東工大、最高性能2.4ペタフロップスを実現するグリーンスパコンを開発開始

今年11月の稼働に向けNECやHPなどの企業連合と協力


東京工業大学 理事・副学長の伊澤達夫氏

 東京工業大学は6月16日、学術国際情報センターが中心となり、日本電気株式会社(以下、NEC)と米国ヒューレット・パッカード(以下、HP)などの企業連合と合同で、今年11月に日本初のペタコンとして稼働予定のクラウド型グリーンスーパーコンピュータ「TSUBAME2.0」の開発を開始したと発表した。

 また、これを機に、北海道大学および国立情報学研究所とともに、革新的な省エネ型スパコン技術の開発を目指し、大規模実証研究を共同で行うことで合意した。

 今回開発を行う「TSUBAME2.0」は、2006年4月に国内最速のスーパーコンピュータ(以下、スパコン)として稼働し、4年以上にわたって東京工業大学および国内外の産官学の様々な研究開発を支えてきた「TSUBAME1.0」の後継機種となるもの。「TSUBAME1.0」の経験をもとに、学術国際情報センターが中心となって2年間、高性能科学技術計算(HPC)のシステム構築研究を進めてきた成果を生かして、開発を進めるという。

 具体的には、最新型のGPU+CPUによるスカラー・ベクトル混合型アーキテクチャ、大容量SSD、クラウド仮想化など、数多くの最先端技術を採用することで、理論最高性能は2.4ペタフロップス(1秒間に2400兆回の浮動小数演算が可能)という世界最高レベルの計算性能を達成。

 TSUBAME1.0に比べて30倍、国内で現在最高速の日本原子力研究開発機構の新スパコンと比べても約12倍の性能を実現する。また、グリーンスパコンとして、性能を大幅に向上しながらエネルギー消費量はTSUBAME1.0と同等に抑えることで、30倍の電力性能比を実現し、PUE 1.28以下を目指すという。


TSUBAME2.0技術パートナーベンダー群TSUBAME2.0の性能向上TSUBAME2.0のノードアーキテクチャ

 東京工業大学 理事・副学長の伊澤達夫氏は、「スパコンは、計算性能ばかりに目がいくが、これからはCO2の削減に向けて、電力性能比も重要な課題になってくる。その意味でも、グリーンスパコンを目指すTSUBAME2.0の開発は大きな意味をもつだろう。また、従来のスパコンは、地球シミュレーターなど大規模演算をする目的で使われることがほとんどだが、TSUBAMEは大学内外で幅広い使われ方をしている。この点でも、TSUBAME2.0は、今までのスパコンとは一線を画すものになると自負している」と述べた。

 さらに、「TSUBAME2.0」では、“クラウド型スパコン”として、Windows HPC/Linuxなど複数OS、複数環境をサポートするほか、仮想化による様々なデータセンターホスティング機能をサポートしている。

 東京工業大学 学術国際情報センター 教授の松岡聡氏は、「TSUBAME2.0が提供する先進的な性能・機能は、今あるスパコンを単にカタログから選ぶだけでは実現不可能だ。東京工業大学 学術国際情報センターでのたゆまなき基礎開発への取り組みに加え、パートナーベンダーとの共同研究、共同開発の成果がTSUBAME2.0に結実した」と、TSUBAME1.0からの技術開発の積み重ねによって、世界最高クラスのグリーンスパコンの実現に至ったと説明する。

 「TSUBAME2.0」における主な技術パートナーベンダーの役割としては、NECが主幹・全体設計およびインテグレーション・クラウド管理、HPがノード開発・全体設計・グリーン、マイクロソフトがWindows HPC・クラウド仮想化、NVIDIAがFermi GPU(ベクトル)CUDA、VoltaireがQDR Infiniband Network、DDNが大規模ストレージ、インテルがWestmere&Nehalem-EX CPU(スカラー)、PGIがGPU用ベクトル化コンパイラを手掛けた。


NEC執行役員プラットフォームビジネスユニットITハードウェア事業本部長の丸山隆男氏日本HP 執行役員ESSプリセールス統括本部長の山口浩直氏マイクロソフト 業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏

 NEC執行役員プラットフォームビジネスユニットITハードウェア事業本部長の丸山隆男氏は、「TSUBAME2.0の開発にあたっては、GPGPUを搭載した高密度実装を実現したサーバーのシステム設計、およびマシンルームを含めたシステム全体での消費電力の低減を重点的に検討してきた。今後のシステム構築段階においては、クラウド・仮想化の分野で当社の技術を存分に発揮していきたい」と意欲を見せた。

 日本HP 執行役員ESSプリセールス統括本部長の山口浩直氏は、「TSUBAME2.0には、HPのブレードサーバーで培った高密度の実装技術、グリーンITに向けての省電力技術、水冷ラック、高効率電源、電源管理のための高密度センサーの応用技術などが利用されている。そして、TSUBAME2.0の最先端技術に特化した開発部隊による高度な技術力と、学術国際情報センターと当社開発部門との強力なパートナーシップによってTSUBAME2.0が具現化した」としている。

 また、マイクロソフト 業務執行役員最高技術責任者の加治佐俊一氏は、「当社では、5月17日にテクニカルコンピューティングイニシアチブを設立した。これは、テクニカルコンピューティングについて、“クラウドコンピューティングへの展開”、“並列処理プログラム開発の簡素化”、“新しいツールとアプリケーションの開発”という3つの中核分野に取り組んでいくもの。TSUBAME2.0の目標と、当社のテクニカルコンピューティングイニシアチブの目標は完全に一致していると考えている」とコメントした。

 東京工業大学では、「TSUBAME2.0」により、世界のスパコンの指標として用いられるThe Top 500での上位ランキングだけでなく、スパコンの省電力性能の世界ランクThe Green 500でのトップ、および実用的な科学技術計算で最も優れた性能を達成したグループに与えられるACM Gordon Bell賞の獲得などを目指す。

 今回、「TSUBAME2.0」の開発開始とあわせて、北海道大学、東京工業大学、国立情報学研究所の3機関が、スパコングリーン化技術に関する先端的な大規模実証研究を共同で行うための協定を7月に締結することも発表された。

東京工業大学 学術国際情報センター長の渡辺治教授

 この研究は、スパコンの省エネ化および低コスト運用において革新的な技術の開発を目指すもの。東京工業大学 学術国際情報センター長の渡辺治教授は、「第一の研究ターゲットとして、スパコンの電力削減および省エネ計算技術の研究に取り組んでいく。具体的には、熱密度が3倍にも変化したり、計算負荷が局所化するスパコンの状況をリアルタイムに把握して、集中冷却や熱負荷分散を行う技術の開発を目指す。また、第二の研究ターゲットとして、運用コストの削減にも取り組んでいく。大規模のスパコンは、常時メンテナンスを行うのが常識だが、この保守コストを大幅に削減できる技術開発を目指す。究極の目標としては、世界初のリモートで自律運用できるスパコンシステムを開発する」と、3機関による共同研究の計画を説明した。

 3機関の役割は、北海道大学が「リモート冷却技術」、東京工業大学が「自律運用技術」、国立情報学研究所が「スパコンネット運用技術」を担当し、3機関が連携しながら大規模な実証を行う共同研究を推進していく。


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