日本IBMが2011年の方針を発表、クラウドやBAO、メインフレームにフォーカス


 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)の橋本孝之社長は8日、2010年度(2010年1月~12月)の取り組みを振り返るとともに、2011年度(2011年1月~12月)の事業計画などについて明らかにした。また、神奈川県大和市にある、日本IBMの研究開発部門の新たな役割についても言及した。

 

2010年は新規ビジネス拡大とパートナーシップ強化に取り組み、クラウドも伸長

橋本孝之社長
2010年の方針
2010年の成果

 橋本社長は、2010年度を振り返り、「『真のTrusted Partnerになる年に』を掲げ、良き企業市民としての社会的責任をベースに、自由闊達(かったつ)な企業文化の醸成、お客さまへの価値創造をリード、新規ビジネス拡大とパートナーシップ強化に取り組んできた」と前置き。

 その上で「専務取締役のポール与那嶺を筆頭に、55人の部長級以上の外部採用を進めた。コンサルティング会社出身者が約半分、ユーザー企業や政府などからが約半分。業種や業務の専門家を採用することで、お客さまを深く理解することができる体制を構築した。また、6カ月間に渡る海外短期派遣プログラムを、80人以上を対象に実施。海外経験により、スキルを高めることができた。一方で、北九州における、スマートコミュニティの実証実験への参画によるスマーターシティへの取り組み、グローバリゼーションを支援する7つのソリューションを定義したことによるスマーターエンタープライズの取り組みを推進することで、スマータープラネットに関するアセットを構築することができたと考えている」とした。

 さらにクラウドへの展開については、「2010年1月に、社長直轄のクラウド専門組織を設置し、3カ月ごとに倍々で伸びている。デスクトップクラウドの進展が順調であり、データセンターに情報を集約し、シンクライアントで活用するといった提案が増えている。また、テスト環境で活用する開発クラウドに対する需要も大きい。ピーク時にあわせて導入するのではなく、オンデマンド型で利用することができるメリットが評価されている」などとした。

 そのほか、zEnterprise、POWER 7、Storwiseといった製品の投入や、SPSSやInfoSphere Stream、Cognos 10といった買収したソフトウェア製品群の拡充、理事以上をリーダーとした6つのお客さま専任組織の設置、1000人以下の企業を対象にしたビジネスを行うパートナーを支援するためのパートナー&広域事業の新設、他社に技術などを供給することで協業を促進するアライアンス事業部を新設したことなどに言及。

 「BAO関連の品ぞろえを強化したこと、1000人以下の企業に対しては日本IBMは直接営業をしないという体制を明確にしたことで、よりわかりやすい体制となった成果があがっている。アライアンス事業部による協業ビジネスは2けたの成長を遂げている」などとした。

 一方、2011年の事業方針としては、「真のTrusted Partnershipを、進化・深化させる年に」を掲げ、これを、「2010年度の取り組みをより前に進めるものとする。軸は変えない」と位置づけた。


 

4つのテーマは2011年も継続

 事業方針における、4つのテーマについては、2010年から変更しなかった。

 「自由闊達な事業風土の育成」では、グローバル人材の育成、社員満足度・お客さま満足度の向上への自発的な取り組み促進、サービス部門のスキルと生産性の強化を挙げた。

 「グローバル人材の育成」では、「海外短期派遣プログラムにおいては、80人以上を派遣。これまでの先進国への派遣だけにとどまらず、3分の1程度を、中国、インド、南米、アフリカといった新興国へ派遣し、早いうちに500人の社員が海外勤務経験者としたい。同時に新興国のIBM社員を受け入れることも行う。一方で、入社10年以下の社員による、社員満足度向上に向けた提言を受ける予定であり、ジェネレーションという観点からのダイバーシティにも取り組む。また、私自身も、できるだけ自分の声で社員と直接話をする場を設け、今年中に2万5000人の日本IBMの社員に、直接顔をみせたい」などとした。

 さらに、プロジェクトマネージャー、ITスペシャリスト、アーキテクトの育成強化、アプリケーション開発の標準化、工場化と、開発環境のクラウドへの移行促進に取り組む姿勢をみせた。

2011年の方針2010年の成果

 

メインフレーム事業をドライブする年に

「お客さまへの価値創造をリード」における重点項目

 「お客さまへの価値創造をリード」では、Smarter Planetのさらなる推進、お客さまの業務とIT基盤をスマート化する製品事業の強化、クラウドおよび高度な情報解析(BAO)のソリューション拡充を掲げる。

 「スマーターシティは、アセット化からリアルビジネスに展開する時期に入ってきた。公共事業にスマーターシティ推進を約10人規模で新設し、自治体や他業種企業とのパートナーシップを拡充することで、都市のスマート化を推進する体制の強化を図る。さらに7つのソリューション責任者とグローバル・ソリューションCTOを任命し、真のグローバル企業への変革によるスマート化を支援する。一方で、メインフレームを活用したインフラ統合の提案強化や、販売活動のスマート化を支援するソフトウェア製品ポートフォリオを拡充する」などとした。

 特に橋本社長は、「今年はメインフレームにフォーカスする」と宣言。「メインフレームは、米IBMの第4四半期実績でも前年同期比69%増という実績に達しており、ビジネスを加速するためにメインフレームを活用するという動きが出ている。欧米の企業では、メインフレームの投資コストが高いという認識はなく、数1000台のサーバーを、数10台に統合することで、データセンターが不要になる、あるいは省電力化が図れるという実績が出ている。SAPユーザーがメインフレームに統合したことで、47%の電力削減、36%の設置スペースの削減、管理工数の大幅削減という結果が出ている。これらの案件では、zOSを利用するというのではなく、JavaやLinuxを利用するもの。旧来型の売り方ではなく、新たな時代のメインフレームの売り方を推進していくものになる。日本IBMとしても、メインフレーム事業にドライブをかけたい」などと語った。

 日本IBMの具体的な業績については公表されていないが、「第1四半期(2010年1~3月)は厳しい状況にあったが、第2四半期以降はダッソー社の売却を除けば、実質的にはプラスになっている。2010年4月以降は、成長軌道にあり、さらに成長していく必要がある」などと語った。

 クラウドおよび高度な情報分析ソリューションの拡充では、今年3月に、日本国内にデータセンターを開設して、パブリッククラウドサービスを立ち上げる計画であるほか、クラウド関連ソフトウェアを相次いでリリースすること、さらに、IFRS対応をはじめとして業種別クラウドへの注力することなどを示した。また、BAOでは、短期成果型オファリングの拡充、業種別ソリューションの展開に取り組むとし、「BAOは、近い将来には、ERPよりも市場規模が大きくなると考えている。一昨年から基礎的部分の整備を行い、昨年から新たなソリューションとして品ぞろえを進めてきた。今年はドライブをかけたい」とした。

「新規ビジネス拡大とパートナーシップ強化」における重点項目

 「新規ビジネス拡大とパートナーシップ強化」では、地域担当役員の配置、グローバルIBMにおける日本IBM研究開発部門の新たな役割の2点を掲げ、「2011年1月から、福岡の拠点に初めて地域担当役員を設置した。4月から、地域軸で、各地域のニーズにあった支援を行いたい」などとしたほか、「かつては、大和研究所として、ThinkPadやストレージの開発などグローバルミッションを担当していた時代があったが、しばらくの間、グローバルをリードする日本の研究開発テーマがなかった。今年から、グローバルをリードするものに取り組んでいくことになる」と語った。


研究開発部門の新たな役割とは?

日本IBMの研究開発部門の新たな役割
7つの重点分野

 日本IBMの研究開発部門の新たな役割については、日本IBM 開発製造担当執行役員の久世和資氏が説明した。

 新たな役割として、医療や交通、エネルギー分野におけるソリューションプロダクトを、複数のIBM製品やパートナー企業の技術を活用して開発する「Smarter Planetソリューションの中核開発拠点」、自動車、原子力、医療機器などの先進企業の技術やノウハウを活用したソリューションの共同開発に取り組む「日本のお客さま/パートナーと共同でソリューションを開発し、世界に展開」、成果をアジア、インド、中国、ASEANなどに展開していく「新興国をはじめ、全世界でのビジネス創出を支援」の3点を挙げる。

 具体的には、7つの重点分野があるとして、ソリューション分野では、インテリジェント交通システムに代表される「交通システム」、エネルギー管理やスマートグリッド管理、エネルギー・サービスなどの「エネルギー」、医療情報の管理・分析、診断支援、医用画像処理といった「医療システム」、製造業における設計と製造の最適化による「設計・製造エンジニアリング」の4つ。テクノロジー分野では、大容量文書、画像の保存、管理、検索の「データ・アーカイブ」、PCやスマートフォン、スマートメーター、バッテリーなどのネットワークに接続された機器の制御と管理による「被ネットワーク接続物(エンドポイント)管理」、シミュレーションとデータ分析による「アナリティクス&PC」の3つを挙げた。

 「日本が世界的に進んでいる領域で、日本の企業とのパートナーシップにより、世界に展開していく研究開発を行う。また、世界中の研究、開発ラボのアセット、技術を活用していくことで、成果を早期に具体化していきたい」と、久世執行役員は語った。

 最後に橋本社長は、「IBMは、今年100周年を迎える。1911年に、秤と穿孔機、タイムレコーダーの会社がひとつになり、コンピューティング・タビュレーティング・レコーディング(C-T-R)社として設立し、その後、20年に1回、戦略を大きく変えて、100年間成長を遂げてきた」とし、「今年は、40万人の社員が1年間に8時間、社会貢献活動を行い、100年の感謝を示すことになっている」と語った。

 なお、日本IBMは、来年には設立75周年を迎えることになる。

2011年は、IBMの創立100周年にあたる
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