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日本IBM、名古屋で「IBM リーダーズ・フォーラム」を開催~経営革新や地域活性化をテーマに

昨年に続き、2回目の開催となるIBM リーダーズ・フォーラム 2013 Spring 中部

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は8日、名古屋市西区のウェスティンナゴヤキャッスルにおいて、「IBM リーダーズ・フォーラム 2013 Spring 中部」を開催した。

 IBM リーダーズ・フォーラムは昨年秋にも開催しており、今回で2回目。今回も、同社が支社を設置している西日本(福岡)、関西(大阪)、中部(名古屋)、東北(仙台)の各地域でそれぞれ開催しており、4月24日での福岡での開催に続き、名古屋は2カ所目。5月10日には大阪、5月14日には仙台での開催が予定されている。

 2012年秋に開催した第1回のフォーラムでは、マーティン・イェッター氏が社長就任直後であり、それにあわせて支社を新設したこと、日本IBMが創立75周年を迎える節目の年であり、それを記念するイベントと位置づけたこともあって、やや総花的な印象が否めなかった。しかし今回のIBMリーダーズ・フォーラムでは、個々の経営における課題に着目したイベントに位置づけ、経営革新や地域活性化といった課題に一歩踏み込んだ内容となっている。

IBM リーダーズ・フォーラム 2013 Spring 中部が開催された名古屋城に隣接するウェスティンナゴヤキャッスル
IBM リーダーズ・フォーラム 2013 Spring 中部の様子
日本IBMはフォーラムにあわせて名古屋駅構内でも広告を展開

テクノロジーがけん引するイノベーションの可能性を紹介

日本IBMのマーティン・イェッター社長

 フォーラムのテーマは、「経営変革―テクノロジーが牽引する新たな競争優位―」。テクノロジーがけん引するイノベーションの可能性を、先進事例を通じて、より具体的に考えるものとしている。

 特に、ビジネス成長に貢献するビッグデータ分析や、スマーター・コマース(顧客起点の商取引)、さらには、未来を開く先進技術に着目したセミナーやパネルディスカッション、技術展示を行ったのが特徴的だ。

 日本IBM 中部支社の福田弘支社長は、「テクノロジーがけん引するイノベーションの可能性を、先進事例を通じてより具体的に考えものにしたい」と語った。

 事前登録の定員となる200人は早々に満席となり、会場には、中部地域の企業の役員以上の経営者、団体代表者、地域の代表者などが参加した。

 午前10時から行われた同フォーラムでは、日本IBMのマーティン・イェッター社長が、「スマートな時代の競争優位」と題して講演。新たなテクノロジーが、さまざまな事業領域に大きな変革をもたらしていることを示しながら、高付加価値製品やサービスを通じたビジネスモデル変革の可能性について触れた。

 イェッター社長は、「ビジネスが変われば、ITの役割も変わる。いまはビッグデータが台頭し、新たなコンピューティングが求められている。これを今日、深堀りしていきたい。IBMでは、2年に一度、全世界の経営者を対象にしたCEOスタディを実施しているが、そこでは7割のCEOが、テクノロジーが競争優位の源泉になると判断し、最優先事項としていることがわかった。つまり、ITこそが競争の源泉であり、CEO、CIOだけでなく、マーケティング担当のCMO、財務担当のCFOも、ITに関心を寄せているのが現状だ。ITがビジネスモデルの変革において、これまで以上に重要な意味を持っている」と切り出した。

 また、イェッター社長は、ITを取り巻く環境変化を数字の面から示してみせた。

 インターネットに接続されるデバイスは、毎年40~42%増加。2017年には1兆個のデバイスがインターネットに接続される。また2020年には、毎日4500億件のビジネス取引がインターネット上で行われることが予想されており、こうした動きによってより多くのデータが生まれることになる。その量は、2011年には1.8ZB(ゼタバイト)のデータが生成されたのに対して、2015年までに40倍になるなど、速度はさらに増し、非構造化データが爆発的に増加するのだという。

 そして2015年には、8割のデータが、信頼性がない不確実なデータであることも指摘。「信頼性のある情報にするには規範が必要であり、さらに正しい洞察を行うためのアナリティクス技術が必要である。データは新たな天然資源ともいえるものである。日本やドイツといった国は、天然資源に恵まれた国ではないからこそ、データの利用こそが重要だといえる」などと語った。

新時代の勝者になる大原則は?

 また、「新たなコンピューティングモデルの時代であるスマーター・コンピューティングの時代において、勝者になる大原則はなにか」とし、イェッター社長は、3つの観点から話をはじめた。

 まず、「ひとつは洞察が原動力となる。予測型のアナリティクスによって、意思決定を行うこと。過去の経験からは正しい意思決定ができない可能性が高くなる。アナリティクスによってデータを洞察や知識に変えることができれば、よりよい意思決定ができ、競争上優位になる」と切り出す。

 そして2つ目としては、「ソーシャルネットワークが、新たな生産ラインになるということ。情報の共有し、洞察を行い、いつでも質問を投げることができる。さらに、ソーシャルネットワークは、今後、使い方が変わり、製品やサービスについて議論され、それが影響力を持つようになる。つながり方はまるで社員が3倍に増えたかのような形になる。製品やサービスに対して、人々はどう考えるかといったことを知ることができる」と述べた。

 最後の3つ目については、「価値はマスマーケットや市場に対して作られるのではなく、個人に対して作られるものになるということ」だと指摘。「これまでの集団を対象にしたマーケティングは幅が広すぎた。個人のニーズにあわせて提供するといったパーソナライズが必要になる。これは緒に就いたばかり。だが、将来のマーケティングは個人にあわせたテーラーメードになっていく。IBMではこれをスマーター・コマースと呼んでいる」(イェッター社長)と説明する。

 続けてイェッター社長は、IBMが継続して力を入れている「スマーター・コンピューティング」について、説明をはじめた。

 「IBMは、過去5年の間に企業や都市、コミュニティなどと協業することでスマータープラネットを構築してきた。すでに1000を超えるプロジェクトが成功裏に進んでいる。ビッグテータによって仕事の仕方が変わり、意思決定が変わり、お客さまへのサービスの仕方が変わるといった例が出ている。こうしたなかで、IBMは、新たなコンピューティングモデルの構築に取り組んでいる。これは、データを念頭においた設計になっていること、ソフトウェアによって定義されるサーバー、ストレージ、ネットワーク環境であること、オープンであり、広くコラボレーションできる柔軟性を持ったもの、という3つの属性がある。それに向けて、常に新たな技術を適用していくことが大切である」と語った。

 最後にイェッター社長は、「今日、IBMが提供するテクノロジーによって、中部地域に対して、なにが可能になるのか。ビジネス変革はなにか、ビジネス・アナリティクスをどう活用するのかといったことを議論したい」と述べ、講演を締めくくっている。

テクノロジーを生かしたIBMの先進事例を紹介

日本IBMの研究開発担当 久世和資執行役員

 続いては、日本IBMの研究開発担当・久世和資執行役員が、「先進テクノロジーによるビジネスの変革」をテーマに講演。「テクロノジーがビジネスにどう活用されるのかをお話したい」と切り出した。

 クラウド、モバイル、ソーシャル、そして、自動車や家などがつながるモノのインターネットが広がりによって、ビッグデータが登場。それを価値のあるものとして利用するといった新たなパラダイムシフトが起こっている。

 ただし、「大量のデータのなかから価値のある情報を取り出すという点で、カリフォルニアでのゴールドラッシュで砂金を探しだすのに似ている。これを人海戦術でやるのではなく、技術を活用してビジネスのスピードに遅れないように取り出すことが必要」との店を指摘。「IBMの研究所では、Smarter Planetに向けたソリューション、アナリティクス、ミドルウェア、ソフトウェアで構成可能な環境(Software Defined Environment)、サイエンス&テクノロジーといった5つの要素から、ビッグデータが持つ課題解決に取り組んでいる」と語った。

 また、IBMの技術を活用した具体的な導入事例として、久世執行役員は、いくつかの例を示す。

 例えば日本海事協会では、IBMのANACONDAと呼ばれる技術を活用し、3000隻の1200~1300個のセンサーをデータから収集、分析することで異常を事前に検知し、保守性や安全性を高めていることを紹介。

 またIBMのコールセンターや金融機関のコールセンターにおいて、音声認識技術やテキストマイニング技術を活用して、一日5000時間の録音した通話内容を翌日の業務が始まるまでにすべてを分析。コールセンター業務の効率化と適切な情報提供による顧客満足度の向上を実現したことも例として挙げる。

 さらには、ある自動車メーカーで、15カ国語に対応したテキストマイニング技術を活用し、80万件のソーシャル情報を収集、分析することで、潜在的課題の早期発見や顧客満足度の向上、他社製品に対する競争力強化、品質改善などを可能にしたことなどを示したほか、IBMでは、世界最高速のトランザクション処理を可能とする製品を持っており、証券分野において、1秒間に7000万レコードアクセスを実現していたことも紹介している。

ショッピングの新たな形として場所や時間、方法に縛られない買い物手法を紹介
企業内外からビッグデータを収集、分析することで、コンシューマの傾向などを分析する
業界ごとのビッグデータ分析の事例も紹介。生産設備やプラントの保守時期の予知をパーツの耐用年数だけでなく、気象や使用環境、修理実績などから導き出す
垂直統合型システムである「IBM PureSystems」も展示していた

 一方では、Watsonの技術がビジネス分野で活用されはじめたことを紹介した。コグニティブ・コンピューティングによって、医療分野での診断支援、金融分野における投資意思決定支援、法務分野での弁護・検察論述の示唆、テレマーケティング分野での説得力を持つコールセンター分野での活用などが見込まれるという。

Watsonを進化させ、新たな思考メカニズム「Watson Paths」を搭載。医療分野において、大量のデータをもとに症状から病気な治療法の仮説立案と検証を行う

 久世執行役員は、IBMの研究所についても説明した。「IBMは長年8つの研究所で研究開発を進めきたが、2010年以降、天然資源に対するIT活用を行うブラジル、ライフサイエンスを研究する豪州、ハイパフォーマンスコンピューティングの開発を行うアイルランド、アフリカ初の研究所となるケニアの4つの研究所を新たに追加した。このほかにソフトウェア、ハードウェアなどの開発を行う50以上の研究所が全国にある。全体で5万人の研究者が在籍し、6000億円のR&D投資を毎年行っている。こうした組織体制が、世界の先進技術をリードしている」とのこと。

中部地域を活性化させるにはどうするか?

 その後、パネルディスカッションとして、中部経済連合会名誉会長であり、中部電力相談役である川口文夫氏、貝印の遠藤宏治社長、日本IBM 中部支社長の福田弘氏が参加。中部経済産業局の山本雅史局長がモデレーターとなり、「Changing the game ―勝ち続けるための条件―」をテーマに、議論を行った。

 パネルディスカッションの冒頭、中部経済産業局の山本雅史局長は、「いまは本格的な景気回復に向けて気が抜けない局面にある。変化が激しい環境のなかで、日本の企業としていかにして勝ち続けるか、中部地域を活性化させるにはどうするかといったことに議論したい」とした。

左から、モデレーターを務めた中部経済産業局の山本雅史局長、中部経済連合会の川口文夫名誉会長、貝印の遠藤宏治社長、日本IBM 中部支社長の福田弘氏
モデレーターを務めた中部経済産業局の山本雅史局長
中部経済連合会である川口文夫名誉会長

 中部経済連合会の川口名誉会長は、「最近の経済環境は上向きになってきた。中部経済連合会の加盟企業を対象にした調査によると、昨年10~12月は落ち込んでいたが、今年1月~3月は景況感がプラスに転じている。この継続が今後の課題。中部地域は製造業が盛んな地域で、全国平均の18%に対して、30%を製造業が占め、さらに輸出割合が高いということもプラスになっている」との現状を紹介。

 「中部経済連合会の加盟企業を対象にアンケートをとった結果、世界で勝つため課題はなにかという質問に対しては、ビジネスモデルの変革の遅れ、政治のイノベーションの停滞、マーケティング力や情報収集能力不足、社内意思決定の遅さなどがあがっている」とする。

 中でも、ビジネスモデルの大胆な変革が必要と指摘した川口氏は、「どの企業でも、どの行政でも硬直化している。タスクフォースを組んで柔軟に変革していく必要がある。中部地区は、製造業が中心となる地域であり、そこでの成功体験があるが、それにおごらず、これまで以上にITを駆使して乗り切っていくことが必要である。企業はボーダーレスで世界に出て行く。そのためにはITを駆使していく必要がある。いま、活用されているような情報技術のベースは、1986年には出来上がっている。だが、いまだにそれが活用されていない。これから活用のフェーズに入っている。ITの活用によって競争力強化と、新たな技術、製品、サービスが創出できるようになる」などと述べた。

 また、「中部のモノづくりの伝統を生かしながら、今後、成長していくには、中部が得意とする次世代自動車産業、航空宇宙産業、医療分野といった領域において、成長の兆しが見えたこのチャンスを生かし、継続して成長する仕組みをつくることが必要。産学連携しながら取り組んでいく必要もあるだろう。人材投資も怠ることなく実施する必要がある」と述べ、人材面での取り組みが必要との考えも示している。

貝印の遠藤宏治社長

 一方、貝印の遠藤社長は、「貝印は、もともとは日本での売上高が8割を占めていたが、いまは4割になっている。また、多くの人が認知しているカミソリの売上高構成比は約3割となっている」と現状を示しながら、「ビジネスモデルの変革が必要なのは、同質化競争に陥らないため。同質競争に陥ると価格競争になる。それに陥らないためには、モノとコトの同時進行が必要である。プロダクトアウトとマーケットインの両方から攻めていく必要がある」との点を指摘する。

 そのために、「日本の文化は緻密(ちみつ)であり、目が行き届き、これらがひとつのストーリーとなって世界の人に受けいれられている製品、サービスが増えている。こうした日本らしさをビジネスモデルのなかに埋め込んでいくことが必要である」との考えを示すとともに、「プロセスの見える化も日本のなかで突き詰めていくことが必要である。こうしたことが中部地域の発展にもつながる。中部にはモノづくりに優れた企業がある。こうした企業同士が協業することも必要であろう」などと語った。

 また、遠藤社長は、社内で「ノイラートの船」という話を常々していることに触れ、「ノイラートの船は、母港を出航すると2度と帰ってくることはない。乗組員が修復して航海が進むようにする。乗組員自らがシステムを作って、これを良くしていこうというもの。当社も同じような姿勢で経営を進めている」とした。

日本IBM 中部支社の福田弘支社長

 日本IBM 中部支社の福田弘支社長からは、「IBMは、1990年代にはハードウェアの会社であったが、PC事業やプリンタ事業の売却を行い、サービスの会社に変革した。そして、これからも大きな変革をしていく。お客さまの変革を支援するには、われわれ自らの知見を活用し、製品、サービスを配備することになる。ITは効率化やコスト削減といった使い方から、将来を予測して、経営のイノベーションを支える機能を果たすことになる」との考えが示されている。

 なお、パネルディスカッションの最後に山本局長は、「日本の企業、そして中部地区の企業は、これからグローバルなマーケットに踏み出していかなくてはならない。その航海図はITによって示されている。そして、ノイラートの船のような意識を持って取り組んでいく必要がある」と、貝印の遠藤社長の言葉を引き合いに出しながら、締めくくった。

 そのほか、同フォーラムでは、「データ分析がもたらす新しい価値創造」をテーマに、千趣会マーケティングサポート代表取締役の中山悦二郎氏や、日本IBMで管理部門を担当するブライアン・ジョンソン取締役専務執行役員、同ビジネス・アナリティクス&オプティマイゼーション パートナーの松山雅樹氏が、千趣会や日本IBMでのBAO活用事例を紹介。

 また、「個客時代の新しいコマースとマーケティング」と題して、良品計画WEB事業部ショップ運営担当課長の枚田正章氏、日本IBMでマーケティング&コミュニケーションを担当するジョン・ロビソン専務執行役員、日本IBMグローバル・ビジネス・サービス事業スマーター・コマース担当パートナーの浅野智也氏が、IBMが提唱する「スマーター・コマース」を軸とした事例を紹介した。

(大河原 克行)