シンプル化とスケーラビリティがビッグデータ活用のカギ - 日本HP、SAP HANA対応のスケールアウト型製品を発表


 日本ヒューレット・パッカードは6月28日、同社のx86サーバ「ProLiant」をベースにSAPのインメモリデータベース「SAP HANA」を搭載した「HP AppSystem for SAP HANA」シリーズの新製品として、スケールアウト型ソリューション「HP AppSystem for SAP HANA Scalable XL」の国内提供開始を発表した。世界ではじめてブレードサーバにHANAを搭載したアプライアンスとなる。

山中伸吾氏馬場渉氏

 日本HP エンタープライズサーバー・ストレージ・ネットワーク事業統括 サーバーマーケティング統括本部 製品戦略室 室長 山中伸吾氏は「我々の事業の根幹はインフラストラクチャ。そしてHPとSAPの製品は非常に相性が良い。サーバもネットワークもストレージもひとまとめに管理できるHPのコンバージド・インフラストラクチャの上にSAP HANAを載せることで、シンプルでスケーラブルなビッグデータ活用環境を提供できる」と語る。

 HP AppSystem for SAP HANA Scalable XLは、Intel Xeonプロセッサが搭載されたブレードサーバー「HP ProLiant BL680 G7」をベースに構築されたHANAアプライアンス。OSにはSLES11が採用されている。最大4ラック/16ノード、プロセッサは最大64CPU/640コアまで、メモリは8TBまで拡張可能となっている。サーバーだけでなく、ストレージやネットワークもオールインワンとした設計で、HPが提唱するITのシンプル化を目指した“コンバージド・インフラストラクチャ(Converged Infrastructure)”を反映した構成となっている。「インフラ屋としてのノウハウを注ぎ込んだ設計。ユーザは電源を入れるだけでいい」(山中氏)という導入の容易さも特徴のひとつだ。

 同製品は注目度が高まるビッグデータ市場をターゲットにしたもの。山中氏は「現在はビッグデータ活用前夜とも言える段階。ここで準備をきっちりと行った企業がビッグデータ活用に向けて離陸できる。ビッグデータ活用に必要な準備とはシンプル化とスケーラリビリティの確保」と語り、HP AppSystem for SAP HANA Scalable XLが「離陸のための滑走路を整備する製品」だと強調する。

製品特徴製品ラインアップ

 シンプル化については「日本企業のIT環境は、とくにデータベース周りが複雑になりすぎている。データの揺れも発生するし、不整合も起こりやすい。またあちこちに分散しているのでパフォーマンスも良くない。ITのシンプル化こそがビッグデータの活用範囲を拡げる」としており、コンバージド・システムの発想がビッグデータ活用に生きてくると語る。また、もうひとつのポイントであるスケーラビリティに関しては「スケールが必要なのは単なる規模の拡張ではなく、分析対象のデータが増えるということ。どのようなデータが増えても対応できるアーキテクチャであることが望ましく、また製品の進化とともに対応できるインフラでなくてはならない」と山中氏。

 ゲストスピーカーとして登壇したSAPジャパン リアルタイムコンピューティング事業本部長 馬場渉氏も山中氏と同様、日本企業のIT事情について「“ビッグデータ活用前夜”なのにとても活用できる状況にない。日本企業のIT、とりわけデータベースシステムを海外の人間が見ると、あまりにも複雑すぎて誰もが驚く。なぜこんなに複雑化するのかというと、日本の政治と一緒で“統合”というビジョンが欠けているから。分割や複製は好んでやるが、統合しようとすると部門間の調整が必要なので、ひどく嫌がる。結果として限りなくシステムが分割され、ここまで必要なのかと思えるほど、部門ごとに最適化されたきめ細かい過剰品質のシステムが生まれる」と指摘する。

 HP AppSystem for SAP HANA Scalable XLが注目されるのは、HANAの次バージョンであるHANA SP5をにらみ、OLTPとOLAPをひとつの筐体で実行できる設計である点だ。HANA SP5では“SAP ERP on HANA”も実現すると言われており、言葉通りであれば、データ分析とERPが同時に動くアプライアンスとなる。HANA用ストレージが用意されているだけでなく、外部アクセス用とは別にストレージ専用のネットワークも提供されており、ミッションクリティカルなERPもスムースに移行可能だという。「OLTPとOLAPを無理やりひとつの筐体で実現させたわけではなく、一緒に高速に動かす仕組みをHANAで実現する。OLTPとOLAPをひとつにするのは無理と言われてきたが、これはもはや解決可能な問題」と馬場氏。すでに現バージョンのSP4では、伝統的なBI、予測/計画、解析/シミュレーションといった3つの分野で別々に構築されることが多いOLAPをすべて統合できるが、SP5ではこれに加えてOLTPも可能にする。

 「HPとSAPは最高に相性の良い組み合わせ」と山中氏。その理由として、SAP社内のSAPシステムがHPのハードウェア上で実現していること、世界中に出荷されているSAPシステムの46%がHP上で動作していること、20年以上のパートナーシップで7万7000を超えるインスタンスを販売してきたことなどを挙げる。加えて「ミッションクリティカルなOLTPを動かすためのインフラ設計はHPが最も得意とするところ。HANA SP5の進化にも十分対応できる。SAPがこれから何をしたいのかをHPは理解している。HP AppSystem for SAP HANA Scalable XLはHANAとともに成長していくシステム。そしてその用途はSAP ERPだけにとどまらない」と語り、将来的にはSAP ERP以外のシステムの統合データベース基盤としても利用可能であると示唆する。

 「ビッグデータはあと2年で間違いなく消え去るバズワード」と馬場氏。それはデータが少なくなるからではなく、膨大なデータを処理することが企業にとって当たり前になるからであり、だからこそ「2年以内にビッグデータ活用の準備を整えた企業が強くなる」(馬場氏)と断言する。シンプル化とスケーラビリティを掲げ「きれいな形でビッグデータを活用」できるというHP AppSystem for SAP HANA Scalable XL。年内にも登場予定のSAP HANA SP5を搭載したときのOLTPとOLAPの同時稼働の実現にも注目していきたい。

 最小構成価格は6937万2000円から。

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(五味 明子)
2012/6/29 09:48