも、日本オラクルのファンを増やしたい」

副社長執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括の三澤智光氏は

「今年はPaaSを一気に立ち上げたい」

専務執行役員 エンタープライズ第一営業統括の三露正樹氏

「主要顧客のすべてに向けてクラウドサービスを提供する。絶対に倒れてはいけないシステムや、絶対に外に出してはいけないデータをきっちりと守る」

専務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括兼エンタープライズ第二営業統括の下垣典弘氏

「15兆円のIT業界において新たな産業革命が起こっている。そのなかで、POCOによりSaaSを立ち上げていく」

常務執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 公共営業統括本部長の白石昌樹氏

「霞ヶ関でもガバメントクラウドが推進されており、そこにPOCOが役立つように頑張る」

常務執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/EPMクラウド統括本部長の桐生卓氏

「SaaSとPaaSをインテグレートして、『POCOる』のが私のミッションになる」

執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 クラウド&テクノロジー製品戦略統括本部長兼クラウド・システム事業統括 ソリューション・プロダクト統括本部長の山本恭典氏

「データベース、ハードウェア、PaaS、BIを担当しており、この分野において、無分別知のテクノロジーでリードする」

執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 金融営業統括本部長の藤田弥門氏

「日本の金融市場は元気だが、グローバルでは大きな波が押し寄せている。日本の金融機関に役立ちたい」

執行役員 クラウド・システム事業統括の飯島淳一氏

「クラウドの価値を、高いサービスレベルによって提供する。クラウド基盤をしっかりと支えたい」

執行役員 クラウド・アプリケーション事業統括 サービスクラウド統括本部長の多田直哉氏

「Service Cloudは、大きな勢いで伸長している。今年度は、これまでの顧客ベースを礎にして、POCOを通じて、さらに邁進したい」

執行役員 クラウド事業戦略室長の高橋正登氏

「プロダクトを提供することよりも、顧客にとって、なにがうれしいことなのか、ビジネスにとっていいことがあったのか、といったことが大切である。それを届けていきたい」

執行役員 クラウド・テクノロジー事業統括 Fusion Middleware事業統括本部長の本多充氏

「これほど大きな変革はない時代に入っている。そのなかでIaaS、PaaSを提供していくことになる」

クラウド・アプリケーション事業統括 HCMクラウド統括本部 統括本部長の首藤聡一郎氏

「日本でも人は石垣、人は城といわれるが、ヒト、モノ、カネのなかで感情を持っているのはヒトだけ。企業において、人材を生かしていく数々の事例が出ている。心に響く提案をしていきたい」

クラウド・テクノロジー事業統括 PaaS事業推進室室長の竹爪慎治氏

「新規事業を立ち上げてきた経験を生かし、クラウドをお客さまにしっかりと届けていくPOCOモデルを立ち上げたい」

マーケティング本部本部長の奥村圭悟氏

「POCOのメッセージを通じて、クラウド型マーケティングへとシフトし、われわれ自身がそれを実践していく」

 なお杉原社長は、最後に「敷居が高いITを提供していては駄目だ。ユーザーによって、ためになる、よかったね、といわれるITを提供する」と語っている。

大河原 克行