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富士通研究所、物理サーバーをオンデマンドで提供するIaaS基盤技術を開発

 株式会社富士通研究所は4日、利用者のニーズにあわせた物理サーバーをオンデマンドで提供する物理IaaS基盤技術を、世界で初めて開発したと発表した。

 同社が2010年から開発をはじめた「資源プール化アーキテクチャ」をベースに、オンデマンドで提供できる物理サーバーを構成。利用者のニーズにあわせた構成を約10分で構築することが可能になるという。

 富士通研究所 ICTシステム研究所の堀江健志所長は、「7月から社内を中心にした実証実験を開始し、来年度以降の実用化を目指していく。従来の物理サーバーに比べて、効率的な物理サーバー運用が可能になることから、構築・運用コストで約半分のTCO削減を目標にしたい」としている。

柔軟性の高いシステム環境を実現する「資源プール化アーキテクチャ」

 昨今では仮想サーバーの活用が注目を集めているが、仮想サーバーを利用した仮想IaaSでは、複数のユーザーが単一の物理サーバーを利用する仕組み上、使用状況によっては性能の低下やばらつきが発生するという課題がある。そのため、高性能や安定性が求められ、一定時間内での処理が前提となるバッチ処理やシミュレーションでの活用、あるいは仮想化技術の開発環境などでは、物理サーバーを共有しない物理IaaSが必要とされる。

 しかし従来の物理IaaSでは、サーバーの設置から、どれだけのCPU、メモリ、HDDを利用するかといったオプション構成を手動で設定する必要があり、利用の申し込みから提供までに数日から1週間程度を要するという課題があった。

仮想環境では対応できない用途において、物理IaaSが必要とされる
しかし、利用者のニーズにあわせた構成を素早く提供することができなかった

 そこで富士通研究所では、2010年から、ICT資源プール化アーキテクチャの開発に着手した。この技術では、「サーバー、ネットワーク、ストレージなどの既存の枠組みを壊して、資源をCPUやメモリ、ディスクなどの部品レベルに分解。それぞれにプール化された部品を高速インターコネクトで接続している。これにより、アプリケーション負荷に応じた形で、ハードウェアリソースを柔軟に構築、変更することができる」(堀江所長)とする。

資源プール化アーキテクチャの概要
富士通研究所 ICTシステム研究所の堀江健志所長

 具体的には、ローカルディスクと同じアクセス性能を持ち、CPU間での通信時の性能干渉がない「ディスクエリアネットワーク」、ビッグデータにも対応する「高密度ストレージ」、サーバーをオンデマンドに構築する「プール管理機構」、RAIDやストレージ機能を提供する「ストレージミドルウェア」の4つの技術によって実現。2011年9月には、16台のサーバー、64台のHDDおよびSSDを接続した試作機を開発するとともに、2012年8月にはこの技術を応用し、分散ストレージの障害復旧の高速化などを目的とした実証システムを構築し、評価を行ってきた。

 「構築の柔軟性とともに、部品を直接高速インターコネクトで接続することからI/O性能は4倍に向上。またストレージをノード単位での管理から部品単位の管理へと粒度を小さくできることからストレージの使用電力を3分の1に制御。利用率の向上によって無駄な資源を40%削減できること、部品単位でスペアを用意しているため、保守回数も64分の1へと大幅に減少するといった実績が得られた。実用化段階では、TCOで約半分の削減が可能になり、物理IaaSの可能性を広げることになる」(堀江所長)としている。

資源プール化アーキテクチャの試作機
4つの技術を中心に実現している

利用者が定義した物理システムを動的に構成するIaaS基盤技術

 今回発表したIaaS基盤技術は、これまでの取り組みを一歩進めるもので、資源プールのリソースを利用して、利用者が定義した物理システムを動的に構成し、オンデマンド提供することが可能になる。

 「手作業でのサーバー設置、構成変更作業が不要であることから、これまで数日を要していたハードウェア構成時間を、約10分へと大幅に短縮することができる。またホットプラグのように、稼働中の物理サーバーに対してディスクの構成変更が可能であり、仮想IaaSの手軽さを物理IaaSで実現するものになる」(富士通研究所 ICTシステム研究所 システムプラットフォーム研究部の三吉貴史主任研究員)という。

 利用者がシステムをシャットダウンすると、利用者のデータを保存した上で、リソースは資源プールへ返却される仕組み。こうして返却されたサーバーリソースも再利用できることから、例えば、別々の利用者が昼と夜にバッチ処理を行うといった用途も想定しており、ハードウェアリソースの利用率向上、データセンターの効率運用などが見込まれる。

従来は数日かかっていた物理IaaSのプロビジョニングを10分で行えるように
返却されたリソースは再利用できるので、インフラの利用効率を向上できる点も強み

 なお資源プールの管理は、富士通の管理ソフトウェア「FUJITSU Software ServerView Resource Orchestrator」に新たな機能を追加して行う。「実用化段階では、ハードウェアの提供とあわせて、FUJITSU Software ServerView Resource Orchestratorに新機能として追加し、提供することになる」(富士通研究所 システムソフトウェア研究所の湯原雅信シニアディレクター)としている。

 「ポータルログイン画面から、利用者によるシステム作成、物理サーバーの作成、リソース割り当て、構成変更を、簡単な操作で行うことができる。また物理サーバーへのオンデマンドでのディスク追加も容易に行える。クライアントの電源を入れればすぐに使用できるといった自動化も実現している」(富士通研究所ICTシステム研究所システムプラットフォーム研究部・岩松昇氏)という。

FUJITSU Software ServerView Resource Orchestratorに、資源プールの管理を行える機能を追加
機能追加されたFUJITSU Software ServerView Resource Orchestratorの画面

 今回は、開発した物理IaaS基盤を用いて、サーバー48台、HDDが256台、SSDが256台の検証システムを富士通研究所内に設置し、社内トライアルを開始する。理論的には、サーバー台数を最大で3倍規模に拡大することも可能だという。

 富士通研究所では、「一部には社内での試験利用も行い、われわれが想定していないような用途まで含めて検証したいと考えている。今後3カ月間で課題抽出を行い、下期には定量データをもとにした検証結果を導き出したい。機能や性能を検証し、クラウドサービスの高度化に向けたさらなる研究開発を進め、2014年度以降の実用化を目指す」(富士通研究所ICTシステム研究所・堀江健志所長)としている。

今回構築された物理IaaSシステム

大河原 克行