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インテル、「オープン・クラウド・ビジョン」への活動成果を報告

オブジェクトストレージやSDNにおける協業など紹介

インテル クラウド・コンピューティング事業本部の田口栄治氏

 インテル株式会社は22日、2012年10月に発表したクラウドコンピューティングに向けた新ビジョン「オープン・クラウド・ビジョン」に関して、その実現への活動成果を紹介する記者会見を開催した。

 2015年までにネットワークに接続する人口は30億人、デバイスは150億台に増え、2年ごとに情報量は2倍に増加、2015年までにモバイルデータのトラフィックは11倍に増えると予測されている。これに伴い、コンピューティング需要の劇的な増大が見込まれており、いわゆる“ビッグデータ”に対応するためにクラウドプラットフォームの進化が求められている――インテルの新ビジョンはそうした背景の下に定められたもので、「自動化されたセキュリティ」「統合リソース・オーケストレーション」「拡張可能なリソース・プール」を高度なレベルで融合することを目的としている。

 このうち「拡張可能なリソース・プール」については「高効率・セキュア・高拡張性のサーバー」「拡張性に富んだ分散ストレージ」「プログラム可能なSDN」といった分野で取り組んでいる。

 登壇したインテル クラウド・コンピューティング事業本部の田口栄治氏は「サーバーはさらに高度なセキュリティ、仮想化、エネルギー管理制御機能を備え、負荷特性に特化したプラットフォームになる。そのためにインテルとしてはCPUをさらにブラッシュアップしていくほか、データセンターではラックの最適化が進んでいて、今後さらに負荷が大きくなった場合にどうしたらよいかという検証も進んでいる。これまでのようにラックの中にサーバーを積んでいくだけでなく、システム全体をファブリックとして効率的に管理する、将来的にはすべてのリソースが自由になり、まるで仮想システムのようにハードウェアを柔軟に構成できるようになる」と説明。

分散ストレージサービスの提供を目指すさくらインターネット

さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏

 また「拡張性に富んだ分散ストレージ」について、「SAN/NASだけでなくより効率的な拡張型クラウド・ストレージに注目が集まっている。いかに安価に大量のデータを格納するか、そのためにストレージプールを全体的に管理する技術や、そうした技術に見合うハードウェアの最適化も進んでいる」(田口氏)と説明。活動成果の具体例として、さくらインターネットとの協業を紹介した。

 さくらインターネットは、都市型データセンターに加え、石狩などに郊外型データセンターの建設も進め、顧客数34万件、総ラック数2500基を有するデータセンター事業者だ。インテルとはサーバー基盤における取引先であるとともに、数年前からインテルとさくらインターネット研究所においてさまざまな技術情報交換を行うパートナーでもある。

 2012年には、インテルからAmplidataの分散ストレージシステム「AmpliStor」の紹介を受け、以後、インテルとともにエンタープライズクラスの分散ストレージシステムの実現に向け、共同研究を行ってきた。

 さくらインターネット 代表取締役社長の田中邦裕氏は「分散ストレージについては、自社利用による当社データの活用と分散ストレージサービスの提供の両軸で検証を進めている。特にサービス化については、Amazon EC2相当のサービスしかなかった当社にとって、Amazon S3相当のサービスを用意する必要があった。そのためにさまざまな分散ストレージを検証してきたが、例えば、複数台のサーバーにストレージを分散するといったサービス構成を実現しようとすると、全体のストレージ容量がどうしても大きくなってしまう。それを解決するAmplidataをこの1年検証してきた」と説明。

 同社では現在、アクセスログが1TB/日のペースで生成されているという。これまではこの膨大な生ログをすべて保持することができず、半年くらいで破棄していた。「しかしストレージ容量が増え、コンピューティングパワーが増えると生ログをすべて残すことも可能になる。現在は、ずっと生ログを残し、ずっと解析できる環境をいかに構築するかに着目している。以前であればそんなことをするためにはスパコンが必要だったが、現在はコモディティサーバーで十分になってきている」(田中氏)。

 同社は、石狩データセンターにオブジェクトストレージであるAmplidataによる分散クラウドストレージ環境に、頻繁に更新する必要がない代わりに膨大な容量を必要とするこうしたデータを保管し、顧客へのサービス品質向上に役立てる考えだ。

 「現状、顧客ごとに転送量が多い顧客、サーバープロセッシングが多い顧客などさまざまな形態でサービスが利用されているが、すべての生ログからより深い分析を行うことで、顧客ごとに最適なサーバー環境を提供できるようになる」(田中氏)。

 また、Amazon S3相当の分散ストレージサービスも「この秋からβ版として提供を始める」(田中氏)としている。

NTTデータと進めるSDNの取り組み

 続いて田口氏は「プログラム可能なSDN」に関する活動成果を紹介。2013年4月17日付けで米IntelがSDN製品のリファレンスモデル「Open Networking Platform(ONP)」を発表したことに触れた。

 また、SDN活用支援に向けた日本での活動として、NTTデータとの取り組みを紹介。NTTデータでは、ソフトウェアによるネットワーク制御技術「OpenFlow」を簡易に導入できる「バーチャルネットワークコントローラ(VNC) 2.0」を2013年2月より販売している。このNTTデータと「ONPとVNC 2.0によるSDNソリューションを共同開発中。OpenFlowコミュニティでの標準化、検証、改善について協業している」(田口氏)と説明した。

「インテル・データセンター・マネジャー」エコシステムの広がり

富士通「Modular Data Center」でのDCM活用例

 続いて「統合リソース・オーケストレーション」に関しても紹介。インテルでは、電力・温度のリアルタイム監視やポリシーベースの電力キャッピングなどを行う「インテル・データセンター・マネジャー(DCM)」を提供しているが、その活用事例として、富士通のコンテナ型データセンター「Modular Data Center」を紹介した。

 Modular Data CenterではDCMを使用して、サーバーの消費電力/吸気温度、PDU/UPSの消費電力をモニタリングし、グループ単位のパワーキャッピングを行っている。具体的には、ラック単位のグループで、DCMのポリシー制御に消費電力上限値を指定し、パワーキャッピングを実行。外気冷却で対応可能な上限値を超えないようにすることで、サーバーの搭載可能数を拡大。最大消費電力から搭載サーバー数を算出するよりも、実際の状況に応じて算出することで、ラックあたり10台ほど多く搭載できるようにしている。

 「こうしたDCMの国内エコシステムが広がってきている。富士通のほかにも、日本ノーベルが5月よりサーバーラック管理システム『UnitPORTER.Navi』を提供しているほか、ニスコムもDCMをベースとしたサービスを今秋リリースする予定となっている」(田口氏)。

ビッグデータ時代のインテルの役割

ビッグデータ時代のインテルの役割

 このほか、Hadoopへの取り組みとして、オープンソースコミュニティへの貢献、ディストリビューションのXeonプロセッサへの最適化などを紹介した田口氏は、ビッグデータ時代のインテルの役割を説明。「エッジデバイスのインテリジェント化」「より高速で効率の良いCPU、ストレージ、I/O、ネットワークアーキテクチャによるビッグデータ分析の加速」「ソフトウェアスタックの最適化」「ビッグデータ向けアプリケーションの革新」「ビッグデータ活用に向けてのパートナーとの協業」「活用事例や導入支援リファレンスアーキテクチャの確立」「学術団体などとの協業や研究活動」などを進めていくとした。

(川島 弘之)