「クラウド」で1000億円、「グローバル」で1000億円~NECのITサービス事業戦略


ITサービスビジネスユニット取締役 執行役員常務の富山卓二氏

 日本電気株式会社(以下、NEC)は13日、ITサービス事業説明会を開催。ITサービスビジネスユニット取締役 執行役員常務の富山卓二氏が、事業概要、基本方針、重点事業戦略などを説明した。

 ITサービス事業では、コンサルティング・システム構築・運用・保守・アウトソーシングまで一貫したサービスを提供している。従業員数は約3万7000人、子会社数は国内29社・海外28社。2009年度の業績は減収増益となったが、2010年度は「成長に向けたお客さまの投資を確実に取り込み、SIの収益体質を強化し、増収増益を目指す」(富山氏)という。

 また、今後の市場機会としては「クラウドサービスの利用拡大」「接点デバイスから得られる情報活用の拡大」「新興国における旺盛なIT需要」を挙げ、「2011年以降プラスに転じる景気回復期の投資を捉えること、また新興国、特にアジア太平洋地域での成長機会を捉えることが重要だ」(同氏)とした。

ITサービス事業の業績推移新たな市場機会での提案・提供事例



「クラウド」と「グローバル」が今後の成長のカギ

今後の事業展開の基本方針

 今後の基本方針は、「国内15万のお客様と連携した事業展開」「業種別SIサービスによるグローバル事業拡大」。前者では「コアであるSI事業のさらなる強化とともに、NECらしいクラウドサービス事業を拡大する」とし、後者では「クラウド指向データセンター(CODC)を5極で立ち上げる」(同氏)という。

 これら「クラウド」や「グローバル」が今後の成長のカギとなる。具体的には「クラウドサービス事業の強化」「グローバル事業の強化」「SI収益性向上への取り組み」の3点を重点事業戦略に掲げる。


クラウドサービス事業の強化

クラウドサービス事業の実行体制

 重点事業戦略のうち「クラウドサービス事業の強化」では、「既存システムからクラウドへの移行を段階的に支援。ライフサイクル全般にわたるサービスを提供していく」(同氏)。

 具体的には、NECのSI力が生きる業務アプリケーション領域に着目し、「SaaS」「共同センタ型」「個別対応型」の提供モデルを推進する。IaaS/PaaSは必要に応じて、プライベート型で個別対応するという。これらを基に、「基幹業務領域への適用」「新たなビジネスの創造」「中堅・中小向けワンストップサービス」に注力していく。

 実行体制としては、SE部門で2012年度までに1万1000名体制を整え、営業部門で業種別のサービス・ソリューション事業部門と密に連携した「クラウド拡販チーム」を設置。企画部門では、10月1日付けで設置した「クラウド戦略室」と、各事業部門に配置した約350名のクラウド担当者の連携を進めていく。

 注力点を個別に見ると、「基幹業務領域への適用」では、「NECグループ12万人を支える基幹システムをクラウド化し、その実践・実績を基にお客さまへサービス提供する」(同氏)。一例として、プライベート型のグローバル標準経営システムを2年半で立ち上げ、2010年10月より稼働を開始した。顧客向けにも、すでにエクセディにグローバル会計システム「クラウド指向経理サービス」を提供しており、10月7日には総合建設業4社と協業し、建設・土木業向け基幹業務クラウドサービスも共同発表している。

基幹領域への取り組み基幹領域での実績

 「新たなビジネスの創造」ではほかにも、住友林業や住友生命、KDDIなどと新ビジネスモデルを検討している。「今後もアプリケーション・サービスプラットフォーム・ネットワーク・端末・接点デバイスなど豊富な商材を生かしたクラウド基盤を提供し、環境クラウドやヘルスケアクラウドなど、新領域へチャレンジしていく」(同氏)とした。

お客さまとの協業による新ビジネス創造例KDDIとのモバイルクラウドサービス

 また「中堅・中小向けワンストップサービス」では、主にSaaSのメニューを拡充する。すでに基盤・フロント・基幹業務まで、50種類の幅広いラインアップをそろえており、これらをワンストップに提供する。パートナー支援でもNECネクサと200名体制の「NEC SaaSパートナープログラム」を運営し、SaaS事業早期立ち上げや開発・拡販を支援していく。

中堅・中小企業・団体への取り組み幅広いSaaSをそろえ、ワンストップに提供



グローバル事業の強化

 「グローバル事業の強化」では、日系企業向けに業種ソリューション事業を中華圏・APACを中心に展開。日系企業の海外進出を支援するため、日本発ソリューションの現地適用を進めるほか、現地発でのソリューション創出に力を入れ、両展開モデルを組み合わせていく。

 また、指紋認証システムを軸としたパブリックセーフティ領域におけるグローバル展開も図る。すでに30カ国以上に200社以上のバイオメトリクスソリューションを導入しているが、「今後さらに、市民IDやフィジカルセキュリティ領域まで水平展開し、大規模な社会インフラ領域を開拓していく」(同氏)。

 ここで重要となるのが、中華圏・APAC・EMEA・北米・日本の5局に展開するCODC事業の立ち上げだ。「現地の有力パートナーとのアライアンスも視野に、SIベースのソリューションをサービス化し、これと事業の現地化に向けたソリューション体制を連携させ、グローバル統合サービスの面展開を図る」(同氏)という。

 8月31日にはCODC5極体制の第1弾として、東軟と新会社「日電東軟信息技術有限公司」を設立した。これを皮切りに、APAC・EMEA・北米へと順次展開する方針。

現地発ソリューションの事例パブリックセーフティ領域におけるグローバル事業の拡大



SI収益性向上への取り組み

 3つ目の重点事業戦略「SI収益性向上への取り組み」では、「SI事業のイノベーション」を進める。「2004年度からの“守りのSI革新”、2008年度からの“攻めのSI革新”により、不採算プロジェクト額を半減、SI原価を1割強低減できた。これをさらに進化させ、次世代開発環境『ソフトウェアファクトリ』の導入、SI革新成果のグローバル/サービス事業への展開などにより、SI事業のイノベーションを図る」(同氏)。

 特にソフトウェアファクトリの導入が肝で、開発物管理とプロジェクト管理をクラウドで導入し、自動化・手戻り防止・経費効率化などにより、工期3割短縮、原価2割低減を目指す。「2010年度下期から実プロジェクトで導入を開始し、2012年度にはNECグループ1万名以上で活用できるよう整備していく」(同氏)という。


「クラウド」で1000億円、「グローバル」で1000億円

事業成長は「クラウド」と「グローバル」で実現

 V2012達成に向けて、「クラウド」と「グローバル」で事業成長を目指すNEC。「クラウドでは、顧客のイノベーションパートナーとしてクラウドを活用した新事業を創出するほか、業界クラウドや異業種連携クラウドなどの広がりをとらえ、2012年度までにプラス1000億円を目指す。グローバルでも、現地発ソリューションとCODC5極体制によるサービス化でプラス1000億円が目標。さらにSI収益性の向上により、2009年度6%だった利益率を8%に引き上げたい。これらにより、中長期的にアジア地域でのITサービスのトッププロバイダを目指す」(同氏)とした。

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